森と都市が支え合う新しい経済の循環が、長野県の木曽地域から始まろうとしています。
Tree to Green、ソルトターミナル、竹中工務店、丹青社の4社が、木曽地域の森林資源を活用した循環型経済の構築を目指す「木曽森林グランドサイクル構想」の中核事業として「シンゴーハン(仮)プロジェクト」をスタートさせました。4社が共同出資した株式会社ツミカサネがその運営を担います。
これまで「使い道の少ない木材」として扱われてきた小径木のカラマツ・ヒノキなどを活用して、建築・内装・家具に使える高付加価値な合板を生み出す工場をつくります。
役目を終えた廃校校舎が、森林資源の新たな価値創造と地域経済活性化の拠点として新しいスタートを切る。そんな森の物語が、いま木曽の地で始まります。
かつての学び舎が森の恵みを生かす工場へ。有効活用が難しい小径木を地域活性化のきっかけに
このプロジェクトの舞台となるのは、旧楢川中学校(塩尻市)と旧上田小学校(木曽町)。かつて子どもたちの笑い声に包まれていた2つの学校が、森林資源を都市で活用できる建材へと生まれ変わらせる特別な場所として第二の人生をスタートさせます。


日本の森林では今、戦後に植えられた人工林が収穫期を迎えています。しかし、間伐材や小径木(直径の細い木材)は、これまで建築用材としての需要が少なく、燃料用のチップにされるか、山に残されたままになることが多い「もったいない資源」でした。
「木曽森林グランドサイクル構想」は、そんな小径木にスポットライトを当てます。細い木でも、大根のかつらむきのように薄くむいて重ね合わせることで、建築・内装・家具に使える高品質な合板に変身。都市のオフィスビル内装や店舗のファニチャーとして活躍できるのです。
これは木曽の森林にとっても朗報です。小径木が売れることで、林業従事者の収入が安定し、適切な森林管理につながることが期待されます。さらに、花粉の多いスギ・ヒノキを、花粉の少ない苗木に植え替え、近年のアレルギー問題の解決の糸口にもなり得るといいます。

森と都市がお互いを支え合い、川下が「グランドサイクル」を自ら廻す
「森林グランドサイクル」とは、森林資源が都市で活用されることで経済が回り、その利益が再び森に還元されて健全な森林管理につながる、まさに森と都市が支え合う持続可能な循環の仕組みです。
今回は「木曽」だからこそ回るグランドサイクルデザインを提唱。木曽から都市部へ送られた合板は、オフィスビルの内装や商業施設のファニチャーとして人々の暮らしを豊かにします。そして、その収益が木曽地域に戻ることで、林業の活性化や雇用創出、さらには森林の適切な管理へとつながっていく。都市で働く人も、森で働く人も、みんなが幸せになれる仕組みづくりを目指しているそう。

さらに注目すべきは、第一工場となる旧楢川中学校が、単なる製造拠点を超えた役割を担うこと。
林業や木工に関わる企業や人材はもちろん、今までは山や森とのつながりの少なかった人までもが集まり、交流やイノベーションを生み出す「森林ハブ拠点」としても機能する計画です。
廃校の教室や体育館が、新しいアイデアや技術が生まれる場所として生まれ変わります。かつて子どもたちが学んでいた場所で、今度は森林業界の未来を切り開く大人たちが新しい学びを深めていくのです。

2026年秋の本格稼働に向けて、現在は施設の改修と製造ラインの設計が着々と進んでいます。原料調達や製造、販売などこれから解決すべき課題は多くありますが、稼働が始まれば、私たちの身近な場所にも木曽の森の恵みが届くようになるかもしれません。
カフェのテーブル、オフィスの壁面、ショッピングモールのベンチなど、そこかしこに使われている木材が、実は木曽の小径木から生まれた合板で、森林保全に寄与しているーー。
そう考えると、都市での何気ない日常が、遠く離れた木曽の森の持続可能性と直接つながっていることを実感できるはずです。
このプロジェクトは、地域資源には、必ず新しい価値を見出す方法があるということを示し、リジェネラティブな未来をつくっていきます。そして、それは、異なる立場の人々が手を取り合えば、ひとりでは不可能だった夢も実現できるということを見せてくれるのです。
シンゴーハン(仮称)プロジェクト
ティザーサイト http://shingohan.com
Text:アサイアサミ(ココホレジャパン)
取材協力:株式会社竹中工務店 まちづくり戦略室








