木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2026.02.19
木のものづくりで「できない」とは言いたくない。「推したい」木工職人会社アーティストリー・大西功起さんの野望とは
EXPO 2025 大阪・関西万博「JAPANマルシェ」停留所。関西電力が会場内に建てた会場内EVバス停。アーティストリーが木工を担当。

大阪・関西万博に行った方なら、あの不思議なバス停を覚えているかもしれません。これは木?木だな??どうやってつくったの?

​​六角形が連なったドーム。木のフレームに、黒いパネル。木肌のやさしさがあって、離れると「未来の巣」みたいに見える。いったい、どういう手順で、どれくらいの精度で、どうやって現場に運んで、どう組み上げたのか。そもそも、なぜ木でやる必要があったのか。

木の可能性がぐんと広がったものづくりを目の当たりにしました。

この制作を手がけたのが、愛知県春日井市の木工職人会社「アーティストリー」。名古屋駅から車で30分。住宅街の一角に構える工場では、5軸CNCという3次元加工機が、みんなの「木でこんなものをつくりたい!」を叶えています。

設計者が夢見た「木でもこんな建物をつくりたい!」を次々と実現していく会社といいたい。そんな会社のキーマン、アーティストリーの3DX木工である大西功起さんに会いにいきました。

大西功起 Atsuki Onishi
株式会社アーティストリー 取締役/木工サウナー

1985年三重県伊勢市生まれ。名古屋芸術大学卒業後、岐阜県高山市の柏木工株式会社にて、職人技術と生産管理を学ぶ。2015年、アーティストリーに家具職人として転職。翌年、会社で初となる5軸CNCオペレーターを任される。2019年、製造側の経験を活かし、新規営業開拓を担当。2021年、3D専門の部署を新設。2026年、取締役就任。

「木だ!」ってなるし、「木だった!」ってなる

「”SU”tools(ツール)」の生みの親、大西功起さんとキノマチラボの吉田敦さん。

キノマチウェブにとってアーティストリーは木の建築や内装、家具を発表するたびに注目していた会社です。そして、直接の関わりはキノマチラボと“SU” toolsをつくったことがきっかけでした。

キノマチラボの面々が森に行くようになって、製材されずに転がっている小径丸太の存在が気になり始めた頃。ラボの吉田さんが「丸太でこんなふうに切れないかな」と手で形を描いてみせたのが始まりです。

森に在るのがぴったりなSU tools。

「木そのものの姿を感じさせたい」。重さ、香り、年輪の表情。そんな「素」のままの魅力を活かしたプロダクトができないか。キノマチラボの変態的なわがままを、大西さんは「面白いですね」と引き受けてくれました。

できあがったのが「”SU”tools(ツール)」。1本の丸太を5軸CNCで削り、双子のスツールを生み出すプロダクトです。歩留まり90パーセント。製材価値が低いとされてきた小径丸太に、最小限のデザインで最大限の価値を与えるキノマチ的スツールに。2024年、このスツールはウッドデザイン賞を受賞しました。

大西さん「年輪をこういうふうに見ることって、なかったじゃないですか。「座ると『木だ!』ってなるし、2つを組み合わせると『木だった!』ってなる(笑)。チェーンソーでも近いものはつくれるんですけど、双子にはならないんですよ。5軸NCだからこそできることだと思いました」

吉田さん「“Su tools”って、座ってると、なんか仲良しになる気持ちになるというか、対話が生まれるような心地がするんですよね。僕ら設計者は「こんなのあったらいいなぁ〜」って妄想するんですが、大西さんって、僕たちの妄想の伴走者なんですよ。現実にしちゃうんです、ドラえもんみたいに」

大西さんを「推したい」と思ったのは、このプロジェクトがきっかけでした。設計者の夢を「面白い」と受け止め、技術で形にし、気づけば自分も夢中になっている。キノマチをつくるひとって、そういう人なのです。

『木づかいシンポジウム2025 in 万博 – 林野庁 – 農林水産省』の様子。ご挨拶中の林野庁小坂長官ほか、ご登壇の皆さまに“ SU”toolsをご使用いただきました。“ SU”toolsがあるだけで空間がグッと木づかいムードになります。

名前を出せない仕事、名前を知らない設計者から依頼を受けていた

アーティストリーは創業31年。百貨店やオフィス、テーマパークの什器など、カタログに載っていない家具を作り続けてきました。大西さんが入社したのは2015年。その前は、高山の老舗家具メーカーで職人をしていました。

大西さん「うちは、二次下請け、三次下請けが多いんです。工務店や内装会社、デザイン会社から発注を受けます。入社して思ったのは、自分たちがやった仕事で会社の名前が出せないんだ!?という疑問でした」

誰のために何を作ったのかもわからない。設計者も職人の存在を知らない。こんなもったいないことはない、大西さんはそう思っていたそう。

翌年、アーティストリーに5軸CNCが導入されます。大西さんはオペレーターとしてこの機械と向き合いながら、ある矛盾に気づきます。

大西さん「設計事務所って、今どんどん若くて優秀なデジタル人材が入ってくるんですよ。面白いデザインが描けるんです。でも、間に入る施工会社の人たちがそのデータからモノがつくれないことが多かったんです。設計されているものをかたちにできない。

そこで、『設計さんが描いた絵を、僕らの方で図面化も作り方の提案も全部やりますよ』って。そしたら『話が早いね』って言われるようになりました」

だったら、設計者と直接つながればいい。2019年、大西さんは自ら営業に出ます。「出る杭」になるべく。2025年時点では売上のうち3割が3D案件です。

「また大西が変なもの持ってきたぞ」

アーティストリー本社の前に鎮座する「わの休憩所」。

大西さんを語るうえで欠かせないのが敷地内にある「わの休憩所」です。床面積が11㎡の小さな建物でありながら、木造とは思えない曲線を描いています。2021年に完成し、同年のウッドデザイン賞を受賞しました。

きっかけはコロナ禍。仕事が激減する中、大西さんは建築家・谷尻誠さんが主宰するオンラインサロン「社外取締役」のメンバーとして参加します。そこで出会った建築学生たちの3D CADスキルに、度肝を抜かれました。

大西さん「モチベーションは凄くあるんだけどコロナで留学できない、研究室も使えない、友達もできない。そんな学生たちがサロンに来ていたんです。だから、アーティストリーの技術を使って、新しい提案をしてみないかって声をかけてみました」

すると、全国7都市から学生が集まり、毎晩のようにZoomで議論を重ねるように。会ったこともない、年齢もバラバラ。最初は雑談の時間を多めにとって、画面越しに関係性を育てていきました。

大西さん「社内からは『また大西が変なもの持ってきたぞ』って(笑)。こんな形状、誰も見たことないですからね。362ピース、全部カーブが違うんですよ。でも、学生の設計だからって手を抜いちゃいけない、ほかの仕事と同じように”アーティストリー品質”で作ろうって、職人たちも乗ってくれました」

材料には、愛知や三重、屋久島から届いた杉を使用。節があって製材グレードの低い「C材」。普通なら敬遠される木を、あえて選んだといいます。7ヶ月後、クラウドファンディングで資金を集め、賛同企業から端材の提供も受けて、「わの休憩所」は完成しました。

この休憩所がアーティストリーのアイコンであり「指標」になりました。メディアに取り上げられ、2日に1人は見学者が訪れます。設計者、ゼネコン、行政関係者から「これ誰がやったの?」という問い合わせが絶えません。

「名乗らない」会社が、名前で呼ばれるようになった転機でした。完成からもうすぐ5年、のべ1,000人以上の訪問があったそうです。

サウナにハマった木工職人、フィンランドへ行く

大西さんといえばサウナ。サウナとの出会いも「誰もできない」から始まりました。

きっかけは、北海道「北こぶし知床 ホテル&リゾート」のサウナの再建。サウナ室(UNEUNA/KAKUUNA)の意匠設計〜3Dモデリング、図面、製作に携わります。この仕事が、大西さん自身をサウナ好きに変えます。

大西さん「有名サウナプロデューサー『ととのい親方』に入り方を教わって、ととのう体験をして以来ハマっちゃって。今ではすっかりサウナーです。そのおかげで普段では出会わないようなサウナの交友関係もたくさん増えました。

好意にさせてもらっている日本初のオフィスにサウナを作ったタマディックの森實社長もその1人。もっとサウナを盛り上げるにはどうしたら良いか!森實さんと話していたら「僕は施主をはめていくから、大西くんは建築士をいっぱいはめてってよ」と言われました」

大西さんは、設計者たちを極上のサウナ空間に誘い、一緒にサウナに入って、ビールで乾杯する。仕事が生まれ、仲間が増える。サウナーのためのサウナー生態系をつくりだしたのです。「100人以上はサウナにハメたと思います笑」

また、2023年にはフィンランド大使館主催のサウナビルダー研修に参加。現地で2週間滞在して、サウナの本場の文化と思想、技術を学んできました。ひとつのことを突き詰めるのは「職人」のなせる技です。今ではその経験を活かし、複数件のサウナプロジェクトを動かしています。

熊野古道のお寺に作ったサウナ「大泰寺サウナ・龍蒸庵」は、また別のアプローチです。アーティストリーが3D加工したわけではありません。地元の工務店、地元の製材所と組んで、「無価値になりそうな木」を活かしてつくりました。

大西さん「ゴリゴリに加工するだけじゃなくて、加工しなくていい木の良さも見せていきたい。こんなにゴリゴリやってる会社だからこそ、その振り幅があった方がいいと思うんですよ」

情熱大陸に出たい。そして、特注家具職人の学校を作りたい。大西さんの野望はキノマチをつくる

キノマチラボも本拠地は名古屋。木曽伊那森林グランドサイクルもはじまり、中日本のキノマチが熱い!

インタビュー中、大西さんがスマホを取り出しました。画面に映っていたのは、自分で作った「人生目標」のスライド。ちょうど40歳を迎える9月、改めてビジョンを整理したそうです。

大西さん「あと5年以内に、とりあえず情熱大陸に出たいなと思ってます」

笑いながら言いますが、目は本気でした。

大西さんには、さらに大きな野望があります。それは造作家具職人の学校をつくること。

大西さん「大工さんや無垢材家具メーカーを目指す職人の訓練校はあるんですよ。でも、僕らみたいな内装業界の特注造作家具職人を育てる場所がほとんどないと思っています。

正直にいうと、家具メーカーにいた頃は『突板でしょ、メラミンってプリント板でしょ』って少しフラッシュ家具のことをバカにしていました。入社して分かったのは、実はめっちゃ細かく難しいことを、短納期単品作りでやってる凄さでした。でも、その技術を継ぐ学校が日本にはないんです」

建設業界は2035年に向けて深刻な人手不足が予測されています。国交省が打ち出した「新4K」(かっこいい・給与がいい・希望がある・休暇が取れる)などの採用戦略に、大西さんは首をかしげます。

大西さん「この戦略には共感しますが、言葉や価値観だけじゃなくて、本当に会社として実践できているかが重要です。僕は口だけ人間が嫌いです。それは自分にも言えることなのでしっかりと背中と結果で示していきたいです」

学校の理想は、ドイツのマイスターのように技術だけではなく、経営力や人間力、教育力が備わっていること。また、木の本質もきちんと理解したものづくりができること。工場と森を行き来するような学校。などいろんな視点で話していました。アーティストリーには本場ドイツを真似して作った社内マイスター制度がすでにあり、数年前から運用が始まっているそうです。

大西さん「自分が死ぬまでに、木工という職業を子どもたちの憧れの仕事にする。それが僕の人生目標なんです」

その学校ができたら、きっと情熱大陸が来ますね。そう伝えると、大西さんは「それ、そこまでセットでいきたいですね」とにっこり。
大西さんは、川上・川中の顔の見える人たちと仕事をしてきたことで、木に対する想いも変わってきたといいます。

国産材を頼まれたら豊田市の「西垣林業」さんや岡崎市の林業会社「もりまち」さんに声をかける。彼らでは対応しきれない大きな木材が必要な案件があればヤトミ製材さんと組む。高山で働いていた頃の縁で、広葉樹の相談もできる。

大西さん「やっぱり顔が見えた人たちとやりたいんですよ。木って関わる人が多いから、信頼できるチームがあるかどうかで全然違う」

取材からしばらく経った頃、ニュースが飛び込んできました。2025年9月1日、大西さんが内装大手の船場グループの木工クリエイティブディレクターに就任。東京に拠点を持つ空間プロデュース会社と手を組み、「3DX木工」の可能性をさらに広げていくことになります。アーティストリーに籍を置きながら、外の世界でも動き始める。

そして、アーティストリーでは2026年より「取締役」に就任。「できない」を言わない職人会社から、業界を横断するプレイヤーへ。大西さんの野望は、着実に形になりつつあります。

木工を子どもたちの憧れの仕事に。その夢を本気で語れる人がいることを、もっと多くの人に知ってほしいです。

これからの大西功起さんを、私は推します。情熱大陸、待ってます。

Text&Photo:アサイアサミ(ココホレジャパン)

キノマチSNSの
フォローはこちら
  • キノマチフェイスブックページ
  • キノマチツイッターページ
  • instagram
メールマガジン
第1・第3木曜日、キノマチ情報をお届けします

    上のフォームにメールアドレスを入力し、「登録」ボタンをクリックすると登録完了します。
    メールマガジンに関するプライバシーポリシーはこちら
    JAPAN WOOD DESIGN AWARD