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2020.08.13
木のぬくもりあふれる寝室でよい眠りを。睡眠に関する研究:寝室に木材が多いと不眠症の疑いが少ないことを公表

木質空間と不眠症の関連を示唆する研究結果が、2月18日に森林総合研究所等の共同研究チームから発表されました。
(プレスリリース:https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2020/20200218/index.html

木材に触れると心拍数や血圧が下がったり、木の精油の香りは免疫活性を高めたりするなどの調査・研究結果が発表されていますが、木質空間が睡眠に与える影響についてはいまだにわかっていないことが多くあります。

今回発表された研究では、木質空間による睡眠改善の可能性について、医学的な検証が行われました。この研究をまとめた森林総合研究所主任研究員の森田えみさんにお話を伺います。

森田さん 良い睡眠は健康のためにとても重要です。しかし、残念ながら日本人の睡眠は良くなくて、平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も短く、成人の約2割に不眠症の症状があるとの報告もあります。
睡眠不足は、死亡率を上昇させますし、生活習慣病やうつなどに関係することもわかってきています。このため、医療としての予防や治療だけではなく、サプリメントや寝具など、いろいろな面から良い睡眠へのアプローチがなされています。

木材の利用が人間に与える効果としては、これまで「快適性」の研究が行われており、木材に触ると心拍数や血圧が下がるなどのリラックス効果があることがわかっています。

しかし、睡眠に良いのかは、これまで十分に検証されてこなかったので、今回、木に関する材料(木材・木質材料)を使った空間が睡眠に与える影響の研究に着手しました。

木材・木質材料に囲まれた寝室が睡眠には良いのは当たり前と思われる人もおられるかもしれませんが、それを支える研究データはとても少ないのが現状です。

――今回の研究の特色をお聞かせください。

森田さん 睡眠、つまり「健康」を検証したのが一番の特色です。健康づくりの3要素は、「運動、栄養、休養」と言われていて、どれも「日常的な習慣」で、健康に良い影響を及ぼすものです。
睡眠は「休養」の最も基本的な部分です。健康の評価は、病気やその予備軍ではないか、例えば、高血圧症がないか、とか、不眠症がないかとか、慢性的にストレスが溜まっていないのかを調べています。

今回の調査は、数百人の研究参加者の皆様の家の寝室で、どのくらい木材・木質材料が使われているのか(家具や建具を含む)をお聞きし、「不眠症の症状」等との関連について検証しています。

健康としての睡眠を検証しました。

森田さん また、この実施にあたり、3つの特徴があります。 
ひとつ目は、「健康」を検証するために、「医学分野と連携」して行ったことです。木質系材料の快適性の研究は農学分野の方が中心となって行われていますが、今回は、睡眠医学(日本最大規模の睡眠研究機関である筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/japanese/))と、産業精神医学(働く人の健康を守る専門家)との共同研究チームで研究を行いました。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構が入る施設
共同研究チームのみなさん

二つ目に、疫学研究という集団に着目して検証する医学研究の方法を採用しました。分野が違うと、視点や手法が違うので、木材・木質材料を使った環境の、人間への効果の検証に新しい世界を取り入れたと思っています。

三つ目は、「働く人」の健康に着目した点です。働く人の心身の健康を守ることは社会的にとても重要です。
木質系材料の快適性の研究は、十数人の学生を対象とした被験者実験によるものが多いのですが、今回は、20歳代から60歳代の働いている670名以上の方にご協力を頂きました。研究費の一部はクラウドファンディングにより調達したことも新しい点です。「働く人の睡眠を良くしたい」というプロジェクトに多くの方が賛同して下さり、ありがたく思っています。

――今回の研究の中で驚いたことはありますか?

森田さん 予想以上の関連がありました。「寝室に木材・木質材料がどの程度使われているのか」という事以外に、寝酒や運動などの習慣など、睡眠と関係がありそうな要因について、関連を統計的に解析しました。その結果、そういった生活習慣よりも、「寝室に木材・木質材料がどの程度使われているのか」の方が大きな関連が認められたのは、予想以上で驚きました。

不眠症の疑いがある人の割合については、寝室に木材・木質材料が沢山使われているグループでは、使われていないグループよりも14.5ポイント(25.3%←39.8%)低かったのです。更に、寝室でやすらぎを感じている割合については、沢山使われているグループは、使われていないグループより15.8ポイント(86.6%←70.8%)高かったという調査結果となりました。
(詳細は冒頭のリンク先をご覧ください)

――この研究結果を私たちの生活にどのように活かせるでしょうか?

森田さん ひとつの研究では確定的なことは言えないため、今後も継続した研究が必要ですが、「寝室全体に多くの木材や木質材料を取り入れる」ことは、睡眠に良い生活環境のひとつの要因ではないかと考えています。

寝室に多くの木材を取り入れることの良さの研究は続きます。(写真提供:森林総合研究所)

――不眠症の改善可能性の説明に「内装に木材や木質材料を使うこと」を取り入れた背景に森田さんの「建築好き」があるとのことですが。

森田さん 子供の頃から古い洋館などを見るのが好きで、学生時代を過ごした奈良でも神社やお寺にはよく行きました。大規模な木造建築が数百年にわたって残っていて、さらに建築としての美しさと機能を維持していることが素晴らしいと思っています。
昔の人々は多くの材料を工夫しながら適材適所で利用し、高いデザイン性や心地よい空間を実現したところはすごい!と思っています。

――今後の研究、森林や林業に寄せる想いについて。

森田さん 日本の人工林は伐り時で、使う時期に来ています。木材をより沢山、有効に使ってもらうことが求められていますが、「健康」をキーワードに木材の利用範囲を広げていくチャンスがあると思っています。
クラウドファンディングで多くの方がご支援くださったように、健康には高い関心が寄せられています。今回の研究は睡眠がテーマでしたが、木材が「健康」に良いことを、データに基づいたエビデンス(根拠)で示したことは、木材利用の後押しになると思っています。
今後も、人の健康と林業の活性化に貢献できるような研究を続けていきたいと思っています。

研究論文情報:
①タイトル
Association of wood use in bedrooms with comfort and sleep among workers in Japan: a cross-sectional analysis of the SLeep Epidemiology Project at the University of Tsukuba (SLEPT) study
②著者
森田えみ1,2、柳沢正史2, 石原あすか2, 松本すみ礼2, 鈴木稚寛2、池田有2、石塚真美3、堀大介2、道喜将太郎2、大井雄一2、笹原信一朗2、松崎一葉2、佐藤誠2(1森林総合研究所、2 筑波大学、3帝京大学)
③掲載誌
Journal of Wood Science
④研究費
文部科学省科学研究費補助金(16H03245)、
クラウドファンディング
⑤問い合わせ先
研究担当者:
(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所 森林管理研究領域 環境計画研究室
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(クロスアポイントメント)(兼任)森田えみ
広報担当者:
森林総合研究所 広報普及科相談窓口
Tel 029-829-8377
E-mail : QandA@ffpri.affrc.go.jp

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