木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2020.09.02
森林・林業白書が教えてくれること。林野庁が丁寧に綴った「森林の今と未来」

森林・林業マニアのバイブル?!「森林・林業白書」とは

みなさん「森林・林業白書」をご存知ですか?

森林・林業白書とは、林野庁が毎年発行しているもので、書籍にして約360ページという膨大な情報量を誇り、森林・林業業界の現在の動向はもちろん、最新の事例や施策、そして未来への展望がつづられています。

その内容は、話題のトピックスをはじめ、森林のデータや現在の産業の状況、市場としての動向をまとめたものになっています。お役所がつくる難しい書類…と思いきや、トピックスなどは雑誌の巻頭特集のように編集者の思いが感じられる熱い内容なのです。

森林・林業に興味があるひとはもちろん、全人類に読んでいただきたい…!
森林・林業白書を楽しく読んでいただけるよう、この白書の編集と執筆を担当した林野庁林政部企画課 課長補佐(年次報告班担当)加藤靖之さんにお話を伺いました。

林野庁林政部企画課 課長補佐(年次報告班担当)加藤靖之さん

官公庁が発行する読みものは難解で、とっつきにくいというイメージがありますが、森林・林業白書は、その分野を専門としない一般のみなさんでも読みやすく、評判のビジネス書でも読んでいるような感覚で読み進めることができます。

みなさんに読んで欲しいからできるかぎりフレンドリーに

白書とは「日本の中央省庁の編集による刊行物のうち、政治社会経済の実態及び政府の施策の現状について国民に周知させること」を目的に担当官庁が作成する読みものですが、今回、林野庁の白書発行に携わるご担当として、加藤さんご自身が編集で心がけたことはどのようなことでしょうか。

加藤さん 先ずは「間違った情報は載せない」ということが大前提にあります。一方で、読者のことを考えて慣例を多少逸脱しても分かりやすく書きたいという想いもあります。

ターゲットとする読者は、主に森林・林業業界に関わる人々ですが、この業界のコアな読者層だけでなく、学生さんであったり、これから森林・林業に関わろうとする民間企業の方々もぜひ読んでいただきたいと思って編集しました、と加藤さんは言います。

加藤さん そうですね。特に今年の令和元年度白書はSDGs(エスディージーズ)の特集もしているので、森林・林業に限らず様々な分野の方々にも読んでいただいて、日本の森が人の生活や社会にどれだけ役立っているかを知ってほしいと思っています。

白書全体を通して今の森林と林業の現実の姿を率直に伝えられるようにまとめています。まず現在の森の状況を知りたいという方には、第Ⅰ章「森林の整備・保全」から順に読んでいただくのがいいと思います。伐採時期を迎えた森林がどれだけあるのかなど日本の森林に関するデータや情報を掲載しています。さらにそこから読み取れる森林の危機を解説していて、人の手で適切に森林の整備を進めていくことの大切さを伝える内容にしています。

とはいえ、白書は分量が多いものなので、ざっと内容を把握したいという方向けに概要版も準備しました。まずはどこに何が書いてあるのか把握していただいてから、自分の興味のある分野を読み込んでいただくという読み方もあります。

加藤さんのアドバイスの通り、日本の森林と林業の状況を読み解くには、今年の森林・林業白書の第1章に多くのヒントがありそうです。厳しい経営状況が続くといわれている林業の業界で、今後の明るい兆しが見えるようなデータや記事はあるのでしょうか。

加藤さん 第Ⅲ章「木材需給・利用と木材産業」の部分でも書きましたが、木材全体の需要、特に国産材の需要量が増えつつあります。この増え方が年々顕著に上向いていることもご理解いただけると思います。森林白書は過去にさかのぼって読んでいただけるので需要が増えている「理由」も読み比べていただければ、いっそう理解が深まると思います。ちなみに、需要が増加する一番の理由は、木質バイオマス発電の利用が増えているところにあります。

年次報告班のみなさん。この人数でこの1冊を編集と執筆されたそう。

最初に読者の目に触れる冒頭の特集記事は、林野庁が森林・林業の未来像やあるべき姿を描いている特に重要な部分でもあるので、森林や林業の現場のみなさんと共有したいと強く思われている部分とのことです。

加藤さん 特集のSDGsに関しては、林野庁の若手職員に呼びかけて有志を募り、例年以上にヒアリングの範囲を広めて白書の記事に反映させています。様々な経済団体にもご協力いただき、他の産業分野から森林や林業がどのように見えているのか、何を期待されているのかを描けたと思います。

また今、本当にSDGsへの関心が高まっているので、他の産業分野のみなさまに森林に興味を持っていただくチャンスです。森林・林業分野の関係者からも他の産業分野との連携を進めていただき、それが社会的な潮流となって、木材利用の機運が盛り上がっていくことを期待しています。

森林・林業でいまもっとも大事だと思うのは「現状を知ってもらう」こと。そして関心興味を持ってもらうことだといいます。

加藤さん みなさまには、まずは特集を読んでいただいて、共感していただけるところ、「楽しそう」と思えるところから、木を生活に取り込む行動を始めてもらえればと思っています。

また、企業の皆様には、例えば、ゆかりのある地域と森林をテーマにつながることからはじめていただいても良いと思います。自社のビジネスを活動に取り込むことで長く続く活動になっていくのではと期待しています。

霞が関・林野庁のエレベーターホールには、身近に木と関われる展示も。

加藤さんに個人的に好きな記事を挙げていただきました。第2章「林業と山村(中山間地域)」で取り上げられている「ニュージーランドの地方自治体における森林施策」と「我が国の森林の循環利用とSDGsとの関係」の図とのこと。

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加藤さん 時間をかけて丁寧に作り込んだものが「我が国の森林の循環利用とSDGsの関係」です。林野庁では、蓄積量が増えている日本の森林の現状、過疎化への対応、生活の質の向上を求める声の高まりの中で、様々な角度からSDGsに森林が貢献していることを整理しました。良いものが出来たのではないかと思っていますので、ご理解のご参考になると思います。

また、木材利用の例で、我々の目をひいたのは、みなさんご存じのマクドナルドが店舗設計で国産材を利用していることです。すごいなぁと思います。新規出店や改装時は、原則として木造建築にするか、もしくは内装に木材を利用するという企業の方針を示されました。木材利用を推進する立場からすると、大変ありがたいと考えています。

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マクドナルド五条桂店

加藤さん 子どもの頃、木造住宅で過ごした経験があると、大人になっても木の家に住みたいと思ってもらえるはずです。子どものころから親しむ場所で木を使っていただくのはうれしく思います。

林野庁という立場で、森林と林業の川上・川中・川下のことを考える

木材業界の川上から川下の間のコミュニケーション不足が原因で、木材がうまく流れていないように思われます。林野庁では、川の流れをスムーズにするため、どのような仕組みをつくりたいと考えられているのでしょうか。

加藤さん やはり川上側から川下側を見て、川下でどういう木の使われかたをしているのかを知って、木材を生産していくことが重要だと考えます。そして、そのような取り組みも始まっています。お手本になる事例をトピックスとして、我々から発信していくことも大事な仕事だと思っています。

また昨年度から始まった注目の「森林経営管理制度」について、加藤さんは「いいスタートが切れた」と言います。

加藤さん まだ、この制度がスタートして1年目、市町村は準備を始めたばかりのところが多いと思いますが、すでに森林整備に取りかかっている市町村もあります。市町村も手探りで進めているところがあると思いますので、林野庁からも参考になる事例を提供していきたいと考え、白書でも幾つかの事例を掲載しました。

所有する森林面積が広い場合は、所有者自ら経営することもできますが、面積の小さい森林所有者は、自ら経営や管理を行うことが難しいこともあるので、この制度を利用して市町村に森林を預けて管理してもらうほうがいい場合もあると考えています。

実は私の実家も島根に山を持っています。田んぼの中の小さな丘のような山なので、林業の観点からは良い山とは言えませんが、わらびやたけのこが取れたりするので、暮らしを彩る生活の場としては楽しい山です。

このような里山であっても、山としての管理は必要なので、白書に書かれていることは自分ごととして考えています。同じような立場の皆さんにも所有する山だけでなく、森林・林業に関することをこの白書で知っていただけたらと思います。

最後に、山に想いを馳せるような優しい表情で語ってくださった加藤さん。

人の想いや森林資源の循環に、経済が伴うことが一番大切。それは、100年後、1000年後の未来も、豊かな森林が絶えないで続くことを心から願っているため。

新たな試みと、今までの蓄積をみんなにわかりやすく書き記した「森林・林業白書」。このステイホームな日々を利用して読んでみてはいかがでしょう?「令和元年度 森林・林業白書」は林野庁のホームページで全文掲載されています。

Text:アサイアサミ

参考文献:
令和元年度 森林・林業白書 全文

おすすめの読みかた

CASE1:今注目のSDGsの達成に向けて森林・林業のどんなところが貢献するのか知りたい!
第1部 特集 持続可能な開発目標に貢献する森林・林業・木材産業(P3~)

2030年までに達成したい持続可能な開発目標=SDGs。日本でも、さまざまなところでこのキーワードを目にするようになりました。持続可能でよりよい世界を実現するために、世界中の国々の政府や企業、個人がゴールを定めて取り組みを始めています。

例えば、木材利用による森林資源の循環で森林の持つ公益的機能が維持され、陸の豊かさだけでなく、海の豊かさも守られます。他のSDGsの達成にも貢献する林業、木材産業の取り組みを令和元年度森林・林業白書のSDGs特集の中で紹介しています。

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SDGsの特集では「森林整備」、「木材利用」、「森林空間」といった項目に分け、60以上の事例を取りあげています。これらを読み進めることで、川下の木材ユーザーは木材利用を通じて自らの活動がSDGs達成に貢献していることを感じ取れます。持続可能な社会づくりに貢献する自分の姿をイメージすることができます。

また、SDGsと森林・木材利用に関わるアンケートがすごい。中小企業から大企業まで、幅広い産業分野に属する392社から取った膨大なアンケートから木材利用に対して企業が何を期待しているのかを知ることができます。

川下のニーズを把握することで、川上・川下の「今後の課題」を打ち出しているところにも注目です。

CASE2:持続可能なまちづくりに木材利用がされているレポートが読みたい
第1部 第Ⅲ章木材需給・利用と木材産業 2.木材利用(P174~)

森林・林業関係者が熱望している国産材利用の拡大ですが、その機運は中高層建築物等の増加からも見られると森林・林業白書でも具体例を挙げて述べられています。

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キノマチウェブでもご紹介している「フラッツ ウッズ 木場」

CASE3:林業は技術革新しているの?
第Ⅱ章 林業と山村(中山間地域) 1.林業の動向(P130~)

山に木を植えて、伐って、搬出して、また植える。その繰り返しを数十年〜数百年繰り返す林業ですが、ICTを活用したスマート林業の推進や高性能林業機械の導入など、林業の現場ではイノベーションが起こっています。

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キノマチウェブが注目したのは、安全性の向上により、女性にも林業が身近になったところ。まだまだ体力勝負な林業ですが、多くのひとの働く職業の選択肢の一つになりうることは、業界の持続可能性をぐんと高めます。林業に携わりたいかた必読のトピックスです。

CASE4:山を持っている・持ちたいなど、ライトユーザー必見の新制度
第1部 第Ⅰ章 森林の整備・保全 1.森林の適正な整備・保全の推進(P54~)

親から山林を相続した、山林を持っているがどうしていいかわからない、これから山を持ちたいけれど、今どんな制度があるのか知りたいという方へ。トピックス1でも、山主注目の新制度「森林経営管理制度」そして「森林環境譲与税」、改正された「国有林野管理経営法」について詳しくレクチャーがあります。制度名で見ると難しく感じますが、森林初心者でも理解できるやさしいテキストが用意されています。

森林経営管理制度=経営や管理が適切に行われていない森林について、市町村が森林所有者から委託を受け、市町村自ら又は林業経営者に再委託することを通じて森林の経営管理を進める新たな仕組み。

森林環境税・森林環境譲与税=2024年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、1人年額1,000円を市町村が賦課徴収する国税(森林環境税)。森林環境譲与税として市町村等に譲与され、森林整備等に関する施策に充てられる財源となる(森林環境譲与税については、2019年度から譲与が開始)。つまり、国民一人一人が森林を守るということに。

国有林野管理経営法の一部改正=林業経営者の育成を後押しするため、長期的な事業の見通しを立てられるように、国有林で、一定期間・安定的に樹木を採取できる制度を創設。

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