木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2020.12.02
雇われ編集長の「生涯学習」④日田の森林に入ってテロワールを考える

ご無沙汰しております。

10月のキノマチ大会議、登壇者をはじめとする関係者の皆様、大変お疲れ様でした。

その模様につきましてはキノマチウェブ上で各回のレポートがアップされています。そちらをご覧いただければ幸いです。いやあ、面白かったし、ためになりました。そんな当たり前のような感想しか、出てきません。広くて深くて言葉にならない、というのが正直なところです。

そんな僕でも心に強く湧きあがってきたもの。それは「何はともあれ、ここで、山に入らなればキノマチプロジェクト編集者の名前が廃る」という強迫観念です。

でも山か…。私の暮らす場所の近隣には山がありません。徒歩20分の砧公園がせいぜいです。でなければ、高尾山。

ということで山に入るきっかけが必要だったのですが、幸運にも早々に機会が訪れました。

未曾有の豪雨災害を受けた日田の森へ

キノマチプロジェクトでも、竹中工務店の木造建築のプロジェクトでもいろいろとご協力いただいている田島山業さんが所有する大分県日田市中津江村の山林へ10月24、25日に訪問することになりました。キノマチプロジェクトの仲間であるDJLの岡野さんやグリーンズの植原さんと一緒に森へ入ってきました。

早速ですが、その美しい森林がこの写真です。

日田市中津江村の森林。木々が密集していながら地面にまで日がさす爽やかな空間。

直径は30~40、高さ30くらいのスーッと真っすぐ立つ日田杉(ヤブクグリ)。樹木の間隔は4~5メートルくらいでしょうか。

何気なく頭上を見あげると抜けるような青い空を背景にして、それぞれの木の枝葉が円を描くように広がり、その円弧の先端が接するような絶妙な距離を保っています。

日田の森林を見あげる。

木肌の表面には木漏れ日から差す光と木々の影が呼吸でもするようにゆらゆらと映し出され、その木々の間をピンと張りつめた冷気が通り抜ける。生命が宿っているかのような小川のせせらぎ、葉のささやき、そして小鳥のさえずりが加わる。光や風や音が醸し出すいくつもの波長が連なりあい、過ごせば過ごすほど心地よさがどんどん増幅していく。

そうかと思えば周辺を木々にゆるやかに囲われ、自分が守られているような感覚も生まれてくる。柱からちょっと離れて身を任せている安心感とでも言えましょうか。

そんなことで自然と人間が究極的にバランスし、生きていることが実感できる原郷とも言える場に身を置くことができました。ありがたき幸せ。

さらに最近は温暖化で生息域が広がったり、高齢化で狩猟者が減少して、野生のシカやイノシシなどが増加し、スギの苗木の食害が広がっているという。ここでは苗木一本、一本に保護網を掛けていました。通常は苗木の周りに柵を設置して広域に防護するらしいのですが、するとそこに角などが絡まり、シカの生命を奪ってしまうことがある、そのようなことにも配慮してとのこと。その意味ではここも動植物と人間がバランスした土地ともいえます。

日田の山並みとシカの食害の防護網がかかった高さ50センチ位の苗木群。

この森林の山主である「田島山業」の田島信太郎さんはその著書「断固、森を守る」でこのように述べられています。

『日田地域の一般的な林業作業の流れを例に示す。スタートは苗木づくりで、一年間で高さ10センチ程度に成長。さらに高さが30~40センチになったところで、一ヘクタールの山に3,000本を目安に植え付ける、そのまま7~10年間は下草刈りなどの手入れをする一方、3~4本に1本を伐って間引き(除伐)し、15年生の木を1ヘクタールに約2,000本育てる。

その後、さらに大きく育てるために、その頃から枝打ちや間伐を繰り返して、25年生の木を1ヘクタールの山に約1,500本育てる。その後、さらに間伐を続け、35年生の木が1ヘクタールの山に1,000本ほどとなった頃から家具や薪など様々な用途に利用するための「利用間伐」に入り、最終的には50~60年生の約750本を製材用として伐採(皆伐)する。』

つまり、ここは田島さんのご先祖やこの地域の先人たちがその地形や気候と木の性質を考えながら、50年から~60年後の未来を見据えて植林し、手を入れ、育ててきた森林です。だから宝のような悠久の地とも言える森林空間が生まれたといえます。

そのような日田の森林での経験から僕は「森林のテロワール」ということを感じました。

土地には、その地ならではの土壌、気候、寒暖差、風向き、動植物との関わりといったテロワールがあり、それを理解し、適切な手を加えていくことでそこにしかない、木の個性や違いを生んでいく。

そんなテロワールを大切にすることから固有のストーリーが生まれ、さらにはモノづくり、コトづくりのブランドに繋がっていく。

例えば、ここの日田産のスギ、ヤブクグリでは藪をくぐるときのように腰を曲げて空に向かって伸びていく、しなやかで粘り気があるところに特徴がある。構造材としては変形への強さ(この性能を建築構造学の世界では「靭性が高い」として高く評価します)を、また仕上げ材としてもうねったような木目の美しさを生かした使い方を、さらには森の中での展示会やイベントを、ここのテロワールとともに魅力的に発信していくことの重要性。

そのようなことが今回、森に入った皆さんと議論し、肌感覚として得られました。森に入ることはまさにキノマチプロジェクトを自分事として捉える活動の原点なんですね。当たり前過ぎますが。なにはともあれ、森に入ってよかったと思っています。

今回お付き合い頂いた方々、本当にありがとうございました。またキノマチウェブの読者の方々も是非、行動を起こしてみて下さい。きっと新しい発見と歓びがあると思います。

あっ、一つ、書き忘れたことがありました。「未曾有の豪雨災害」に関しては今回の訪問でまたこれも心に染み入った『道の尊さ』に絡めて改めてお伝えしますね。

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(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura 
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。

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