排出枠取引(はいしゅつわくとりひき)とは
二酸化炭素(以下CO2)の排出総量の抑制を目的に、国や自治体、企業の事業活動で排出できるCO2の量を予め排出枠として定めておき、排出枠を権利として売買する取引制度です。
排出枠取引は、国や自治体、企業が事前に定められた排出枠(排出量)に対して、過不足を売買するものとなります。努力及ばず排出枠を超過する組織と排出枠に余裕のある組織との間で排出枠の需要と供給がつりあうことで、排出削減目標が確実に達成できることがこの制度の特徴となります。
排出枠の価格は、シカゴ気候取引所や欧州気候取引所の価格を参考に、金融商品と同様に市場メカニズムにより決定されます。
また、排出枠は、政府が割り当てる場合と企業などが、自主的に定める場合があります。
割り当ての方法として、グランドファザリング方式やオークション方式、ベンチマーク方式などがあります。
これまでの排出枠取引の事例として、1997年の京都議定書で定められた温室効果ガスの排出量取引があります。
日本では、東京都のオフィスビルを対象として、一定量以上の二酸化炭素CO2を排出する企業に削減の義務を課し、未達分を排出枠取引で補う『東京都キャップ&トレード制度』が2010年より実施されています。
カーボンプライシングの具体策として、期待される排出枠取引ですが、課題もあります。
それは安定運用されるための制度設計や実施体制の整備、各組織からの排出量の証明・確認方法、さらに排出枠価格の安定、市場の流動性などです。
今後とも排出枠取引制度の拡充によりCO2排出にコストがかかるようになることで、適切に評価されていない木材や森林の社会・経済価値評価の見直し、付加価値が高まることが期待されます。
参考文献:
経済産業省 温室効果ガス排出削減のためのカーボンプライシング等の政策手法に関する調査
経済産業省 長期地球温暖化対策プラットフォーム-報告書
東京都 総量削減義務と排出量取引制度(キャップ&トレード制度)
ニッセイ基礎研究所 日本の地球温暖化対策 「カーボンプライシング」の可能性を考える
Text:小林 道和