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2021.08.04
北海道での森林グランドサイクル④天塩森林資源のCO2循環

ここまでは主に林業関連の産業循環を構成する「鎖」の話でしたが、もう一方の森林資源の方にも循環があります。

それはこのコラムの冒頭でも触れた「天塩研究林のカラマツ林炭素循環機能に関する観測地」でのことです。

天塩研究林では天然の針広混交林を一度、皆伐し、その後、あらためてカラマツの苗木を植えてCO2収支を長期観測する、という実践的研究が行われていました。

そこは先ほどの建機が活躍していた間伐エリアからさらに雪上の車に揺られること約30分、2003年に13.7ヘクタールの天然の針広混交林を皆伐し、その跡地に約3万本のカラマツを植林した地点です。ここでは高さ30メートルの炭素循環観測タワーを用いて、過去20年に渡って土壌呼吸、微生物呼吸、林床植生による光合成などの炭素フラックスを測定していました。

ここで炭素フラックスとは大気、森林、土壌などの炭素を吸収貯蔵あるいは排出するシステム間での炭素移動量のことで通常は単位面積(ha)当り、単位期間(年)当りの炭素重量(トン)で表します。(トンC/ ha・年)

研究結果によると、間伐直後の数年は、土壌や微生物、生えてきたササなどの下草の呼吸によるCO2排出が苗木の光合成によるCO2吸収を上回っていましたが、植林から8年目くらいで年間のCO2排出量と吸収量が共に12~13トンC/ha・年と均衡し、10年後くらいから以後はようやくCO2吸収が上回ってきます。

そして全体のカーボンの累積収支もカラマツが成長することでようやく18年目にカーボンマイナスになるという結果となっています。このように森林の成長とそれに伴うCO2収支も地域産業のサプライチェーンと同様に一度、連鎖を断ってしまうと元に戻すのには大変な時間がかかるのです。
気温の年較差が-35~+35℃と70℃もあるような過酷な環境下で長年、地球環境に関わる重要な調査をされ、実態解明に努力されている北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの先生、研究者の方々には本当に頭が下がります。

高さ30mの炭素循環観測タワー
高さ30mの炭素循環観測タワー
タワー頂上からカラマツ研究林、雪上車、スノーモービルを見下ろす。
タワー頂上からカラマツ研究林、雪上車、スノーモービルを見下ろす。

4回に渡ってお届けしてきました北海道の森林グランドサイクルに関わるコラムも終章です。

今回の北海道訪問では「産業創出」と「森林成長に伴うCO2収支」といった両輪とも言える循環の再生に取り組まれている北海道大学とイトイグループホールディングスの皆さんの強い意志と実践に触れて大いに勇気づけられました。林業の未来に大きな期待が膨らみます。

今、移動にはいろいろと制約がありますが、やはり、行動は新たな視点や発想の芽を生みますね。

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(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura 
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。

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