木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2021.09.01
「北海道で汎用性のあるあたらしい木造建築を」竹中工務店 藤田純也さん
〜Hokkaido FM Center Story〜

『Hokkaido FM Center Story』は、竹中工務店の木造建築『北海道地区 FMセンター』ができあがるまでを巡る物語です。

この建物は、北海道札幌市の住宅街に建ち、地上2階建、広さ856.46平方メートルの木造オフィス計画です。この低層木造建築は「北海道だからこそ」生まれたという価値を秘めています。環境、気候、地域経済ーー北海道が内包する社会課題を解決するために木を手にとったひとびとの、肥沃なものづくりがもたらす力強い森林グランドサイクルをお伝えします。

(プロフィール)
語り手
藤田純也  Junya Fujita
神奈川県出身。一級建築士。1985年竹中工務店入社。1986年より東京本店設計部。1992年から94年レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ・ジェノバ、1997年から2000年イタリア竹中、2016年江東区立有明西学園の設計担当を経て、北海道支店設計部長。木造・木質建築を中心に地産地消を意識したプロジェクトを推進。2020年支店長席専門役。

北海道の自然の豊かさを使わせてもらった建築

6年前に北海道に赴任して以来、いろいろな面で北海道のポテンシャルの高さに魅了され続けています。誰もが魅力を感じる豊かな自然環境、そこから得られる素材や材料、志の高い魅力的なプレーヤー、ものとひと、ひととひととの距離感。東京で長年、効率重視の現代的な生産体制の中でものづくりをしていた身にとって、そうしたものが特に新鮮に思えました。

同時に、自然のエッジが明確な寒冷地の環境だからこそできる、もっと北海道らしいものつくりができるのではないかと強く感じました。

札幌の中心から30分ほどの距離にある地域から切り出されている札幌軟石や江別の土や古い窯でつくられているレンガ、札幌市内にも原生林が残るほどの豊かな森林資源。

とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人たちが自然と豊かに共生してきた文化には及びませんが、北海道の自然の豊かさを使わせてもらった建築がつくることができればと考え、赴任以来、地産地消のものづくりを推進してきました。

特に木造・木質建築については、私自身、東京で有明西学園の設計を担当してきたこともあり、力を入れてきました。竹中工務店北海道支店(以下支店)は、北海道庁の林務部と連携協定を結び「道産木のある未来を見たいから」を支店の木造・木質建築推進のキャッチフレーズとしています。

江東区立有明西学園(2018年2月竣工)

そうした活動の中で、北海道らしい快適さを持った場を目指して今回、新築する小規模オフィス『北海道地区 FMセンター』は木造という選択をしました。今後も竹中工務店北海道支店だからできる新しい木造の試みにも挑戦していく意気込みです。

付加価値の高い有効活用がされているとはいえない状況

北海道の縄文・続縄文・擦文文化の時代から、生活用品の他、丸木舟や漁撈具や儀礼具などに木を利用していたことが発掘でわかっています。アイヌ文化の時代には「チセ」と呼ばれる木造で茅や樹皮などを用いた住居や生活用品、衣類、狩猟用具、儀礼の道具など、生活に密着しながらデザイン的にも魅力的な木の利用が見られます。

札幌にある北大植物園には北方民族植物標本園があり、アイヌを中心に北方民族が利用した200種類以上の木や樹木がその豊かな利用方法と共に植えられていて、その自然との共生ぶりは本当に頭が下がる思いです。

北海道の林務行政は1678年に松前藩が山師から運上金を徴収し、森林伐採を許可したところから始まっています。その後、幕府直轄となりますが、明治以降は、官林から御用林、国有林、演習林などの広がりを見せ、炭鉱開発により、企業の大山林所有者として、炭鉱開発にあたった三井、三菱なども名を連ねています。

今でも国有林や町有林と共にそうした企業林も多く残っています。有明西学園フラッツ ウッズ 木場などの東京の竹中工務店の多くの木造・木質プロジェクトも、こうした北海道の企業林に支えられています。

また北海道は本州に比べて地形がなだらかで機械化が進めやすく、カラマツやトドマツの大規模な造林を続けてきました。その人工林が50年の歳月を経て、現在、蓄積量が増え利用期を迎えています。

平成28年の統計では、カラマツが137万㎥、トドマツが109万㎥の丸太の出材料で、全出材量の80パーセント程度を2つの樹種が占めています。ただその道産材は、値段の安い梱包材やパレットなどの産業用資材として使われることが多く、建設用材としての利用は、トドマツでは3パーセント、カラマツにおいては16パーセントとに過ぎません。

本州ではスギヒノキを始めとして建築用材が82パーセントを占めているのに対して、付加価値の高い有効活用がされているとは言えない状況なのはとても残念です。

また、道内の建築用材は、どこからきているかというと海外からの輸入材が45パーセント、本州からの移入が34パーセントです。豊かな森林資源がありながら、北海道の中で自給自足された建材は22%に過ぎない状況です。

更に、集成材製造工場が本州の規模に対しては小さいことから、道産の材料を一度本州の工場へ運び、加工したものを再度北海道に運ぶといったサプライチェーンの状況もあります。

道産材を一度、本州に運び加工して、再度、北海道で組み立てるというプロジェクトも散見されます。もったいないですよね。

北海道の広葉樹は、ミズナラを中心にその加工のしやすさから、海外で「オタルウッド」の名前でブランド化した木なのですが、高度経済成長期の乱伐の反省から、ナショナルトラスト運動などもあり、長年伐採されておらず、徐々に生態系が戻ってきているようです。こうした天然林の持続可能な管理も北海道としての課題のひとつです。スイスのフォーレスタを招き、管理をはじめている森もあると聞いています。

本州でも同じような状況があると思いますが昨年開校した旭川市にある「北海道立北の森づくり専門学院」や、林業関連のユニークなプレーヤーも活躍していて、生産性をあげる林業と共に、新しい林業の取り組みや森林資源を活用したまちづくりもはじまりつつあると思います。

北海道の新しい魅力や新しい地平を切り拓く

北海道における、木造・木質建築の推進が、魅力的なまちづくりと共に美しく持続可能な森づくりや木をめぐる産業の活性化を目指し、北海道に貢献していきたいと思っています。

「新しい文化は辺境(地方)から」の精神で北海道発で、森や木をめぐる新しい価値観や文化の発信、風景や食品と同じように「北海道の森林資源」が皆が憧れるブランドになれば最高ですね。

豊かな自然環境や食文化といった北海道のポテンシャルや地方都市が持つ課題に対し、竹中工務店が持つエンジニアリング力や設計力が課題解決の一助となり、そのポテンシャルを刺激して、北海道の新しい魅力や新しい地平がすこしでも切り拓くことができればと思います。

『北海道地区 FMセンター』では、北海道で住宅用として大量生産され入手しやすいサイズの木材を使い非住宅の小中規模の建物を環境にやさしく安価に実現することを創造力とエンジニアリング力で挑戦しています。

木造住宅の生産体系として道内で確立している木造住宅の一般的な生産体制を用いながら、オフィスなどの非住宅への汎用可能性を秘めるあたらしい木造建築の形を提示します。

『北海道地区 FMセンター』完成予想図。

今後やっていきたい事としては2つあります。

ひとつは、木をめぐる先進国のヨーロッパでは、世の中を石油製品中心の世界から木材を中心として世界を構成する「バイオエコノミー」が提唱されています。今回の計画で用いた外壁材などの構造以外の建築材料について木質系のバイオ系材料のみで構成する事にも挑戦していきたく思います。

ふたつめは、北海道では、その生態系に注目した持続可能な針広混合林の森づくりを目指す動きも見られます。そうした多様性の森づくりから得られる森林資源(特に広葉樹)についても、木1本1本が持つ個性を大切にして、その特徴を活かした構造形式の現代建築にもいつか挑戦したいと思っています。

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