植生遷移(しょくせいせんい)とは
ある場所に生育している植物の集まりを「植生」といい、その植生が時間の経過とともに変化していくことを「植生遷移」とよんでいます。
人工林では単一の樹種を人の手で丁寧に育てていきますが、天然林では自然の力の作用により構成する種や個体数が長い年月をかけて変化し、やがて安定した状態、極相(クライマックス)に遷移していきます。
数億年前の地球は火山の噴火による溶岩や噴出物で覆われていましたが、現在は陸地の約3割が森林となっています。ここでは、溶岩が流れたあとの裸地の状態から、どのように安定した森林となったのか、その植生遷移、森の成長について説明します。
まず硬い岩肌や溶岩などの裸地にコケ類が生育するようになり、その遺骸が砂と混じって土壌が形成されます。土壌が水分を吸収して草本類(1年から数年で枯れる植物)が育ち、さらに土壌が豊かになって木本類(長年にわたり枯死せず肥大・成長する多年生植物)が姿を現します。陽の光を浴びて大きくなる陽樹が成長し、その森の支配的な植生になってきます。
次に陽樹の枝葉で光が遮られた環境でも育つ陰樹が成長し、陽樹と陰樹の混合林となり、最後に、十分な光がないと成長できない陽樹が衰退して陰樹が主体の森となります。
植生遷移の最後の過程に到達し、陰樹を主体とした安定的な森の状態になることを極相(クライマックス)、極相の森林を極相林と呼びます。また、過去に人の手が加わらず成長した森林を「天然林」、天然林で極相となった森林を「原生林」と呼んでいます。
裸地から植生遷移を経て極相林になるまでには数百年かかるといわれています。人工林を人間の都合で放棄林として荒廃させてしまった場合、うまくその土地にあった植生遷移が進んだ場合でも安定した極相林となるまでにかなりの時間を要することとなります。日本には1,000万ヘクタールの人工林がありますが、持続可能な国土と自然環境、豊かな森林を維持するためには責任ある人工林の森林経営・管理が求められます。
参考文献:森林・林業実務必携 第2版、東京農工大学農学部森林・林業実務必携編集委員会、朝倉書店
Text: 小林 道和