「ウッドショック2.0」その後の経過
2021年夏の終わりに「ウッドショック2.0」と題して、ウッドショックの今後の予想と展開、また「ウッドショック」を「ウッドチャンス」と捉えた提案をしました。(ウッドショックの半年を振り返って。これをチャンスと捉えることは可能か「ウッドショック2.0」を語る)
その後、根拠として注視していた米国木材先物指数も順調に下げていたので、木材価格の高騰も収まると楽観していました。
ところが、2021年11月に再び指数が上昇基調となっています。
ウッドショックは継続中なのか?
再上昇の要因を考えると要因は大きく3つあげられます
1つは季節的な要因です。年末から年始にかけての指数は上昇しやすい傾向にあり、ある程度の指数上昇は想像していたのですが、予想を超えた上昇になりました。
2つめは自然災害です。
アメリカ西海岸の山火事、カナダ ブリティッシュコロンビア州の洪水などが主な要因となり、さらに指数上昇に拍車をかけたのが、アメリカ中西部のハリケーン被害です。ハリケーン被害に伴う、新築住宅供給の必要性が新たな木材需要の根拠となり、米国木材指数を押しあげました。
そして、今回の大きな上昇要因と考える3つめは、米国の巨額な財政出動の継続です。
2008年のリーマンショックでは米国の財政出動は1.5兆ドルでしたが、今回のウッドショックでは4回にわたり、リーマンショックの約3.9倍の5.8兆ドルを出動させました。
そこで刷られ過ぎたお金は、お金自体の価値を下げインフレを引き起こします。木材を含めた様々な商品や原材料の価格はあがっていきました。そこで米国中央銀行はインフレ抑制に舵を切りはじめました。こうして、インフレ要因の木材価格上昇はひと段落するのではないでしょうか。
米国木材先物指数とウッドショックの確認
2022年1月13日現在ナスダックのランバー先物価格は1,000ボードフィートあたり、 1,200ドルです。「ウッドショック2.0」時の2021年8月31日、1000ボードフィートあたり、523ドルから比べると、2.3倍になっています。
ウッドショックが今回で3回目ということは、AtoZ「ウッドショック」で説明しましたが、ここでまた各ウッドショックの要因を少しふり返りましょう。
第1回ウッドショック(1992年から1993年にかけて)の要因は、環境問題による原木伐採規制や中国の市場開放政策から起きた資材暴騰とされています。
第2回ウッドショック(2006年)の要因は、インドネシアの原木伐採制限によるものです。
そして今回、第3回目は新型コロナウィルスのパンデミックの複合要因による木材急騰でした。
こうして3回のウッドショックを分析すると、すべて外国産材に関わる要因に振り回されていると判断できます。
ウッドショックからの教訓を活かすには
さて、この事実を教訓に、どうすればウッドショックのような海外起因の木材価格急騰を回避できるか、ここで考えてみたいと思います。
ずばり、一番の解決策は日本の木材自給率を上げるのが近道と考えます。
林野庁発行森林・林業白書によると、日本の木材自給率は近年増加傾向ではありますが、2019年の段階で37.8%です。木材自給率を90%台まで押し上げることが出来たら、外国産材に対する価格交渉の優位性を含めて状況は大きく変わると思います。今回のような海外木材価格の急騰が起きた場合、国内在庫材で急場をしのぎ、海外からの輸入を控えることもできます。
海外との価格交渉において、高額なら購入しない対応ができるので、価格が希望する値まで落ち着くまで待つことも可能となります。
では、90%の木材自給率は可能なのでしょうか。
私見にはなりますが、答えは「可能」だと考えます。
実は1955年から1960年の間、95%近くの木材自給率を維持していました。それが徐々に価格の安い輸入丸太に押され、木材自給率を落としていた経緯があります。輸入丸太が高騰している今こそ、国産材へ切り替えて木材自給率を再び上げるタイミングではないでしょうか。
国産材国内シェアを自給率90%まで高めることで、経験効果と規模の経済性の恩恵も加味することができます。
経験効果とは、高シェアによる伐採・運搬・加工などの経験値をより多く得ることにより、さらに効率的な生産品を生み出す機会が増えることです。
そして規模の経済性とは、同時期に機械を動かし生産効率性をあげ、コスト低減作用の効果を得られることです。
自給率90%は確かに高い目標ではありますが、かつて経験したことのある目標値なので、不可能ではないと考えます。ポテンシャルはあるのです。そしてこのI T技術と高い国内シェアによる経験効果と規模の経済性により、高品質、安い外国産の価格に負けない木材の生産に繋がるでしょう。
加えて、木材をつくる側とつかう側が一体となって、国産木材の価値を再認識することで、<国産材の需要をつくっていく>ことが大切です。
さて一方では自給率90%確保まで国内の木を伐採してしまっては、日本の森林がなくなってしまうのではないかと危惧されるひともいると思います。確かに木材自給率が高かった頃、日本の随所に無計画な皆伐により、山肌が露出した状態の風景が点在していました。
生産量を増やすからには、計画的な森林管理が不可欠です。近年はドローンをはじめとしたIT技術を活用した森林管理の手法が急速に発展しており、持続可能な森づくりに向けた基盤は整いつつあります。
これからは、使った分は「植林」していく
伐採と同じくらい重要なのが植林です。
林野庁資料によると、2018年には8.7万haの皆伐がされ、37万haエリアの間伐が行われました。
それに対して、植林は3万haで、植林量は著しく少ない計算です。持続可能な森づくりを実現するためには、「伐ったら植える」という、植林を含めた仕組みをいかにつくれるかが課題といえます。
前回「ウッドショック2.0」でお話しした、竹中工務店の北海道地区FMセンター建替工事では、建物に使用する木を伐採した森林にトドマツ植林を実施しました。竹中工務店が社会に提案する森林グランドサイクル®の活動そのもので、使わせていただいた木材は、苗木を植えて再造林していきます。
それは、約50年の計画的なサイクル、つまり苗木、下刈(雑草の駆除)、除伐(成長不良の木を除く)、裾枝払い(定期的に枝を落とす)、間伐(全体的に日光が届くように、木を間引きする)を行い、良質な樹木を育てる一連のサイクルです。
そして、樹木が十分成長したら、様々な木材資材として、また使わせていただく。この循環は何回もつづき、千年でも続く森林をつくっていけるでしょう。
最後に、私が考えるウッドショックからの教訓は、まずは国産材の比率を上げることにより、海外動向に左右されないビジネス体質をつくること。
さらに、使ったものは元の状態に回帰していく森林グランドサイクルのような発想を他のビジネスにも転用し、大きな循環型社会システムを構築していくことではないでしょうか。
text:鈴木秀明