木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2022.02.15
【北海道地区FMセンター】現場日記③木架構デザインのはなし
『道産木の使い方×ダブルティンバー=道内森林グランドサイクルの好循環を生む』

今回の日記担当者
金田崇興 Takaoki Kaneda
東京都出身。1999年竹中工務店入社。2000年から2019年まで竹中工務店東京本店設計部構造部門で設計に携わる。江東区立有明西学園、HULIC &New GINZA 8などの構造設計を担当。2020年より竹中工務店北海道支店設計部構造グループへ。北海道地区FMセンターの構造設計を担当。

みんなでまわそう!「道内森林グランドサイクル」

竹中工務店は「森林グランドサイクル」を提唱し、森林とまちをつなぎ、私たちの社会生活に森を取り込む活動を進めています。

特に北海道支店では「道産木のある未来を見たいから」をキャッチフレーズに道内の豊富な森林資源を有効活用した地産地消によるものづくりを目指して積極的な木造・木質化活動に取り組んでいます。

そんな雰囲気の中でスタートした竹中工務店『北海道地区 FMセンター』建替計画は、半ば必然的に「道内森林グランドサイクルを促す北海道ならではの木造建築」を実現させることが大きなプロジェクトテーマとなりました。

では、どのような計画が目指すテーマに相応しいのか。道産木をふんだんに使えばそれで良いのか。デザインが優れていれば良いのか。 

色々考えていく中でたどり着いたのが「道産木をこれだけ使いました」という結果を示すだけではなく「これからはこんな使い方もいかがでしょうか」というメッセージを込めた建物にできないかという思いです。それは「まずは道内から」というローカルな視点です。

一般流通材のみで架構を組むこと

道内で完結する木造建築をつくるには、道内の木材調達・製造の事情に合わせた材料選びが肝要となります。

広々とした気持ちの良い執務空間をもつオフィスビルの計画とするならば、大断面集成材の梁を使って柱から柱までのスパンを大きく確保したいところです。

が、調べてみると、道内で大断面集成材を製造できる工場は極めて限られており、ほとんどの工場は一般流通材と呼ばれる戸建住宅用の小中断面サイズまでの製造に限られていることがわかりました。

小中断面材の最大寸法は、短辺が120ミリまで、長辺が450ミリ程度以下までとされています。戸建住宅の場合、標準的なスパン構成は1.82メートル×3.64メートル程度で、柱の断面サイズは105ミリ×105ミリでも十分な構造性能を確保できる規模感です。

一方、オフィスビルでは、建物用途上、住宅よりもスパンを大きく確保する必要があり、設計荷重も住宅用より重く(約1.4倍)評価しなければなりません。

このような条件下で単純に木造架構を組もうとすると、一般流通材の材寸範囲内ではとても設計できず、より大きな断面が必要となってしまいます。

新木架構システム「ダブルティンバー」

これら道内木材調達・製造事情の課題を解決して、道産一般流通材のみの架構を実現させるために新しく考案した木架構システムが「ダブルティンバー」です。

考えかたは至って単純。小中断面材1本では設計荷重に耐えられないのであれば、全ての部材で小中断面材2本を組み合わせて使ってみようという発想です。

これにより、道産一般流通材のみで構成するという構造計画コンセプトを表出した架構デザインとしています。

3.64メートル×4.55メートルスパン(戸建て住宅の標準スパンの2.5倍程度)の架構の構成は、在来軸組工法を採用し、柱を二重柱としたうえで、4.55メートルスパン方向(上の左図で上下方向)は二列梁を配置、これに直交する3.64メートルスパン方向(上の左図で左右方向)の梁は二列梁を挟み込んだ二段梁を配置しています。

このように、二重の組み合わせ方は単純に部材を束ねてしまうのではなく、部材どうしが一定のスキマを確保しながら合理的に柱梁仕口で組み合わさるしつらえとしました。

これらの二列・二段梁の更なる小断面化を狙って、梁と梁の接合部位置にも工夫をしています。一般的な工法では柱から柱までの間に一本の梁を架け渡しますが、本システムでは連続して配置した梁の両端部の接合位置をあえてスパンの内側に寄せた構造としています。

これにより接合部間をつなぐ梁長さが短くなり荷重による梁の変形が低減され、結果として梁断面を小さくすることを可能としています。

梁の構造と変形のイメージ

採用した小中断面材1本のサイズは、柱が120ミリ×120ミリ、梁が幅120ミリ×成240ミリの一般流通材で道産カラマツ集成材としています。また耐震性能を確保するために重要となる筋交も120ミリ×120ミリ材の二重構成として集約配置した点が、必要な執務空間の確保に一役買っています。

今回、考案した「ダブルティンバー」は在来軸組⼯法の応⽤であり、設計から調達・製作・施⼯に至るまでの各フェーズにおいて特殊技術を必要としない汎⽤性の⾼いシステムです。

今まで、主に戸建て住宅分野でしか使われていなかった一般流通材を活用して、非住宅建築の新しい架構システムへと展開できたことが、今後の「道内森林グランドサイクル」を促す一助となればと願っています。

更にその先の全国展開に大きな期待をこめて。

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