ナラ枯れ(ならがれ)とは
ナラ類や、カシ、シイ類などブナ科の樹木*1が、カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)に媒介する糸状菌(カビの一種。以下ナラ菌)により水を吸い上げる能力を阻害され、夏季に突然枯れてしまう病気です。
正式名称は「ブナ科樹木萎凋病」といいます。
トップに使用した写真は令和3年に埼玉県狭山丘陵で撮影された上空写真です(©NPO birth)。葉が赤褐色に変色しているのがナラ枯れ被害木。狭山丘陵では令和元年度にナラ枯れが確認された後、被害が拡大し、令和2年には約900本、令和3年には約4,300本にまで増加しています。
近年、各地で集団枯死し、全国的に被害が広がっています。
ナラ枯れのメカニズムは次のとおりとされています。
1.5~6月頃、カシナガのオスが繁殖のため樹木に穿入、辺材部に孔道をつくります。
孔道にメスを誘い、メスが卵を産み巣づくりをはじめ、オスとメスが樹木内を住処とします。
2. カシナガのメスはナラ菌を共生菌としており、ナラ菌を巣に持ち込み孔道壁面に生える酵母
を餌に幼虫を育てます。
3. カシナガのオスや幼虫が、木屑やカシナガの糞を穴から排出します。*2
4. ナラ菌が樹木細胞内に侵入し樹木が感染、木部の樹液流動が停止し、梅雨明けから晩夏に
かけて枯死します。(樹液を出し抵抗することで生き残る木もあります)
5. 幼虫は越冬後に孵化、成虫は春先まで孔道内で生存、新たに育った成虫が5月以降に飛び出し
繁殖を繰り返します。
日本各地で発見されているカシナガは外来種ではなく、遺伝的な組成分析からも昔から日本に生息していたカシナガが繁殖していることがわかっています。
かつてコナラなどの樹木は薪・炭などに使われ、定期的に伐られ更新されていましたが、人の暮らしの変化と共に利用の機会が減少し、小径木から大径木へとコナラ林が変化していきました。
カシナガは、健全木だけでなく風倒木や衰弱木を、若い小径木よりも繁殖効率の良い大径木を好み、集中的に穿入します。これがナラ枯れ被害の拡大に繋がったといわれています。
健全木は伐採しても萌芽更新ができますが、ナラ枯れの被害木は伐採しても再生できないため、被害の拡大はそのままコナラなどの林の消失となり、林に生息していた動植物も姿を消していきます。
ナラ枯れは、倒木の危険や景観が悪くなること、シイタケ栽培への影響などから、各地で対策が行われています。
治療法は確立されていませんが、主に次のような防除対策や木の利用がすすめられています。
・被害木を根元から伐採 伐倒駆除+くん蒸、破砕
・被害木を伐らずに行う 立木処理+くん蒸
・粘着シートによる未被害木へのカシナガ穿入防止
・樹幹への薬剤注入。
・トラップによるカシナガ捕殺
・被害木切株へのシート囲い(カシナガ飛散防止)
・被害前に伐採して、萌芽更新させる。小面積皆伐。
伐採木は薪・炭・チップ・しいたけのほだ木、木製品や家具へ利用。
被害木の利用については、被害区域の拡大を防ぐため行政機関の定めるガイドラインを遵守し、取り扱います。
また、森林をとりまく環境の変化がもたらす土壌の質低下や、人による踏圧(根株周りの土を踏み固めること)などが、知らず知らずのうちに樹木を衰弱化させる要因となるとされています。
木の管理者だけでなく、森や緑地へ入る私たちも、樹木の生命線である地中活動を守らねばなりません。土中環境改善が樹木の健全化、さらにはナラ枯れ対策に繋がると注目されています。
*1:
コナラ属(ミズナラ、コナラ、クヌギ、アベマキ、カシワ、ナラガシワ、イチイガシ、アカガシ、アラカシ、ウラジロガシ、シラカシ、ウバメガシ等)、クリ属(クリ)、シイ属(スダジイ、ツブラジイ)、マテバシイ属(マテバシイ)など。ミズナラ・コナラが枯れやすいとされている。
*2:
排出された木屑や糞が粉状になり、幹や根元に積もる。これをフラスといい、穿入孔とともにカシナガ被害木の特徴とされる。
参考文献 :
ナラ枯れ被害対策マニュアルー被害対策の体制づくりから実行まで(一般社団法人日本森林技術協会)
引用文献 :
ナラ枯れとは?その原因は?対策はあるのか?(特定非営利活動法人 NPO birth)
Text: 竹中工務店 木造・木質建築推進本部