木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2022.04.13
ビルとイエのあいだの建物は、北海道の森林から切り出された木材でつくる 竹中工務店 設計部 垣田 淳さん
〜Hokkaido FM Center Story〜

『Hokkaido FM Center Story』は、竹中工務店の木造建築『北海道地区 FMセンター』ができあがるまでを巡る物語です。

この建物は、北海道札幌市の住宅街に建ち、地上2階建、広さ856.46平方メートルの木造オフィス計画です。この低層木造建築は「北海道だからこそ」生まれたという価値を秘めています。環境、気候、地域経済ーー北海道が内包する社会課題を解決するために⽊を⼿にとった⼈びとの、肥沃な⼟地がもたらす⼒強い森林グランドサイクルをお伝えします。

(プロフィール)
語り手
垣田 淳 Jun Kakita
東京都出身、北海道育ち。2005年北海道大学大学院修了後、竹中工務店入社。東京本店設計部に約10年所属した後、2017年より北海道支店設計部。2012年から2020年まで北海道大学非常勤講師。

北海道地区FMセンターを設計するにあたって、一番大事にしたこと

北海道地区FMセンター(以下「FMセンター」)のプロジェクトは、古くなった建物を改修して働きやすいオフィスをつくることを目標にスタートしました。

あそこで働く約40人の社員と「どんなふうに直そうか」と、定期的にワークショップを行い、つくるひととつかうひとが一緒に考えながらプランニングを進めていきました。

計画がはじまったのはコロナ禍直前の2019年夏頃。ちょうど働き方改革が叫ばれている最中でした。その後コロナ禍となりウィズコロナ、アフターコロナの働き方も意識して、実際に建物を使う人々が楽しく働ける場所をつくろうと半年以上にわたり話し合っていきました。

結果的に改修ではなく建替えて新築する方向に話が進み、より柔軟で斬新なプランニングができるようになりました。

僕は、学生時代から原広司さんの「集落の教え100」やバーナード・ルドルフスキーさんの「建築家なしの建築」という本が好きで、海外や日本を旅しては、現地の古い街並みや集落を見て回っていました。

どこのまちや集落でも共通しているのは、地場の材料や技術・知恵を駆使しながら、その場所の環境に適した住まい方がなされてるということです。時間の流れのなかで、無理なくその場所にフィットしているように感じられました。

FMセンターが位置するのは、かつて屯田兵が開拓した山鼻村と呼ばれた地域で、まちと農村の間のようなところでした。土地の歴史を調べていくうちに、北海道の豊かな森林資源を活用して「ビルとイエのあいだ」のような雰囲気の都市木造建築にできればと考えるようになりました。

北海道の森林から切り出された木材で木造建築をつくるには

竹中工務店北海道支店では、近年「道産木のある未来を見たいから」を合言葉に、色々な形で木造建築にチャレンジしてきました。

2020年2月にオープンした北海道白老町の「mother’s+(マザーズプラス)」道産木材による木造建築

マザーズプラスを設計した担当者から耳にしたのは、道産材をつかっても木材加工が道外になってしまうというジレンマです。

大断面の集成材をつくろうとすると、北海道では加工できる工場が限られていて、本州で木材加工を行うケースがほとんどです。木材の輸送費がネックで道産材が使われなかったり、そもそも木造というチョイスに至らない原因になっていました。

ここで、例えでよく使われる辛子明太子の話をしたいんですけど、北海道で採れた安価なスケトウダラの卵が九州に運ばれて、辛子明太子に加工され、北海道で高価な明太子として売られていることを、僕は北海道民としてすごく悲しいなと思っていて(笑)

北海道には森林を含めて多くの自然があります。札幌市は北海道最大の200万人都市ですが、それでも周囲は豊かな自然に囲まれています。そんな北海道の木を北海道で加工して、北海道で使う。北海道だけで森林グランドサイクル®を循環させたい。北海道だけで完結するものづくりをしたい。そう思いました。

道内で製材加工する工場の大部分は、住宅用の小径材加工を専門にしています。角材でいうと120角までが標準サイズで、この大きさであれば道内で多く流通しています。

120ミリ×120ミリのカラマツ構造材。

この120角の木材をつかって非住宅のFMセンターをつくれないか、構造設計の金田さんと相談しました。

通常、120角の木材をつかって設計すると、約3.6メートルおきに柱を建てなければなりません。住宅ならば十分なんですが、オフィス空間としては少し難しい。

そこで、120角をダブルで使ったらどうだろう、梁も柱もダブルで、組み合わせたらうまくいくんじゃないかと仮説を立てました。構造設計に相談したら、最初は苦笑されましたが、1日たって、「昨日の提案、いけるかもしれない」と。こちらのアイデアを、一晩、金田さんが考えてくれたんです。

ダブルにすることで柱の間隔を4.5メートルまで延ばせることがわかり、プランニングとしても、デザインとしても成立するんじゃないかと。

木造としたことで耐震性能を確保するためのブレースをたくさん配置する必要がありますが、ブレースもダブルで組むことで設置個所を少なくすることができました。オフィス空間にブレースを配置すると使いづらくなるので、ほとんどのブレースを外壁側に配置したことで結果的に外から木構造が見えるようになりました。木構造をデザインの一部とすることで、木造の短所が長所に変わりました。

ダブルティンバーによる外殻ブレース構造を用いた設計模型。

オフィスの構造体すべてを木造でつくることは竹中工務店の事例のなかでも少なく、通常のやり方ではうまくいかないことが多々あり、考え方を変えないといけませんでした。そんなときに面白いアイデアが出てきて、デザインとして昇華することができました。

今回は、直面した問題を解決して積み重ねていったものが、個性や面白さにつながっていったケースだと思います。また、FMセンターは、建てる地域が住宅地で耐火基準が厳しくなかったことも今回の挑戦には好条件でした。

竹中工務店は大きな建物を手掛けることが多いですが、このような小〜中規模の建物をローコストでつくる方法として、今回の木造建築がプロトタイプになればいいと思っています。

木は成長する過程で炭素を固定しますし、リサイクルしやすく環境に優しいので、時代背景から考えても圧倒的に木造がいいといわれます。20世紀はコンクリートと鉄とガラスで建築や都市が造られてきましたが、21世紀は木で建築・都市が造られていく時代だと思いますし、北海道の森林から切り出された木材で小さな建築から大きな建築、そして都市が造られていくのに適しているのだと思っています。

今回の挑戦について、北海道内はもとより東京や大阪のお客様からも問い合わせをいただいています。非住宅の木造建築は、現段階では木材調達から技術面にかけてコストが高いものという印象ですが、一般的に普及できるレベルをこの手法で追求していきたいですし、今回のこのモデルをオープンソースにすることで、みなさんにたくさん使っていただきたいと思っています。

今回のプロジェクトのように予め、小さなスパンの設計を許容したり、新たに小断面の木材で大きなスパンを飛ばす工夫をすることで、道産材を道内で加工することを見据えて設計を行う。そうすると、北海道の木材が消費され、北海道の木を感じる空間で日常の生活をすることができると思います。

設計者はより川上の林業(森林や工場など)の状況を知ることで、新しい設計に結びついていくと考えています。

またFMセンターでは、環境配慮技術もふんだんに配し、次世代の木造建築にしました。亜寒帯気候の北海道でありながら、温熱入れ子構成や効率的なエネルギー循環により、快適でここちよい職場環境を実現しています。

FMセンターで働くひとたちは、オフィスと現場、北海道支店を行き来します。そこにテレワークもプラスされて、色々な場所で働きます。だからこそ、「どこでも働ける」雰囲気を持つ、オフィスをつくろうとABW(Activity Based Working)を導入しています。

コロナでテレワークが推奨されましたが、そこから一周まわって、オフィスの重要性が再認識されているのが今ですし、「今までのオフィスの形態でいいのか」という思いも生まれています。

そんな、過渡期に生まれたのが今回のオフィスです。

北海道で育った設計者の原体験が、北海道の森林を守る

僕は、東京で生まれ、5歳から社会人になるまで、北海道札幌市で育ちました。北海道の自然は原風景として無意識的に自分のなかに存在していました。学生時代、海外・道外を旅したときに、北海道の風景や環境が日本の他の地域とは大きく異なり、世界的にも豊かな地域であることに気づき、卒業設計では「建築が北海道の自然にどれだけ寄り添えるか」をテーマとしました。
その後、社会人になって東京で10年働いてから北海道に戻って、改めて北海道の自然の豊かさと可能性を再認識し、自然と都市・建築の関わりについてより意識的により具体的に考えるようになりました。

最近、縁があり、母校の札幌南高校が所有している学校林「六華の森」に行く機会がありました。記憶がかなりあいまいなのですが、高校1年の時に全員でこの森に下草刈で来ているのです。

「六華の森」

当時(1911年)の山田幸太郎校長の「造林育人」の理念と発意で始まったこの学校林は100年以上前から植林されたカラマツ・トドマツを主とした人工の針葉樹林です。現在、この森を管理しているOUTWOODSとの交流から、森を機能させるために開拓している「森の道」から出た風倒木をデジファブ加工してFMセンターのベンチにしました。

これからは北海道の自然の恵みをわけてもらうだけではなく、森林や自然環境をつくりながら、ひとに心地良い都市・建築に少しでも還元できればと思っています。



text:アサイアサミ photo:佐々木育弥

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