木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2020.02.13
地域の木で家をつくり、断熱することで、エネルギーと経済を循環させる。竹内昌義さんに聞く、「木のまち」のつくりかた

「キノマチ会議」は、グリーンズと竹中工務店がタッグを組み、全国から仲間を募りながら、木のまちをつくるための知恵を結集し「持続可能なまちを、木でつくる」ことを目指すキノマチプロジェクトのリアル・ミーティング。また、グリーンズに連載中の、木のリテラシーを広げる記事をキノマチウェブでもシェアします。

木のまちをつくろう。
そんなビジョンを掲げて、株式会社竹中工務店とともに進めている連載企画「キノマチ会議」では、木のまちをつくるために、さまざまな領域の実践者にお話を伺っていきます。

第二弾となる今回は、地域の木材を使って断熱性能の優れたエコハウスをつくってきた建築家・竹内昌義さんに登場いただきます。

竹内さんは、2018年にはその取り組みをさらに広げた「エネルギーまちづくり社」を設立。個別の住宅だけでなく、エリアごとまとめてエコハウスにしてしまう斬新なまちづくりも始めました。

また、竹内さんはグリーンズでは断熱DIYワークショップを始めた「断熱先生」としても知られています。DIYからエコタウンまで幅広く手掛ける竹内さんに、ノンフィクションライターの高橋真樹とグリーンズ代表の鈴木菜央が、これからの「木のまち」のつくり方について伺いました。

竹内昌義(たけうち・まさよし)
1962年、神奈川県生まれ。一級建築士。省エネ建築診断士。「みかんぐみ」共同代表、「エネルギーまちづくり社」代表取締役。専門は建築デザインとエネルギー。保育園、エコハウス、オフィス、商業施設の設計などに携わる。2000年より東北芸術工科大学にてデザイン工学部建築・環境デザイン学科の教授を務める。

左から高橋真樹、グリーンズ代表・鈴木菜央、竹内昌義さん。

もっと本物の木を使おう

高橋 竹内さんは「住宅にもっと本物の木を使おう」と呼びかけていますが、詳しく教えてもらえますか?

竹内さん 日本は国土の3分の2が森林なのに、有効に使われていません。資源のない国なのにもったいないですよね? これを利用しない手はありません。

現在の日本のビジネスモデルの多くは、人口が増加している時代のものです。建築業界では、長持ちしない新築の家ばかりを建てて、スクラップアンドビルドで稼ぐことが当たり前になってきました。

その中で、一見すると木に見えるような木目のついたプラスチックシートなどが多用されています。安くて大量生産できるような素材がキレイなのは最初だけで、どんどん劣化していきます。本物の木なら、傷つくことはあっても時とともに味わいが出てくる。その差は歴然です。もっと建築に本物の木を使いましょうよ、と思うわけです。

人口減少の時代を迎えたいま、そのような大量生産・大量消費のビジネスモデルが破綻しつつあります。これからは、空き家の利活用も含めて、使われていない資源を徹底的に使い尽くすことが求められてきます。その代表が森林です。森林は、住宅という出口をきちんと用意すればいくらでも活用の道があるからです。

とは言え、単に国産材で家を建てると外材より高くなってしまう。かといって安売り合戦をすると産業が育たない。そこで、国産材の家に付加価値をつけてきちんとした価格で売っていく戦略が必要になってきます。僕はその付加価値のひとつが、断熱だと思っているんです。

断熱すれば薪ストーブはいらない?

高橋 断熱はどうして大事なのでしょうか?

竹内さん 日本の家は断熱性能が悪く、エネルギーをダダ漏れさせています。それを抑えましょう、と提案しています。

高橋 高いお金を払って海外から輸入した燃料でつくったエネルギーを、捨てているのはもったいないと。その意味では、森林を活かす話ともつながっていますね。

竹内さん その通りです。それから住宅の暑さ、寒さは健康ともつながっています。家の中でヒートショックで倒れる人が、年間2万人近くいます。また、冷え性なども家の性能と関係があります。僕は「冷え性の人がいる」のではなく「冷えやすい人が寒い環境にいる」ということだと思っているんです。断熱すれば体質を改善することもできる。

菜央 前に竹内さんから、ちゃんと断熱されている家なら、真冬の夜に室温が21℃くらいで、寝るときに暖房を消しても朝起きたときに20℃近くあるという話を聞きました。そりゃ快適だろうなと。単に暖房が薪ストーブだからエコだということではなくて、断熱がしっかりしていれば、小さな熱源でも十分暖かいということですよね?

竹内さん ちゃんと断熱していれば、薪ストーブはほとんど使わなくてもいい。寒い家で薪ストーブを使っても、薪の消費量が多くて薪割りが大変です。薪ストーブを使いたい人こそ、断熱とセットで考えるべきでしょうね。

地域の木材と断熱が循環型のまちづくりを生む

高橋 国産材を使うこと。それから断熱の大切さはよくわかりました。今度はその2つを柱にしてまちづくりにチャレンジされていますね?

竹内さん 昨年、仲間たちと「エネルギーまちづくり社(略称: エネまち社)」を設立しました。個別の家づくりだけでなく、まちごとつくりたいと考えたからです。

エコハウスもまとめて建てたら地域の木材が流通するし、外部から購入しているエネルギーを減らす効果も増します。それを街区レベルでやれば、お金を地域内で循環させて、結果的に地域を豊かにすることができる。

高橋 木と断熱のまちづくりを成功に導くポイントは何でしょうか?

竹内さん 林業が大事だと思います。参考になるのは中央ヨーロッパの林業です。同じヨーロッパでも、林業の現場が港の近くにあるところでは、船に積んで輸出するので距離は関係ありません。遠くの国にも輸送コストをほとんどかけずに運べるからです。

でも海のない中欧ヨーロッパは、道路で運ぶしかないので、都市と近い森林から木材を調達して消費する仕組みをうまくつくってきました。それで地域の木材で家が建てられるようになったのです。

高橋 資源やエネルギーを海外に依存して、お金を地域外にどんどん出しているいまの流れを止めて、地域内に還元しようと。

竹内さん そう。地域にお金が落ちるようになれば、そのお金はまた地域に投資されていきます。住宅産業って結構なお金が動くので、小さなレベルで始めても影響は大きいんですよ。

地域の木材で断熱をした家がエリアごとに増えていけば、地域にお金が残り、エネルギー消費が減り、人々の健康が改善されるという一石三鳥の取り組みになる。それを実現するために、いまいろいろと仕掛けているところです。

紫波町のエコハウスはなぜ売れたのか?

高橋 「エネまち社」ができる以前に、竹内さんがコーディネートされた岩手県紫波町の「オガール・タウン」にある57戸のエコハウスは、そのようなまちづくりのモデルになるのでしょうか?

竹内さん そういう面もあります。紫波町は町の新しい中心地となる場所を大規模に造成しました。新しい町役場をはじめ生活に必要なものが全部あって、みんなが集まりたくなる地域になったのです。そこに57戸の住宅を建てようと計画されました。

ただ紫波町は循環型社会を掲げていたのに、当初はハウスメーカーに普通に建ててもらおうとしていた。「それは循環型ではない」という声が出て、エネルギーのことも考えられる建築家は誰か? となり、僕にお呼びがかかりました。

紫波町でエコハウスの担当となった部長さんは意識が高くて、エネルギーとして市の外にお金を出さないコンセプトを大事にされていました。彼は、「岩手県は米を800億円分つくっているのに、化石燃料の購入で800億円分使っているんだ。ガソリンを買ったら何も残らないのはおかしいよね」と言うんです。それが地域の木材を使って家を建て、断熱してエネルギー消費を減らせれば、利益の一部は戻ってくるよねと。

まさしくその通りだと思った僕は、ふてぶてしくも「自分たちが建てている一番いいものと同じ断熱レベルの家をやります」って言っちゃったんです。僕は基準を決める側で、実際に建てて売るのは地元の工務店だったので、最初は工務店から「そんな高い家なんか売れないよ」とか散々言われてしまいましたが(笑)

オガールタウンの動画。3:53から紫波型エコハウスの施工の模様も紹介されています。

高橋 レベルの高いエコハウスをそれだけの数まとめて建てるというのは、日本では初めてのプロジェクトでしたよね?周囲からは驚かれたと思います。ちなみに周辺の新築住宅よりどれくらい高かったのでしょうか?

竹内さん およそ2割増しです。でも光熱費やメンテナンス費が安くなるので、長期的な視点では決して高くはないのですが、みなさん初期投資だけで判断されるので、コンセプトを理解してもらうのに時間がかかりました。

高橋 最初の1年はなかなか売れなかったそうですが、何がきっかけで売れるようになったのでしょう?

竹内さん 当初は僕も心配していました(笑)

一番大きかったのは、最初に建ててくれた2〜3軒の住人の方の口コミの影響です。紫波町は冬にマイナス15℃くらいになるので、朝起きたときまったく寒くないというのは圧倒的に強い。そこからは評判がどんどん連鎖していって完売につながりました。もちろん、家だけでなくオガール・タウンというあのエリアが、魅力的なまちになったことも大きいです。

家が売れだすと、工務店の技術レベルもどんどん上がってきて、付加価値が高い家がつくれることで利益も出るようになりました。最初は不満が多かったのですが、いまではそこに関わった工務店が、オガール・タウン以外でもエコハウスを建てるようになっています。それもいい連鎖だったと思います。

菜央 木のまちづくりは仕事も生み出すんですね。

竹内さん 新しい産業をつくるって難しいじゃないですか。でも家のつくり方を変えるだけで、産業のあり方が変わっていく可能性を感じました。

竹内さんが新たに手がける山形エコタウンのモデルハウス「土間のある家」。

森林とエネルギーと人の循環

高橋 日本で「木のまち」をつくるには何が必要になるでしょうか?

竹内さん 森林のことばかりを考えてもうまくいかないと思います。いままでもいろいろなところで「木質にしたらいいよね」という話がされてきましたが、だいたいうまくいっていないから。でもそこにエネルギーという考え方を加えることで、いろんな幅が広がるのではないかと思います。

断熱してエネルギーを減らすことで負荷が軽くなる。そのつながりを意識することが大事かなと。 

菜央 エネルギーの観点が入ることで、森林資源の課題解決とエネルギーの課題解決とが結びつくということですね。さらに外にお金を払い続ける不安からも解放される。

竹内さん 再エネをやることももちろん大切だけど、省エネの部分は再エネよりもはるかに簡単に実現できるし、やれば絶対にすごいインパクトがつくれる。そこでそれだけコストを減らせたからその分で木を使おうという流れになればいい。

コストに余裕のないところで「木を使おう」とだけ言ったって、結局は「やりたいけどできないよね」で終わってしまうと思います。

高橋 最後に、これからやっていきたいことは何でしょうか? 

竹内さん 森林資源を活かしたエコタウンを、日本全国に増やしたいですね。その過程で人の循環も増やしたい。例えば車に乗れなくなった高齢の方が、町の中心地から遠いところに広くて寒い家に一人か二人で住んでいるような状況があります。一方で、若い人は家を手に入れたいけど難しかったりする。

そこで、高齢の方には小さくても街の中心にある便利で暖かいエコハウスに住み替えてもらって、空いた郊外の家には若い人たちに住んでもらう。古くて寒い家は自分でDIYしてもいいし、工務店にやってもらってもいいけど、地域レベルで工夫すれば家を所有するバリアははるかに下がります。そのような、地域の中でお互いを活かし合う人の循環も生んでいきたいなと思っています。

森林もエネルギーも人も、今すでにあるものの組み合わせをちょっと変えるだけで、いろんな新しいことができそうだなという気がしています。ワクワクしますね。

(インタビューここまで)

竹内さんのお話を伺って、森林だけとかエネルギーだけで物事を考えていても実は何も解決しないなと感じました。

僕はエネルギーの分野をよく取材するのですが、最近は「森林を活かすために木質バイオマス発電を」というプロジェクトがやたらと増えています。でもおかしなことに、まだ建材として使えるような木が燃やされてしまうケースもある。本来は薪ストーブと同じで、建材にも家具にも使えない従来は捨てられていた木をエネルギーに換えるから価値が出てくるのですが。

そういう本末転倒なことをやっていては森林のためにも社会のためにもならないと思います。竹内さんが話されたように、複雑に絡み合った問題に対して、個別にではなく同時に取り組むことで総合的な解決を目指すことから、「いかしあうつながり」が生まれるのではないかと感じました。

みなさんも、ぜひ一緒に「木のまち」をつくっていきませんか?

text:高橋真樹 photo:廣川慶明

キノマチSNSの
フォローはこちら
  • キノマチフェイスブックページ
  • キノマチツイッターページ
  • instagram
メールマガジン
第1・第3木曜日、キノマチ情報をお届けします

    上のフォームにメールアドレスを入力し、「登録」ボタンをクリックすると登録完了します。
    メールマガジンに関するプライバシーポリシーはこちら
    JAPAN WOOD DESIGN AWARD