木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2022.07.13
キノマチウェブ編集長、里山に入って脱炭素はもちろん、生物多様性のことにも思いを馳せる

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そこで気持ちも新たにキノマチウェブ雇われ編集長としての2年余を簡単に振り返ってみます。

ちなみに、トップの写真は北摂・猪名川流域の里山の落葉広葉樹林です。

木のまちづくりへ針葉樹林活用を掘り下げていく

キノマチウェブでは、全国各地の森林を取り上げてきました。

和歌山県では、紀州杉や紀州檜、大分県で日田杉、北海道では天塩のカラマツや余市でのトドマツ、そして長野県では木曽五木など。これらの森林には共通点があります。それは主に戦後に植林されたかなり大規模な人工林であること、そして今、その森林資源は伐採活用期にあり、建築プロジェクトを通して構造架構や家具などの目に見える製作物に生まれ変わっているということです。

川上から川下は、森林グランドサイクル®という思想(コンセプト)で繋がっていて、その目指すヴィジョン(あるべき姿)の到達点として各地にキノマチ(森とまちがいかし合う関係が成立した地域社会)が少しずつ生まれ始めてきている手ごたえも感じています。

さらに「脱炭素」への取組みがクローズアップされ、今年になって「エネルギー問題」も加わって、木造木質建築の推進やそのための国産木材の活用、地域でのサプライチェーン構築への取組みがますます加速している感があります。

この傾向は一過性のものではなく、2030年までの目標であるSDGsは、通過点に過ぎず、持続可能な社会の実現に向けたスタンダードになっていくとキノマチプロジェクトでは考えます。

生活に密着した里山の広葉樹林とは

と言いながら、今回、僕は兵庫県川西市の北摂・猪名川流域の「里山」に入ってきました。

里山とは「昔昔、お爺さんが柴刈りに入った」とかの有名なおとぎ話の書き出しにも表現された「人が関わることで成立した人里近くの森や林」のこと。まさにキノマチを地でいっています。そして元来、里山の恩恵によって僕たちの生活基盤が形成され、ウサギ、ウグイス、フナ、カエル、トンボ、チョウなど、多種多様な生物と人々が共生する、ある意味ではかつては全国各地に存在していただろうという地域です。

北摂・猪名川流域周辺の里山

今回の兵庫県里山への入山では、これまで話題の中心だった針葉樹の人工林での森林活動とは異なり、暖温帯に成立するの落葉広葉樹林が対象となります。

北摂・猪名川流域の里山で有名なのは、人々が薪炭材を持続的に収穫することを目的として維持されてきた台場クヌギを含む二次林です。特にこの地域の炭は茶道用の高級炭として生産地名がついた「一庫(ひとくら)炭」、「池田炭」で有名です。それらは炭の断面形状に由来した「菊炭」として知られています。

付近には「菊炭」の窯がありましたが、4トンの細い原木を3日間、釜で焼くことで800キログラムほどの菊炭が出来上がる、とのことでした。

ここの菊炭は火付きや火持ちがよく、火力も強い。それでいてパチパチ跳ねず、煙も出ないため、和服を焦がさず、匂いもつかないことで大変重宝されているようです。

台場クヌギは樹齢100年以上の「台座」である幹とその幹を地上部より1メートルから2メートルの高さで伐採した後に、伐採部から再生する枝(萌芽枝)からなります。ちょっと見た目はグロテスク。

台座の樹齢は大きなものでは100年以上、それに対して萌芽枝は6年から8年で茶道用の菊炭用に伐採され、そこからまた新たな萌芽が生まれてくる。まさに再生可能、サステナブルな樹木です。この地域での人と菊炭の関係の歴史は室町時代後期から始まったとされているので500年以上に渡って人と森が生かし合う関係が成立している伝統的な里山です。

菊炭となったクヌギ
お茶会1回分の菊炭セット
原木となる北摂・猪名川流域の台場クヌギ

一方でこのような里山を維持するために、雑木林に適度な日光が差し込むように手を入れて管理することも大切になってきます。この地域の生活を支えてきた台場クヌギにしてみても現在では、利用されているのはわずかになり、放置された台場クヌギの中には、萌芽幹が大きくなり過ぎて、台座と同じくらいになったものも散見されています。

また人影が里山から遠ざかることで鹿が大量に繁殖し、木の芽などを根こそぎ、食べ尽くしてしまって下草が生えていません。鹿害はかなり深刻になっています。このまま人の手が入らないと老齢化や台風などの被害も加わってやがて枯死し、土壌の健全性、里山景観と共に樹木、草木とそこに集まる昆虫などの生物多様性も失われることになります。

環境劣化が少し、進んだ里山の森林 

里山の森林管理研修

そんなこともあり、僕はこの地域の里山のひとつ、清和台の森で森林管理手法の研修に参加しました。まず、どの木を伐ってどれを残すか、を検討するために斜面の10メートル四方(100平方メートル)に楔を打って区域を定め、その中に生息する高さ1.3メートル、胸高直径1センチ以上のアカマツ、アラカシ、ヒサカキ、ホウノキなどの樹木毎にその種名、樹高、周囲長、被度(%)を調査します。今回の研修ではそこまで。里山の健全化を目指すための伐採については10月に再び、同じ里山に入るのでその際に報告したいと思います。

森林管理のための毎木植生の調査 

生物多様性と脱炭素の両輪へ

さて最近では「脱炭素」や「気候変動」への対応という文脈から森林グランドサイクル®、森林活用が語られることが多いのですが、一方で今回のような里山の維持管理への問題意識も欠かせません。

こちらはよりヒューマンスケールの「自然共生」や「生物多様性」への貢献ということができると思います。そういえば、夜間研修「ナイトアクティビティ」の際に付近の河岸で何匹かのゲンジボタルが飛翔する光景を目の当たりにしました。大阪伊丹空港から北西にわずか11キロメートルのこの場所にホタルが生息しているとは。まさに里山が自然共生、生物多様性の基盤であることを改めて実感しました。

夜にはゲンジボタルが舞う里山の河岸

多様な海と山(森林)が交差する、唯一無二の国、日本

サステナブルな社会実現のための「自然共生」、「生物多様性」への取組みは「脱炭素―森林グランドサイクル」との両輪の片方とも言え、益々、重要になっています。

「脱炭素、気候変動」と「自然共生、生物多様性」の両輪は地球規模の課題であり、相互に密接に関係し、今や取り組みには待ったなし、ですが、いずれも海と山(森林)を結ぶ水と空気の循環に深い関わりがあるといえます。

ここで海と山(森林)の両者に同時に目を向けた際、日本の世界における位置づけとして興味深いデータがあります。世界約200か国を「海岸線の長さ」と「森林率」で層別したらどうなるか、日本はどんなポジションにあるのかということです。

まずは海。日本の海岸線長さ(図1の横軸(km))は約3万キロメートルで何とアメリカや中国、オーストラリアより長い、世界第6位。それだけ海岸線が長いということは周辺の海域やそこに注ぐ河川領域も多様であり、生息する海の資源も多種多様であると推察されます。

一方で山(森林)はどうか。日本の森林率(図1の縦軸(%))は68.4パーセント、よく欧米と比べてフィンランドとスウェーデンに次いで世界3位、などとも表現されますが世界の国土面積が小さい諸国などを含めてもかなり上位にあります。

さらに日本の場合は南北に長く、緯度の際が大きく、四季があることからも森林やそこに生息する種も多様だと推定されます。総合的に海岸線が1万キロメートル以上で森林率が50パーセント以上の国はこの地球上に何と日本しか存在しないのです。全世界で空白を埋める唯一の国の日本(図1参照)。

ちなみに海岸線長さが0の国はスイス、オーストリアなど38か国、森林率2パーセント未満の国はアイスランド、イラン、クウェート、サウジアラビアなど17か国もある、これが実態です。

図1. 海岸線の長さ(km)と森林率(%)による各国分布図

この事実からも脱炭素だけでなく、生物多様性に対して、日本、そしてなによりもキノマチプロジェクトが、先陣を切らなくてはならないな、と改めて責任を感じた里山体験でした。

1被度:植物群生において、各植物が地表のどれくらいの割合を被っているかを、自分率あるいは等級で示すもの。等級であれば1:10以下、2:10~25、3:25~50、4:50~75、5:75以上という5段階に区分される。

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(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura 
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。

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