リモートワークが広がり、ワーケーションが注目される今。
「自然と触れ合える別荘がほしいけど、手が届かないな…」
「いろんなところに暮らしの拠点があって、友だちとシェアできたらいいのに…」
こんな声に応えるセカンドホーム・サブスクリプションサービスが、『SANU 2nd Home(以下、SANU)』です。
「Live with nature. / 自然と共に生きる。」というコンセプトを掲げるSANUは、リリースと同時に申し込みが殺到し、現在も多くの希望者がウェイティング中。そんな話題の宿泊サービスを体感すべく、八ヶ岳で2つめとなる拠点「SANU 2nd Home 八ヶ岳 2nd」に伺いました。
着いたのは、夜。明かりがほとんどない山道を抜けると、車のヘッドライトに照らされて、着陸状態の宇宙船かと見紛うような建物の数々が姿を現しました。それは、森の中にランダムに配置された高床式の「SANU CABIN」。
真っ暗な森に浮かび上がるSANU CABINの入り口(写真提供:ADX)
初めて泊まったSANU CABIN。衝撃と、戸惑いと…
「こいつが噂の、行列ができるサブスク別荘か…」という感慨とともにステップを上り、スマホでチェックイン。
入るなり、木の香りに包まれます。玄関のスイッチで明かりをつけると…緩やかな曲面が印象的な壁と、高い天井、ガラスの壁が目に飛び込んできます。ウッディではありますが、未来的なその空間に戸惑いを覚え、思わずウロウロしてしまいました。
木の中につくられた巣のようでありながら、未来感のある部屋の中
ゆとりのあるバスルームに、電子レンジやオーブン、IHコンロなどを備えたキッチン。エアコンもありながら、冬用のペレットストーブも。Wi-Fiもバッチリつながるし、これで洗濯機があればフツーに快適な暮らしができるわ、というスペック。
ふむふむ…とひと通り設備を見回して、木の幹に空いた穴に入るような感覚のベッドルームに座り、考え込みました。う〜む、「自然と共に生きる、って…」
モヤモヤを抱えたまま眠り、迎えた朝。ガラス壁にかかったカーテンを開けると、そこは、森。部屋にいながら、朝日を浴びて輝く木々に包まれるような不思議な感覚に心を掴まれました。
キャビンの窓からは、包み込まれるような森の風景が! キャビンを出るとそこは、朝の光に輝く森(写真提供:ADX)
建物の細部すべてに、森のための理由がある
部屋に着いたときに感じたモヤモヤと、朝に感じた興奮を抱えたままお話を伺ったのは、SANU CABINの設計・施工パートナーである株式会社ADXのCEO、安齋好太郎(あんざい・こうたろう)さん。まずは安齋さん自身に、SANU CABINを案内していただきました。
細部に至るまで、設計に込められた意図を説明してくれる安齋さん
外から見てまず「おっ」と思うのは、金属の杭でできた脚がついた高床式の家になっているところ。
安齋さん 第一優先に考えているのは、自然におじゃましている、ということです。
山の中にある建物は通常、切土や盛土をしたり、さらにコンクリートを敷いたりして平らな土台をつくった上に建てられます。そうすると、もともとその土地が育んでいた土壌や生態系を損ない、また風の流れを止めてしまったり、動物の行動を制限したりしてしまうことに。SANU CABINが高床式になっているのは、こうした自然への影響を少なくするためなのです。
土に埋まった杭はネジのようになっているので、建物を使わなくなったときには簡単に抜くことができるようにもなっています。
これが、地中に杭を打ち込む高床式の基礎
木の屋根や外壁には、剥き出しのボルトが。ここにもSANUの思想が込められています。
安齋さん 建築って、建てて終わりじゃなくて、建物が終焉を迎えたときにどのようなものにするかも大事だと思うんですよ。
天井や壁には、むき出しのボルトの数々が
建築物としての役目を終えて解体し、そのあとゴミにするしかない。そんな建物にしないために、SANU CABINは基本的に簡単に解体できて分別しやすい構造になっており、材木や部材をリユース、もしくはリサイクルしやすいようになっています。
こうした発想のもとになっているのは、家業として建築に携わっている安齋さん自身の体験。
安齋さん ADXという会社は、祖父の代から続く工務店の発展系です。つまり私は、工務店の三代目に当たるんですね。おじいちゃんが建てた家を解体し、父が建てた家をリノベーションすることがあります。その過程で、たとえば立派な梁があって再利用したいんだけれども釘やボンドでいろんなものがくっついているから廃棄物にせざるを得ない、そうしたことがとても多いんですね。
そういう体験を通して痛感するのは、建てる前から、建物としての役目が終わった後のことを考えることの大切さですね。メンテナンスしやすいこと、リサイクル、アップサイクルしやすいこと。SANU CABINの設計ではそこを徹底させています。
建てる前にも、考えることは、森のこと
環境を重視しているのは建物のつくりだけではありません。SANUは、エリア選定、そしてエリア内でのキャビンの位置などでもとことん「自然と共に」あることを意識しています。
自然を大切にするためにロジックやデータを重視する安齋さん
エリア選定の基準は「大切にしたい自然があること」。100くらいのエリアを候補として挙げて、地元の人と話したり歩き回ったりして、そこにSANUの拠点をつくった先の体験やライフスタイルを想像して、ようやく、1つの拠点の計画がはじまります。
そして、拠点を決めた後は、複数のキャビンの配置。ここにも、「自然におじゃましている」という、安齋さんの姿勢が現れています。優先されるのはそれぞれの土地ならではの生態系なので、極力木を伐らないように配慮してランダムな配置になっているのです。
安齋さん 建物は3、4カ月で建てられても、木が育つには何十年もかかるんですよね。私たちは森を3Dデータ化して、バーチャル上で木を伐らないように、木と人を近づけられるように配置を考えています。三角屋根にもそういう意図があるんですよ。枝や葉っぱを邪魔じゃましないようにして、キャビンの2メートル以内に木が近づくようにデザインしています。
安齋さん率いるADXの仕事は建設だけではありません。森林の資源評価調査や、森林地域のコンサルティングも行っています。森林の調査にいかされているのは最新のデジタル技術。山を丸ごとスキャニングして土壌のDNA調査も行い、1本1本の木をID管理するなど、徹底的に森の価値を「可視化」する技術を蓄積しています。
安齋さん 森を可視化することで、スギやヒノキだけでなくブナやナラもたくさん生えているとか、絶滅危惧種のゲンゴロウがいるとか、水を保つ機能があるとか、森の多様性や価値が数値として明確になります。そして、データは腐らない。経年の推移がわかるなど、蓄積していけばいくほど価値化への精度が高まっていくんです。
数値化によって価値がわかりやすくなると、森への見方が変わってくると安齋さんは言います。
安齋さん いま森や山の話をすると、とかくネガティブなワードが出てくるんですよね。でも、データを見ると見る目が変わりますよ。昨今はCO2の吸収源として森への注目が集まっていますよね。
いったん価値がわかると、たとえば港区の土地の値段とかにしか興味がなかった企業の人も、自分たちが関わっている地域の森はすごいんだ、という意識になって、私たちといっしょに新しい夢の実現に取り組む、なんていうこともあったりするんです。
感覚のチューニングを促す、オーガニックなデザイン
外観について、そして拠点の選定についてのお話だけでも安齋さんの森への熱い想いが伝わってきます。続いてキャビンに入り、内部について話をしていただくことに。そこで、安齋さんに、正直、木でできた曲面の壁に違和感を持って落ち着かなかったことを伝えてみました。すると…。
安齋さん その感覚はわかります! 私も一泊目は落ち着かない気持ちになることがあります。でもね、ここは二泊目からが気持ちよくなるんですよ。むしろ、直線的なものに囲まれている生活が不自然なことだと思えてくるはずです。
SANU 2nd Homeはホテルとちがって自分の第二の家をサブスクするサービスなので、繰り返し訪れることで心地よく感じるデザインを意図しています。
これが木の板?と目を疑う曲面で構成された壁
確かに、狭い土地を効率的に使うためとか、たくさんの物を収納したりするためにとか、合理性を追求してきた結果、現代の住まいは自然に反して直線だらけになっているのかもしれません。木という素材でつくられたオーガニックな曲線を多用した室内で過ごすことで、都市での生活がいかに不自然なデザインに溢れているのかを考えるスイッチが入るようです。
安齋さん 最初は違和感を持つ人もいると思いますが、この曲面の木の壁、思わず触ってしまいますよね。両手を広げて抱きしめるような動きをする人もいます。森の中で大きな木に思わず抱きつく、みたいなことありますよね。あんな感じで。
確かにこの壁、私も思わず何度も触っていました。木の壁が曲がっているというのが不思議で、これは、どういうことなんだろうと確かめるような感覚で。
SANU CABINの内装を印象付ける、滑らかな曲面でデザインされた木の壁は、安齋さんにとっても大きなチャレンジでした。鍵となったのは、何本ものスリット。1枚の木の板にスリットを入れて20枚のパネルに分けることで、3次元のねじれをつくれるようにしたのです。
パネルの図面はデータ化されていて、加工機械のボタンを押すだけで同じ仕様のパネルを加工することもできます。またこの壁は、襖や障子をつけ外しするような動作で取り付けられるように設計。壁が傷んだ場合は、傷んだパネルだけを外して交換できるようにもなっています。
斬新なアイデアと卓越した技術について熱っぽく語る安齋さん
木の調達から見えてくる、日本の森が抱える問題
外にも木、中にも木。とことん木にこだわったSANU CABINで使われている木は、100%国産材。岩手県釜石市の森林組合から樹齢50〜80年程度の間伐材を直接調達しています。
木を使うだけではありません。SANUでは収益の一部を活用し、キャビン50棟分に相当する7,500本の木を岩手県釜石市に植林する計画を進めています。SANUのCABINが増えれば増えるほど、自然環境にとってプラスの影響を生む「リジェネラティブ」な仕組みなのですね。
しかし、ここは山梨。2022年秋現在、SANUの拠点は長野、山梨、群馬にあります。自然と共に、ということであれば、地元の森を活用するという考えもあるのではないでしょうか。
安齋さん 当初の計画は、それぞれの拠点の地域材を活用することも考えていました。でも、そこにこだわることでむしろ環境面で悪影響が起きることを懸念しました。というのも、木材って、木を伐ってそのままポンと使えるようになるわけではないんですよ。木を伐った後に製材をして、その後加工して…と、複雑な工程があるんです。
どんな森にも、その近くにそうした工程を一貫してできるところがあればいいんですけど、そうはいかない。それぞれの工程を経るたびにあちこちに運ぶということをすると、その分だけ膨大なエネルギーが必要になってくるんですよね。
たとえば、山梨で木を伐って、静岡の製材所に持っていく、一次加工は茨城で、二次加工は埼玉、そしてできた材木をまた山梨で使う、となる、なんてことがあるんですよね。地域材にこだわることでむしろ環境に悪影響を与えるというのであれば、それは本末転倒だろうと。
アカマツ、カラマツ、ナラなど、さまざまな木と触れ合える森
地域や自然への関心が高まっていますが、それを加工する製材所などがほとんどないという話は私もあちこちで聞きます。森が豊かな地域だからといって、まとまった量の木材を調達することはなかなか難しい。むしろ、地域材にこだわることで環境に悪影響を与えかねないという現実があるようです。
SANU CABINで使われる木を調達している釜石市の森林組合とは、計画時よりSANUのコンセプトを共有。ADXが環境調査を行った上で木を伐採する森を共に選定し、山から木を伐り出し、キャビンに最適な材として加工するまでのサプライチェーンを構築。木を使うところから植樹するまでの流れを共有しています。
建てれば建てるほど森がゆたかになる、いわばリジェネラティブな建築として先の先までデザインされているのがSANU CABINなのです。
安齋さん 木が育つ森と加工する場との距離については、ADXもこれまで課題だと考えてきました。やっぱり、生産から加工までの距離が短ければ短いほど環境負荷も小さいですし、いろんなアクシデントにも対応しやすいですからね。いま、地元・福島の安達太良(あだたら)山の麓にADXの自社ラボファクトリーをつくる計画を立てています。
いま地球環境にとってベストな選択をするだけでなく、よりよいあり方について考え、チャレンジしていこうという姿勢が伝わってきます。
都会的なライフスタイルの先に、自然への入口をつくる
SANU CABINに一泊して感じた違和感は、木の壁だけではありません。森の中の小さな小屋に、電子レンジやIHコンロ、Wi-Fiといった現代のライフスタイルそのままの生活設備がそろっているところ。この違和感についても、正直に安齋さんにぶつけてみました。
泊まるというより、暮らすための設備が揃う室内(写真提供:ADX)
安齋さん いま自然に足りないのは「関係人口」なんですよ。過酷な自然環境で過ごせる人とか、環境破壊を止めるためにプラカードを掲げて声を上げる人はそれほどいないじゃないですか。現実的に自然環境をよくしていくためには、まず、一人でも多くの人が自然に触れる機会をつくることが大事だと思うんです。
だからあえて、都会と直結するライフスタイルの延長が、自然の中でできるようにしているんです。すべて自然素材で人工的な機械が全くない場所となると、それだけでたくさんの人を排除してしまうことになる。それは、私たちの目指すことではないな、と。
確かに、山に登って山小屋に泊まったり、テントに泊まったりする人たちはすでに自然を意識して生活していますし、いま行動を起こしている人だけでは、地球環境をめぐる状況を変えることには限界があります。
さりげなく掲示されている、SANUの環境に対する考え姿勢をまとめたポスター
安齋さん ライフスタイルはそれほど変わらなくても、その土地にいることで感じることは変わってきますよ。たとえば、スーパーじゃなくて道の駅で地元の食材を買って料理してみるとか、銭湯みたいな料金で入れる地元の日帰り温泉に浸かるとか。
そうした日頃のライフスタイルの延長から、その先にある地域の豊かさとか自然の面白さを実感する。そういう体験を通した自然との関係人口を増やすことが、ゆたかな地球をつくっていくことにつながるんじゃないでしょうか。
山で感じたショックから生まれたフィロソフィー
SANU CABINの案内を通して感じるのは、安齋さんの、自然に対する熱い想い。キャビンのそばに焚き火スペースがあり、せっかくなので、焚き火を囲みながら話しましょう、ということに。
安齋さん こうして火を眺めるって、人間ならではの文化ですよね。揺らぎとか、色の変化とか…不思議と、ずっと見ていても飽きないんですよ。
都市で暮らしていると、常に新しい情報が飛び込んできますよね。洪水のように流れてくる情報を、正しい、正しくないの区別をする暇もなく自分の中に取り込んでしまう。そんな毎日だと、集中して自分と対峙することがなくなってしまうんですよ。
そして、ひたすら前に進むことばかりなのも危ない。止まってみることも大事です。インプットもアウトプットもなく、自分と向き合う時間、ひとりで考える時間って、現代では強制的にでないとつくれないんですよね。火を囲んで、自分の本当の気持ちに近づく。そんな場ですよね、ここは。
慣れた手つきで薪を扱う安齋さん
なるほど…特に使うことをオススメする情報もなく、さりげなく用意されている焚き火スペースにも深い意味があったのですね…。火を眺めてリラックスした表情になった安齋さんは、ゆっくりと、語り始めました。
安齋さん 福島の田舎で育ったんで、遊び場も遊び道具も山でした。だからとにかく山が好きで、今も月に1回は山に登っています。ADXという社名も、じいちゃんが山小屋づくりに関わっていた安達太良山に由来しています。
安達太良山は、地元の人たちにとってはずっと変わらない風景であり、大切にしたいランドマークというか、存在そのものなんですよね。私たちも安達太良山のように、ずっと人に愛される、普遍的な価値をつくる企業でありたいという想いをこめて、ADXという名前にしたんです。
ADXのフィロソフィーは「森と生きる」。福島と東京の二拠点で、自然と共生する建築を中心に、森を豊かにするための調査やコンサルティングにまで事業を広げています。もともと工務店の三代目だった安齋さんは、どうしてこれほどに森にこだわるのでしょうか。
安齋さん 子どもたちを山に連れて行く「森の授業」というイベントで森に入ったとき、あまりの環境の変化に気づいて衝撃を受けたことがあったんです。子どもの頃におやつとして食べていた実がない! とか、昔よく見た植物がほとんど見当たらない! とか。これは森が大変なことになっていると感覚的にわかりましたね。そういうこともあって、いまは森を豊かにする仕事だけを受けるようにしています。
トコトン、森の側につく。反対されるほど、ワクワクする。
森を育てるための仕事となると、持続可能かどうかが重要なポイントになってきます。木は、植樹しただけでは健やかに育ちません。下草を刈って、間伐して、ある程度大きくなるまで手をかけていくことで、森は健やかに育っていきます。ADXは100年続く森をいっしょにつくれる相手かという視点でパートナー企業と仕事をすることにしているそうです。
安齋さん 建築って、クライアントの意向に従うことが多いと思うんですけど、私はクライアントは森のゲストだと思っているんですよ。むしろ、クライアントは森だ、というくらいの意識で仕事をしています。
クライアントからの依頼でも、森のことを考えておかしいと思ったら戦います。変わり者だ、面倒くさい奴だと言われても、森のことを考え抜いた提案をし続ける。SANU CABINも、そうやって完成したんですよ。
よく、環境と経済のバランスが大事だと言われたりしますが、実際のビジネスにおいては環境と経済は対立するもので、綱引きのような状況に陥りがちです。森には短期的な換算では割り出せない、計り知れない価値や役割があると考える安齋さんは、経済的な理由で反対されても粘り強く提案し続けることが大切だと言います。
安齋さん 生物が生きていく上で水は欠かせないものですが、森はその水を貯めたり、濾過したりする役割があります。地球の生命維持装置なんです。だから、経済的な理由だけで反対されても、私は折れません。反対されるアイデアこそ、イノベーションにつながると信じています。いま想像できない、価値を見出せないから反対されるわけですから。反対されたら、むしろワクワクしますね。逆に、いま手放しに良しとされるアイデアには、新しさはないのではないかとすら思います。
目を凝らしてみると、それぞれの木の表情の豊かさにハッとさせられます
尽きることがない、森からの学び。森のためのチャレンジ。
森は安齋さんにインスピレーションをもたらしてくれる場所でもあります。森で見るもの、感じることが、持続可能な建築について考えるヒントに。
安齋さん たとえばクワガタを見ていると、なんでこいつの背中は雨とか土とかにまみれても汚れないんだろう…と考えると、このボディが車とか建築とかに使われたらずっとキレイなままなんだろうか…とか想像したり。森には私の師匠がいっぱいいるんですよ(笑)
ADXは、「世界中に山小屋を建てる」という密かな野望を抱いています。SANU CABINの設計もそのひとつに位置付けられると思われますが、そこにはどんな意図があるのでしょうか。
安齋さん 世界中に山小屋をつくる、という目標は、半分は私たちの姿勢を表すメタファーであって、半分は本気です。山って登るだけでも本当に辛いのに、そこに材料を運んで建てているというのがすごいですよね。そして、電気も通っていない、水も流れていないところに建っていて、人が暮らせるようになっている。ゴミもそれほど出せないし、限られた食料で過ごさないといけない。厳しい条件の中で、快適で安全な建物を建てるのはチャレンジングですよね。
「オフレコですが」と、SANU CABINのバージョンアップ構想についてもポロリと(笑)
快適で安全な山小屋。それを、登山やスキーといったアクティビティをする人だけではなく、小さな子どもがいる家族にも開いていきたい。そんな風に安齋さんは、これからのリゾートのスタイルを思い描きます。
安齋さん 百名山に登って泊まる、というのではなくて、ふらっと足を運べば安心して過ごせる。そんな山小屋がもっとあればと思いますね。子どもたちが、自然の景色ってきれいだな、森の生き物って面白いな、と感じるような原体験を得る。大人たちが、パソコン作業をしながら、モンシロチョウの動きに目を止める。そんな山小屋があちこちにあれば、自然と人との関係はグッと近づくはずです。
現在建てられているSANU CABINは、バージョン1.0の段階。いま安齋さんの頭の中で構想されているSANU CABIN 2.0は、もっと自由な発想の建物を目指しているとのこと。森へのリスペクトに溢れる安齋さんのお話を聞いたあとで改めて眺めたキャビンは、「自然と共に生きる」ことが当たり前になる未来へのタイムマシンのように見えてきたのでした。その窓から広がる景色を想像すると、心が明るい緑に満たされました。
text:丸原 孝紀 photo:廣川慶明 編集:古瀬絵里