『Hokkaido FM Center Story』は、竹中工務店の木造建築『北海道地区 FMセンター』ができあがるまでを巡る物語です。
この建物は、北海道札幌市の住宅街に建ち、地上2階建、広さ856.46平方メートルの木造オフィス計画です。この低層木造建築は「北海道だからこそ」生まれたという価値を秘めています。環境、気候、地域経済ーー北海道が内包する社会課題を解決するために⽊を⼿にとった⼈びとの、肥沃な⼟地がもたらす⼒強い森林グランドサイクルをお伝えします。
(プロフィール)
語り手
金田崇興 takaoki kaneda
東京都出身。構造設計一級建築士。1999年竹中工務店入社。2000年より竹中工務店東京本店設計部構造部門、東京本店作業所などで活躍後、2020年より竹中工務店北海道支店設計部構造グループ長に着任。北海道FMセンターの構造設計に携わる。
一般流通材のダブル使いで木造オフィスを可能にした構造アイデア
私が竹中工務店で木造構造を担当するのはこれが初めてではなく、東京の「HULIC&New GINZA 8」を担当していました。着工とともに北海道支店へ移動になったので竣工を見ることはありませんでした。今回、「北海道地区 FMセンター」(以下FMセンター)の構造設計を担当して、これまで携わった木造建築と違うポイントをお話していこうと思います。
まず、細かく構造材を分けたことがポイントです。 ある程度地上でユニット化をして、 それをクレーンを使ってくみ上げて施工すれば、今までとそこまで手間は変わらず、できます。
従来の木造建築ではあまりやってない手法かもしれません。今回、建築の施工計画をするにあたって、 部材が細かくなるとひとつひとつ組み立てる手間が掛かるのでは、と現場に言われそうだなと最初から想像できました。予め組んでから建方をすれば、今までとそんなに変わらずできることを示しました。
元々、(設計担当の)垣田は、1本の120角の部材でできたフレームを120角の桁で繋いでいく感じのイメージだったんねすね。しかし、120角の木材では約3.6メートルおきにフレームを建てることになり、オフィススペースとしては現実的でない。
では、柱をダブル(2本)にしてみれば、もう少しスパンが大きく取れるのではないか。もう少し考えればできそうだぞと、一晩考えました。
120角を使うことが大前提だったのは、資材調達もプレカットも北海道内でやりきるという、北海道内における森林グランドサイクルを促進する架構計画を立案することが目標のひとつでした。道内では木材調達の都合上、大きな断面の木材を使えませんから、構造設計の工夫が鍵となる木造になります。
北海道産材の扱いに私たちが不慣れだったこともあって、設計から施工まで手探り状態でした。 これまでに多く適用されてきた燃エンウッドⓇについてはそのまま構造体として鉄骨とあまる変わらずに扱えるという意味では、今までのフォーマットに沿って建築を考えることができます。
今回のFMセンターのような建物は、竹中工務店自体がつくったことのないジャンルの木造です。前例がないという意味での苦労はありました。自分で考えて、自分で決めてかなきゃいけないところが大変であり、面白さでもあります。
柱を2本にした時にどういう組み合わせが1番見た目もそれなりに綺麗で、構造的に問題がなく、生産性を下げることなにく、施工する方法もクリアにするところが特に難しかったです。なんとか北海道産木100パーセントで、製材・プレカット・施工を道内の協力会社との協業で完成させることができました。まさに「地産地消」の建築です。
120角の木材をつかってFMセンターを建てたことで、「北海道産材だけで中規模なオフィスを建てられる」というメッセージを発信することができたと思っています。
でも、今回の建物が特別というわけでなく、これまで培われてきた木造建築の技術やアイデアの結晶であり、通過点でもあります。私も、以前、当麻町役場を視察して、「素敵なつくりかただな」ってインスパイアされて、今回の構造に生かした部分もあります。
FMセンターで培った経験や技術を、他の建築にも同じように展開していってくださったらいいなと思っています。
そもそも特殊な繋ぎ方や金具を使っているわけではなく、木に精通した人でしたら、すぐにわかる技術になっているので、社内ではマニュアル化でき、すぐ使えるようになるんじゃないかなと思っています。この構造と建て方方法で私は少なくとも3階建て、5階建てまでいけると思っています。
道産材木造の魅力は建物だけではない
木造の良いところはたくさんありますが、使うだけで「木の温もり」という付加価値が漏れなくついてくるところは、施工中から感じました。木造を発注する建築主はどの方も施工中の時点から、まちやひとに見せたいといいます。
悪いところは…ないのでは(笑)。強いて挙げるならば自然材料なので鉄・コンクリートと違って材料特性のバラツキが大きいことは、木材として加工する上でも、施工する上でも大変さはありますね。
FMセンターも、はじめてつくってもらうの部材や金具も多くて、どうしても設計側と木材をつくる側で、意思疎通がうまくいかないところもありました。
しかし、そのやりとりそのものが、道産材活用を前進させることだと思います。ステークホルダーの事情・都合を理解した木架構計画立案を立て、林業・木材産業のネットワークに入り、一緒にものづくりをしていく活動こそが、北海道内における円滑な「森林グランドサイクル」なのだと思います。
豊富な森林資源を有している北海道という土地の優位性や魅力を十分にひろいあげ、今後の木造建築の普及・展開していくことに寄与した建物になったと思います。
豊富な森林資源があるにも関わらず今回のウッドショックの影響の大きさを肌で感じて、道産材の建築用材としての活用がまだまだ不十分であること再認識しました。FMセンターのような木架構システムをもっと早く広く展開して、戸建てだけに限らず様々な建種での木造化需要を高められていれば、道内の製材体制ももう少し違ったのでは?などと思ったりもしています。半分冗談ですが。
北海道の魅力をもっと享受したい
私はずっと東京在中でしたが、北海道へ2020年に転勤してきました。
北海道の自然は雄大でかつ、人を寄せ付けないような厳しさを持っているイメージがあります。春から夏にかけていっせいに木々や草花が芽吹く様は、短い夏の北海道ならではの自然の力強さを感じることができ、その風景に惹きつけられてしまいます。
寒さは覚悟していましたが、思ったよりも寒くないというのが感想です。建物がしっかりしているので、断熱性なども本州とも違う印象だからかもしれません。
異動がコロナ禍真っ只中だったので、まだ足が運べたところは少ないのですが、この土地にしかない魅力を、もっと掘り下げたいです。
text:アサイアサミ photo:佐々木育弥