木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2023.09.04
海外での木材利用と法令、デューデリジェンスの現状 消費国の違法伐採対策として国際的に求められるデューデリジェンスとは(第2回)

持続可能な森林経営や山林の自然環境の保全に多くの人々が取り組んでいますが、市場に流通する木材は必ずしもそのような山々から伐りだされたものばかりではありません。

木材を使おうとするとき、その木材が育った山林が適切に管理されているのか、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認する“木材デューデリジェンス”が求められるようになってきました。

キノマチウェブでは「新時代の森林経営」に必要な木材のデューデリジェンスとは何か、その取り組みが求められるようになった社会的な背景、デューデリジェンスの制度について特集します。第2回は、公益財団法人地球環境戦略研究機関 生物多様性と森林領域 上席研究員の山ノ下麻木乃さんに、持続可能性が求められる資源調達の世界的な潮流から日本に求められる木材デューデリジェンスリテラシーについて解説いただきます。

(プロフィール)
山ノ下麻木乃 Makino YAMANOSHITA
公益財団法人地球環境戦略研究機関 生物多様性と森林領域 上席研究員/ジョイント・プログラムディレクター/博士(人間科学)。(社)海外産業植林センター研究員、国際NGOバードライフ研究員を経て2011年より現職。途上国農村部コミュニティのケイパビリティに注目した森林分野の気候変動対策について研究を行ってきた。地域住民が参加する森林カーボンクレジット開発に携わった他、気候変動枠組条約交渉支援などの業務を担当。最近は企業の農林業サプライチェーンと途上国農村部の気候変動緩和・適応策や生物多様性への影響に関心を持ち調査研究を行っている。

1. はじめに 木材消費国における違法伐採対策

これまでの違法伐採対策は、国際協力などを通じて木材生産国のガバナンスの改善や木材合法性確認システムの導入を支援することが主流でした。しかし近年、木材消費国側における対策も進んでいます。

木材消費国の法制度として、木材を取り扱う事業者に木材の合法性を確認するためのデューデリジェンス(以下DD)の実施を義務づけ、違法に伐採された木材やそれに由来する製品を市場から排除することによって違法伐採問題に貢献することが試みられています。

2008年に米国で「レイシー法」が改正されたことをはじめ、EUでは2013年に「EU木材規則」の施行に基づき域内各国で法令が整備され、続いて豪州でも2014年に「違法伐採禁止法」が施行されました。
これらの法律では、違法に伐採された木材を流通させることを禁止しており、違反した場合には罰則が科せられます。これによって事業者は、取り扱う木材製品が違法伐採木材由来ではないことを確認(=DDの実施)をしなければならなくなりました。

本稿では、EUと豪州、米国の違法伐採木材の取り扱いを禁止する法律についてご紹介します。*1

2. EU木材規則と豪州の違法伐採禁止法

EUの木材規則(EUTR)と豪州の違法伐採対策法には共通点が多くあります(表1)。
両法とも、違法に伐採された木材・木材製品の輸入と取引が禁止されているのに加え、事業者にはデューデリジェンス実施義務を定めており、これらの違反に対して罰金(最大で700万円から900万円程度)、拘留、押収などの罰則が規定されています。注目すべき点は、違法伐採材の取引だけでなく、DD義務を怠ったこと対しても罰則が適用される点です。

表1 EU木材規則と豪州の違法伐採対策法の概要

両法では、事業者はDDシステムを導入し、木材取引の事前に(=市場に流通させる前に)製品の違法伐採リスクを評価し、リスクの高い製品の取り扱いを回避することが求められています。

EUTRで定められたDDシステムには、「情報収集」、「リスク評価」、「リスクの軽減措置」の3要素が含まれている必要があり、豪州ではこれに「記録」を追加しています(表2)。
つまり事業者は、取り扱うすべての製品について、関連する情報を収集し、違法伐採リスクの高低を判断するための手順を、自社内で構築し、適切に運用しなければなりません。

リスク評価によって「製品の違法性リスクが無視できるほど低い」と判断できなかった場合は、より手間をかけて詳細な情報収集を行い(例えば、取引先や伐採地の訪問や第三者による監査の実施など)リスクが低いことを確認したり、その製品の取り扱いを断念し、よりリスクの低い代替製品(例えば森林認証材)に切り替えるなどのリスク軽減措置を実施しなければなりません。
つまり企業は、「この製品の違法性リスクは低いです」と自信をもっていえる製品のみを取り扱うことができるということになります。

表2 EU木材規則と豪州の違法伐採対策法が求めるDDシステム

両法とも、事業者がDDシステムを運用しリスク評価を実施しているかを政府が定期的に検査をすることになっています。検査では、税関データなどを参照し、違法伐採リスクが高いと懸念される製品を取扱う事業者が優先的に選定されます。

豪州では、記録を元に、事業者が適切にDDを実施しているかに焦点を当てた、政府による検査が実施されていますが、EUの中でも厳格な対応をしているドイツ政府の検査では、リスク評価の内容にも踏み込み、事業者の申告の真偽やリスク判断の妥当性を確認しています。製品から木材サンプルを採取し、科学的な分析(組織学的分析やDNA分析)も実施されています。

ドイツ政府からの情報によると、2018年に検査した事業者の約6割はDD義務不遵守、2019年上半期に検査で採取した173サンプルのうち30パーセントは申告と科学的検査結果が合致していないことが判明したということです。
罰則の執行は、両国ともDD義務の不遵守に対しては行政措置として比較的少額の罰金を科していますが、ドイツでは違法伐採材の取り扱いが摘発され訴訟に発展し、高額な罰金や木材の押収の事例が数件あります。

写真1 ドイツ企業訪問時にデューデリジェンス記録について説明を受けた

3. 米国の改正レイシー法

米国の改正レイシー法でも、違法伐採木材の取引が禁止されており、事業者には製品に関する詳細情報(原産国や樹種など)の輸入申告とDD(改正レイシー法では「デューケア」と称されている)の実施が求められています。しかし、レイシー法では、EUや豪州のように、詳細なDD要件は定められてはいません。また、政府による検査も実施されていませんが、輸入申告の虚偽や違法伐採木材の取り扱いが判明した場合は摘発され、場合によっては高額な罰金が課せられることがあります。

DDの実施は、このような訴訟において故意か過失かの争点で重要な論点となります。これまでレイシー法違反によって起訴された木材関連の件数は9件と少ないですが、高額な罰金が請求された事例があります(ギブソン社:30万ドル、ランバー・リクイデーター社:1300万ドル)。

写真2 ドイツ企業の製品倉庫

4. おわりに デューデリジェンスの主流化(mainstreaming)

違法木材の取り扱いの禁止や木材製品の合法性に関するDDの義務化は先進国にとどまらず、木材生産国や加工国のインドネシア、ベトナム、中国でも法制度化の動きがあります。これはDDが義務化された、欧米や豪州の取引先の影響を受けた結果とみなすことができ、消費国が発した「違法に伐採された木材は取り扱わない」というシグナルが違法伐採対策に効果を発揮していると考えることができます。
一方で、違法伐採木材の市場からの排除だけではなく、消費国からの生産国における合法な木材生産のための支援はこれからも不可欠です。

EUでは、EUTRによる木材の合法性のDD義務化の経験を踏まえ、森林減少・劣化を引き起こしていないことの確認も求める「持続可能性のデューデリジェンス」にステップアップする新しい規則が2023年6月に発効されました。対象製品も木材に加え、パーム油、牛肉、コーヒー、カカオ、ゴム、大豆*2 に拡大されています。さらに、企業活動の児童労働や強制労働などの人権への負の影響を防止するための人権DDを義務化する動きもあり、DDの実施は、企業の持続可能性に対する説明責任の手法として今後さらに主流化(mainstreaming)し、義務化されていくと考えられます。

DDの実施にはコストがかかることから、EUでは市場における公正な競争を確保するために、DDの適切な義務化を支持する企業が増加しているという報告があります。

このような国際的な動向の中、ようやく日本でも、2023年のクリーンウッド法改正によって、木材の合法性確認が義務化されたことで、企業のDD実施への対応が求められています。


*1:詳細な情報は、林野庁クリーンウッド・ナビに掲載の報告書で確認することができます。
*2:これらの農林産品は、生産農地を拡大するために熱帯林の減少を引き起こす「森林リスクコモディティ」と呼ばれています。熱帯林減少は大量の炭素排出と同時に生物多様性損失も引き起こします。

読者におススメ!
オーストラリア政府のDDの解説ウェブサイト
事業者にわかりやすい説明になっていますので是非ご覧ください。

企画担当:竹中工務店 三輪隆(経営企画室)小林道和、関口幸生(木造・木質建築推進本部、キノマチウェブ編集部)

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