『Hokkaido FM Center Story』は、竹中工務店の木造建築『北海道地区 FMセンター』ができあがるまでを巡る物語です。
この建物は、北海道札幌市の住宅街に建ち、地上2階建、広さ856.46平方メートルの木造オフィス計画です。この低層木造建築は「北海道だからこそ」生まれたという価値を秘めています。環境、気候、地域経済ーー北海道が内包する社会課題を解決するために⽊を⼿にとった⼈びとの、肥沃な⼟地がもたらす⼒強い森林グランドサイクルをお伝えします。
(プロフィール)
語り手
左)春木真一 Shinichi Haruki
株式会社ハルキ代表取締役社長。北海道・森町生まれ育ち。1998年、家業の春木製作所(現・ハルキ)に入社。2019年より現職。
右)鈴木正樹 Masaki Suzuki
株式会社ハルキ取締役、企画・開発室長。北海道青年林業士、森林評価士、木育マイスター。2007年ハルキに入社。プレカットの企画開発部門を経て現職。製材・プレカットの営業のほか、内外装材「道南杉ハル壁」や家具・遊具の企画・開発、準不燃木材や病院木質化ユニットの開発などに取り組む。
春木さん 当社はいま、道産材、もっといえば、道南材を中心に住宅用資材を製材からプレカットまで一括して行う木材会社です。元々は輸入材を多く扱っていたのですが、輸入材が調達しづらくなったことで地元材に目を向けました。
鈴木さん そのときはかなり大きな挑戦でしたが近隣の山にはたくさん木があります。地元調達はなにより安心ですよね。だからこそ、木材をカットするだけでなく、森林をつくる「森づくり」も私たちの大切な仕事のひとつになりました。
春木さん うちは昔から山を持っていて、幼いころは祖父がよく山に連れて行ってくれました。私も子どもと山へ遊びに出かけたりします。北海道の自然を感じながら大きくなりましたから、造林していくことは当たり前のことだと思っています。
会社的には安定的な木材の供給につながりますし、森林環境をよくしていくことは、当社のある森町へ地域貢献にもなります。
“現し”としてつかうカラマツ材づくりに挑戦する
鈴木さん 『FMセンター』での道産カラマツを集成材にして非住宅の建築資材にしていく作業は、ハルキとしてとても大きなチャレンジでした。
FMセンターのような非住宅の建築資材は全量検査が基本です。一本ずつ検査して、図面も添付して提出しなきゃいけない。すべてが初めての試みだったのですが、思った以上に現場は混乱を極めました。
そして道産カラマツを扱うということはカラマツ特有のねじれと反れとの戦いです。住宅用に比べてより精度が求められる非住宅用の集成材づくりは試行錯誤の繰り返しでした。
春木さん 原材料調達も大変でした。前年かなり雪が降ったことで山に入れず、木材を搬出するのも一苦労ありました。通常、カラマツ材は、24センチ以上の太い丸太を使うことで狂いが少ない木材ができますが、そればかりを集められず、比較的小径の直径20センチ以下のものも扱いました。そうなると反りがひどくなるんですよね。
鈴木さん そしてカラマツには「脂壺(やにつぼ)」があります。木材を見えなくなる構造ではなく、“現し”でも使うので、脂壺を潰さなくてはなりません。
今回のFMセンターの木材では、脂壺を避けてほしいという話だったので、すべて人力で除去して、ボンドで埋めて、を繰り返しました。
私たちは集成材のJAS認定工場なのですが、その認定には第1種と第2種と規定があって、私たちが持っている認定には、脂壺を塞ぐという規定がありません。なので、ほんとうに不慣れななかで脂壺を塞ぎました。
けれど将来的なことを考えれば、木造需要が増えて、国からの後押しもあり、SDGsの要素もある。将来への見込みがあるから、なんとかふんばったというのが正直な感想です。
春木さん カラマツは、いまはまだ建築資材としてよりもパレットなど梱包材としてのほうが需要が大きいのですが、建築資材としてつかうほうが木材そのものの価値があがります。
だから挑戦はするべきなんですが、特に非住宅用の建築資材としての生産を本格的にはじめるかどうかそれを見極めるのが難しいですよね。数億円の設備投資がかかりますし、今までのお客様も大切にしなければならない。
そして、梱包材は、材にそこまで品質が求められませんが、今回のようなスパンや階高の大きい非住宅用の建築資材に現しで使うような木材は大変です。いい機械をいれたからってすぐに木材の質があがるわけでもなく。品質を管理するのが一番大変なんです。やっぱり試行錯誤を投資だと思ってやっていくしかないんです。
ちょっと材質が悪くてもいいから、とりあえず材料があればいいやみたいになって、それが広まってもまずいなとも思うんですよね。今はウッドショックや円安の余波で材質が多少落ちても買い手が付きますが、またいい輸入材が来たら、また主流を輸入材に持っていかれるだけですから、業界的にも困ります。
さっきもお話したように、カラマツにはねじれ、反りの問題があるんで、それをもっと効率的に問題解決できるような生産ラインをうちで計画しています。
鈴木さん 私たちは『Hokkaido Wood』などの活動や、今回のFMセンターの件などで、みんな、自分たちの持ち場でチャレンジしています。コミュニケーションがもっと密になることでもっと業界が良くなって行けたらと思います。
今回、FMセンターの木造架構木材をやらしていただいき、やはり事前情報というか、やるべき仕事の把握が大事だと感じました。「非住宅の建築資材をつくることはこれだけの工程が必須だ」ということを共有できていなかったんです。それが、現場レベルになって、後出しで追加作業になったことが多く、生産効率が下がってしまいました。
春木さん FMセンターは、当社としては本当に挑戦という以外の言葉がみつからないほど、全社をあげて取り組みました。モチベーションは、いい材を作ってやりきるしかない、今後につなげていきたいということです。そして、ハルキだけでなく、道産材のレベルだったり、地元の木を使うなど、北海道の木を使う文化みたいなものを底上していると信じてがんばりました。
ほんとうの意味で「やってよかった」と思うのはこれから
春木さん よかったことは、私たちがこの事業に関われたことだと思います。
ここまで、大変だったことばかりお話したので本当かな?と思われるかもしれませんが(笑)。FMセンターが竣工したとき、メディアに注目されましたし、これから先もずっと注目される建物になると僕は思っているんです。
そんな建物に携われたってことが「あのとき、FMセンターに携わったおかげで、いま仕事の幅が広がったよね」ってことが絶対にあると思うんです。
ほんとうの意味でやってよかったなっていうのはこれからだと思います。これから先、また数年、あの建物が使われ、注目されていくたびに、そんな気持ちが大きくなっていくんじゃないかなって、僕は勝手に思ってます。
鈴木さん 皆様のご尽力のおかげで、当社は新しいフェーズに行けたので、あの建物によって、生活者が幸せになって、森が豊かになって、わたしたちの仕事も繁盛していく。そういう良い循環が起こる建物のための木材をこれからもつくってかなきゃなって、すごく思ってます。
そして、地産地消も大切ですが、他の地域でも「道産材は質がいいから使いたい」って輸出されていくことにも期待しています。こういう小さい町から、どんどん外に出していかなきゃダメだなと思いますけどね。
そして、「デザイン」は大事だっていうのをすごい実感していて、当社ではデザイナーの人と一緒に仕事する機会も増えてるんですよね。
鈴木さん みなさんに受け入れてもらうことこそ、木の価値を高めるっていうことだと強く思い、FMセンターの木材に挑戦しました。そしてみなさんに注目していただけるきっかけづくりや、新しい販路も見えて来ました。
さらに、これからすごく必要だと思っているのは、木が持つストーリーを伝えることです。やっぱり、僕らは「伝える」ことが大事だなと感じています。
text:アサイアサミ photo:佐々木育弥