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2020.02.17
「日本の林業を憂い、制度を整える」農林漁業信用基金 今井 敏氏 〜The Flats Woods Kiba Story7〜

『The Flats Woods Kiba Story』は竹中工務店の木造建築『フラッツ ウッズ 木場』ができあがるまでを巡る物語です。

フラッツ ウッズ 木場』は、竹中工務店の木造建築技術を多く採用した次世代のコーポレートレジデンスです。都市に“人に優しい” 中高層木造建築を建てることで、木をめぐる社会問題を解決する足がかりとすることを目指しました。適材適所に木材を使うハイブリッド構造は新時代の木造建築。木という自然の素材を使うことからはじまる、工夫と技術と思いを巡るストーリーをご紹介します。

農林漁業信用基金 理事長
今井 敏 Satoshi Imai
群馬県出身。1980 年農林水産省入省。2012 年同省大臣官房長、2014 年林野庁長官、2017年退官。2018 年現職就任。

森林資源の“循環の輪”を回すために山主の背中を後押しする対策を

「CLT(直交集成板)」「高性能林業機械」「コンテナ苗」…。

私が林野庁長官職に就いた当時、書類にはこういった用語があふれていました。高性能林業機械とはどういうものなのか。山の現状を言葉では理解していましたが、恥ずかしながらわからず、すぐに北海道の森林整備の現場へ足を運び、森林管理局を通じて請負業者に、機械をはじめ、伐採から製材、加工までの一貫工程を見させてもらいました。

実家近くの山を見ても荒れている印象が強く、森林・林業白書などにも手入れが十分に行われていない山が多いと記されます。実際に山に入り、関係者の話も聞いて肌で感じたのは、「国有林はまだしも、日本の林業はこのままで大丈夫なのか」ということ。

日本の林業の問題点は、材価低迷や人件費の増大に伴う森林経営の不採算化などにより、十分に管理できず、手入れもされない森林が広がり、山主が経営意欲をなくしてしまったことだといえます。

国会答弁書には、高度成長期に大量に植えられた人工林が本格的な伐採期を迎え、半分は伐採適齢期になっているとありましたが、「それは本当か」「どの木が伐採期なのか」とそのギャップを感じずにはいられませんでした。

林野庁は、CLTのような新しい木質材料が開発され、建築利用が増えれば、本格的な伐採期を迎えたものの新しい需要先ができ、森林資源が回るようになるといいます。

育て、伐って、使って、また植えるという資源の循環利用の確保は、日本の林業において今後あるべき方向性の一つですが、伐った後、山主への還元額がどのくらいになるのか、再造林の資金になるのかなど、そこには山主の視点が足りません。

今日、家の売価はだいたい決まっているがゆえに、製材所は丸太を必要以上に安値で買いたたきがち。どこかで誰かが利益を独り占めしようものなら、“循環の輪”はたちまち回らなくなります。

山主は語ります。「昔は金持ちと言われていたかもしれないが、今や一番の貧乏クジを引いてしまった」と。

民有林では、山主が「木を伐ろう」と思えない限り、循環の輪は回らないわけで、それぞれの付加価値に応じて、みんながほどほどにもうかることが重要。林野庁にも山主の背中を後押しする対策が求められます。

木材利用が全国民の常識になること。いいものを選ぶ目を養う消費者教育も必要

森林には水資源の備えや洪水の緩和、二酸化炭素の吸収など、国土保全や地球温暖化防止、生物多様性の確保といった多面的機能があり、これらは国民生活のインフラとしてかなり浸透しています。

しかし、「木を使えば日本の山が守れる」という意識は非常に乏しいのが現状。木材利用においては圧倒的な知識不足といえます。

多少高くても国産農産物を食べることで日本の農業を守り、応援するのと同様、国産材を使うことは日本の森林を守り、山村を応援することにつながります。

きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、家を建てるとき、施主が施工業者に「多少高くなってもいいから、国産材を使ってほしい」と言えば、それが日本の山を守ることになるわけです。

ただ、家を建てようとする頃というのは、働き盛りで仕事が多忙だったり、頭金をそろえることばかりに意識が向きがち。国産材を使う意義はもちろん、産地や種類など、木材利用に関してまではなかなか考えが至りません。

木材利用の定着は、供給側からの押し付けではなく、消費者が暮らしや社会を豊かにするものを選ぶことによって初めて実現するもの。本当にいいものを見る目、選ぶ目を養う消費者教育も併せて取り組む必要があります。

国は公共建築物等木材利用促進法を策定するなど、木材利用、とりわけ国産材利用の方針を明確にしています。

林野庁や国交省住宅局、同省官庁営繕部などでは、木材を活用した建築物の顕彰や発注者の育成など、各部署でも木育や温暖化防止などに力を入れていますが、それぞれの取り組みがつながらなければ成果は発揮されないでしょう。

新しい木質材料もいろいろな可能性を秘めています。

木造・木質化技術を駆使し、居住者に快適な空間を提供する『フラッツ ウッズ 木場』は、木材の建築・居住利用が消費者目線で受け入れられるかどうか、ある意味、日本人に受け入れられるかどうか、その試金石といっても過言ではありません。

日本人はみんな木の語り部になれる―。

木材利用の意義が森林・林業・木材関係者だけでなく、国民一人一人に常識的に理解され、身につき、普及すること。そして、木材関係企業やビルダーだけでなく、多様な異業種の企業間に木材利用のネットワークが構築されるなど、木材利用を推進する環境が日本の経済社会にきめ細かく整備されることがとても大切です。

新たに始まる「森林環境税」は、森林整備の安定的な地方財源になる

林野庁は立地や自然条件がよく、林業経営に適した人工林においては、管理を集積・集約化するとともに路網整備を進め、また、適さない人工林においては、管理コストの低い針広混交林などへ誘導することによって多様で健全な森づくりを行い、森林の多面的機能の発揮と林業の成長産業化の両立を目指しています。

2019年度から導入された「新たな森林管理システム」は、市町村が主役となって、手入れができていない森林管理を意欲と能力のある林業経営者に委託し、委託できない場合は市町村が主体となって管理するというもの。その費用の一部となるのが、2024年度から始まる「森林環境税及び森林環境贈与税(以下森林環境税)」です。

私も長官職当時、立案に携わりましたが、同税は個人住民税に定額を上乗せして徴収。市町村や都道府県に、私有林の面積などに応じて配分されます。

これによって各自治体が毎年、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保できるようになることが重要であり、ひいては林業事業体も年間を通じて安定的な事業量が確保できるわけで、そういうところにぜひ活用してもらいたいというのが本心。ここは、役場の腕の見せ所でもあります。

森林や木材は、未来永劫につないでいける資源です。世界有数の森林国家・日本として、森林資源の循環利用が確保されてこそ、国土保全や地球温暖化防止、生物多様性の確保などの多面的機能も十分に発揮されます。

日本の林業において、「林業」の枠を超える価値が創出される産業として再生されるとともに、山村地域が活性化されること。林業の将来性に期待しています。

text:内田亜矢子 photo:小禄慎一郎

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