持続可能な森林経営や山林の自然環境の保全に多くの人々が取り組んでいますが、市場に流通する木材は必ずしもそのような山々から伐りだされたものばかりではありません。
木材を使おうとするとき、その木材が育った山林が適切に管理されているのか、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認する“木材デューデリジェンス”が求められるようになってきました。
キノマチウェブでは「新時代の森林経営」に必要な木材のデューデリジェンスとは何か、その取り組みが求められるようになった社会的な背景、デューデリジェンスの制度について特集します。第5回は日本製紙連合会の前田直史さんに、製紙業界が一体となって取り組むデューデリジェンスについて解説いただきます。
* 日本製紙連合会の規定により、今回の記事中では「Due Diligence」を「デューディリジェンス」と表記しています。
(プロフィール)
前田 直史 Naofumi MAEDA
日本製紙連合会 原材料部 部長。
1990年、日本製紙連合会 林材部に配属。木材チップに関する統計調査などに従事した後、1999年より技術環境部にて廃棄物等の調査に携わる。2008年より原材料部へ配属となり、2020年より現職。
1. はじめに
森林の減少・劣化の原因は様々ですが、その主な原因のひとつとして持続可能な森林経営を阻害する違法伐採があげられます。
私ども製紙業界は、森林から木材の供給を受け、主に紙や板紙を生産する産業であります。従いまして、供給される木材が合法性や持続可能性を担保しない材であることを黙認すれば、森林破壊を加速させることにつながります。それは企業活動に大きく影響するだけでなく、地球規模での環境問題を引き起こす要因となりますことからこれまで違法伐採材を使用しないことやその撲滅に向けて、業界をあげて取り組みを行ってきました。
以下より、その取組の経過と現状についてご紹介していきたいと思います。
2. 違法伐採対策の開始
政府の取組
日本政府は2005年に英国で開催された「G8グレンイーグルサミット」の結果を踏まえて公表した「日本政府の気候変動イニシアティブ」において、「違法に伐採された木材は使用しない」という基本的な考えに基づき、2006年以降、政府が調達する物品については、合法性、持続可能性が証明された木材を用いなければならないとし、現行のグリーン購入法を改正することにより合法性確認の公的制度の導入を進めました。
グリーン購入法の判断基準を満たすための合法性確認方法としては、林野庁の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン*1」が適用されることになっており、具体的な確認方法として以下の3つの方法が示されています。
① 森林認証制度及びCoC認証を活用した証明方法 (以下、「森林認証(による方法)」と記す)
② 森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法(以下、「団体認定(による方法)」と記す)
③ 個別企業の独自の取組による証明方法
製紙業界の取組
日本製紙連合会は、2006年3月に「違法伐採問題に対する日本製紙連合会の行動指針」を策定しています。これを受けて会員企業は、2006年4月以降、違法伐採木材を取り扱わない旨の「原料調達方針」を定め、合法証明の取り組み内容を示した「合法証明システム」を作成し、環境報告書(書面)やHPで公表することを始めました。
また、合法性確認の具体的な取り組みとしては、林野庁のガイドラインの「個別企業の独自の取組」による証明方法を基本とし、森林認証による方法や団体認定による方法を併用することによって、使用する全ての木材原料についての合法性の確認を行うこととしています。
3. 違法伐採対策モニタリングの開始
製紙業界の違法伐採に関する独自の取組
製紙会社の行う「個別企業の独自の取組による方法」の内容は、各社様々でありますが、概ね共通して以下のような対応をとっています。
① 違法伐採木材を取り扱わない旨の「原料調達方針」、合法証明の取り組み内容を示した「合法証明システム」を作成し、 環境報告書(書面)やHPで公表
② サプライヤーから違法伐採木材を取り扱わないという協定書又は覚書、誓約書等を入手
③ サプライヤーからトレーサビリティレポートを入手
④ 製紙会社又は製紙会社の委託を受けた企業は、サプライヤー(輸入)又は木材チップ業者(国産)と伐採地域の確認を行い、確認内容は書面で残す
違法伐採対策モニタリング事業
日本製紙連合会は2007年3月20日に開催された理事会において、「環境に関する自主行動計画」を改訂し、違法伐採対策に関する記述を追加するとともに、各社の取組に対して客観性と信頼性を担保するため、要望があった会社に対して、2007年度から「違法伐採対策モニタリング事業」を実施し、違法伐採対策 DDS モニタリング事業チェックリストなどを用いて取り組み内容を具体的にチェックしています。
監査委員会の設置
林野庁のガイドラインでは、「個別企業による独自の取組による方法」の場合には、団体認定による証明方法と同等のレベルの信頼性が確保されるよう取り組む必要があるとしているため、違法伐採対策モニタリングで調査員がまとめた結果について、信頼性を担保するため、学識経験者、ユーザー業界及び消費者団体関係者等、第3者で構成される監査委員会を設置し、指導、助言及び監査をいただいています。
モニタリング結果の各社へのフィードバック
監査委員会で指導、助言等をいただいた実施結果については、毎年度、全体の取り組み状況を日本製紙連合会HPに公表すると共に、各社に対しては、あらたに実施された事項は評価事項とし、その内容に不備があれば指摘事項として具体的に記載した結果報告書をフィードバックしており、次年度の取組の参考にしていただいています。
4. クリーンウッド法への対応
クリーンウッド法の施行と会員会社の登録状況
2016年5月20日に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(以下、「クリーンウッド法」と記す)が制定され、2017年5月20日に施行されました。
日本製紙連合会合法証明デューディリジェンス(DD)マニュアルの作成
クリーンウッド法の制定に対応して、日本の木材関連業界は取り扱う全ての木材原料に対してDD(デューディリジェンス)を行わなければならないこととなりましたが、日本製紙連合会では以前より、(一社)海外産業植林センターに委託をして、「海外植林におけるナショナルリスクアセスメント手法の開発」について調査を行い、その成果物として2017年5月に「日本製紙連合会デューディリジェンス(DD)マニュアル」のひな形が完成しました。
日本製紙連合会会員企業はこのひな形をベースに、各社で実際に行われている手続に合わせて個社のデューディリジェンス(DD)マニュアルを策定しています。
DDマニュアルの基本的な構成は、
①情報収集
②リスクアセスメント
③リスク緩和措置
となっています。①は日本製紙連合会違法伐採対策モニタリング事業で使用しているトレーサビリティレポートを使用しており、②は同事業の調査マニュアルを拡充して使用していることから、従来の違法伐採対策の延長線上で行う位置づけとなっています。
日本製紙連合会DDマニュアルと違法伐採対策モニタリングの活用
日本製紙連合会は、クリーンウッド法の登録実施機関である(一財)日本ガス機器検査協会に団体一括登録申請を行い登録が受理されています。その登録の際は、個社のDDマニュアルの情報から抜粋することにより申請が行われており、年度報告についても日本製紙連合会違法伐採対策モニタリング事業の調査結果が反映されることとなっています。
5. 今後の違法伐採対策の取組について
製紙企業は原料調達をはじめ、製品の販売についてもグローバルな展開を続けていることから、日々進化する世界の違法伐採や持続可能性に関する対策や規制によっては大きな影響を受けることが考えられます。
私どもは日々、違法伐採はもとより、環境に関する世界の動きに耳を傾け、製紙業界が行っている違法伐採対策が、今後も世界で通用するレベルを保っていけるよう努力を続けていきたいと考えています。
*1:木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン、林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/pdf/2-4sikumi02.pdf(参照 2023-10-13)
*2: 木材調達に対する考え方 違法伐採木材について、日本製紙連合会
https://www.jpa.gr.jp/env/proc/illegal-logging/index.html(参照 2023-10-13)
企画担当:竹中工務店 三輪隆(経営企画室)小林道和、関口幸生(木造・木質建築推進本部、キノマチウェブ編集部)