木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

持続可能な森林経営や山林の自然環境の保全に多くの人々が取り組んでいますが、市場に流通する木材は必ずしもそのような山々から伐りだされたものばかりではありません。

木材を使おうとするとき、その木材が育った山林が適切に管理されているのか、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認する“木材デューデリジェンス”(以下、木材DD)が求められるようになってきました。

キノマチウェブでは「新時代の森林経営」に必要な木材のデューデリジェンスとは何か、その取り組みが求められるようになった社会的な背景、デューデリジェンスの制度について特集します。第6回は森林総合研究所の御田成顕さんに、木材生産のコンプライアンスとクリーンウッド法について解説いただきます。

(プロフィール)
御田 成顕 Nariaki ONDA
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 東北支所 森林資源管理研究グループ 主任研究員。博士(学術)。広島県出身。
民間の林業会社で海外植林事業に携わったのち、「九州大学持続可能な社会のための決断科学センター」講師を経て、2020年より現職。森林政策学の立場からインドネシアの地方分権化と違法伐採の研究について研究を行ってきた。
最近は、日本国内で無断伐採が発生するメカニズムについて、犯罪学の手法も取り入れながら研究を進めている。このほか、東北地方の地域社会の視点からみた広葉樹資源の活用のありかたについて関心を持ち調査を行っている。

1. 合法性確認の重要性の高まり 

国内の人工林資源は終戦直後や高度経済成長期に造林されたものが多く、その半数が利用可能な50年生を超え、間伐から主伐へ移行する局面を迎えています(写真1)。

(写真1)皆伐地が広がる九州南部(2019年4月)。

主伐の時代を迎えると、これまで以上に木材の合法性確認が重要になります。間伐は伐り捨て間伐であっても利用間伐であっても、その目的は将来の主伐に向けた森林整備を目的としています。そして、間伐の多くは、森林所有者と同意のもと森林経営計画*1が策定された森林で行われることから、間伐材の合法性が問題となることはあまりありません。

一方、収穫が目的の主伐は、同じ木を伐る行為であっても性格が全く異なります。主伐の対象となる森林は、伐採をすること、もしくはしないことは森林所有者の意思に委ねられます。そのため、必ずしも森林経営計画が策定された場所ばかりが主伐の対象地となるわけではありません。

森林経営計画が策定されていない森林を伐採する際、伐採事業者(森林組合や民間の伐採事業者)は森林の権利関係、境界を確認し、各種法令との関係を確認したうえで伐採の可否を判断し、伐採にあたっては森林法に定められた「伐採および伐採後の造林の届出(以下、伐採届)」*2 の届け出といった所定の手続きを行ったうえで伐採を行う必要があります。

2. 丸太生産のコンプライアンス

私がかつて携わった調査のなかで、国産材を扱う工場の担当者に木材の合法性確認をどのように行っているのかを質問したことがあります。先方は「伐採届を確認しています」と回答しました。伐採届を確認することで多くの場合は合法性が確保されているものと考えられます。

しかし、伐採届を確認すれば十分に合法性が確認できたといえるのでしょうか。そこで、丸太を伐採するまでに求められるコンプライアンスについて整理し、伐採届の確認だけで十分に合法性の確認ができるのかを考えてみましょう。

まず、伐採を行う判断は森林所有者の意思に委ねられます。伐採に向けたプロセスは、伐採することを決めた森林所有者が伐採事業者に伐採を依頼し、立木売買契約や主伐作業請負契約を締結することでスタートします。

これらの契約の締結に際しては、伐採事業者は森林の土地や立木の権利、権利の区域について確認を行う必要があります。さらに、森林経営計画の認定の有無を確認し、認定を受けている森林については計画内容を確認するとともに、伐採後に事後の森林経営計画の実績報告書を市町村に提出することが求められます。

森林経営計画の認定を受けていない森林においては、伐採事業者は森林所有者および造林事業者と連携し、市町村森林整備計画*3 に適合した伐採及び造林の計画をたて、伐採を始める90日前から30日前までに「伐採届」を市町村に届け出し、その届出内容に従った伐採と伐採後の造林を行う必要があります。また、造林事業者は、伐採後の造林が終了した後、30日以内に造林状況を市町村長へ報告することが定められています。

対象となる森林が保安林などで、法令による伐採の規制がある場合もあります。その場合、どのような伐採規制がかけられているかを確認しなければなりません。伐採規制がある場合には、規制内容を確認し、必要な許可等を受ける必要があります。

例えば、保安林の場合には、都道府県へ許可を申請し、保安林伐採許可証を受ける必要があります。このほか、伐採にあたり遵守しなければならない主な法律には、砂防法、自然公園法、自然環境保全法、鳥獣保護法、文化財保護法などがあります。

さらに、伐採対象となる森林がこれまでに受けた補助事業の履歴の確認も必要です。伐採事業者は、造林補助事業等の履歴を森林所有者に確認し、伐採を行うことにより過去の造林補助事業等の補助金返還要件に抵触しないかを確認しなければなりません。

これらのことから、伐採届を確認するだけの木材の合法性確認は、あくまで最小限の確認を行ったという位置づけにあるといえるでしょう。

3. 伐採届を悪用した無断伐採の手口

無断伐採とは

近年、国内で無断伐採が発生し、社会的な問題となっています。無断伐採は、「所有者に無断で伐採すること」と定義され、「誤伐」と「盗伐」の総称として用いられています。誤伐が過失により伐採する場所や境界を間違えるといったものであることに対し、盗伐は他人が所有する森林に生えている樹木(立木)を故意に伐採し、盗むことです。

盗伐は森林法で森林窃盗罪として刑罰が定められている犯罪ですが、誤伐は窃盗を行うという故意がないため森林窃盗罪にはなりません。ただし、盗伐であっても誤伐であっても、森林所有者に損害を与えることには変わりませんので、民事の面からは加害者は損害賠償が求められることには変わりありません。

(図1)自治体および警察への無断伐採の相談件数
出典:林野庁ウェブサイト*4 をもとに作成。

林野庁は、自治体や警察に寄せられた無断伐採の相談件数の調査結果を公開しています*4。2022年(令和4年)の相談件数は全国で72件あり、そのうち14件が故意の疑いがあるものとなっています。地域別の相談件数は、九州・沖縄地方の24件が最も多く、北海道・東北地方の14件、中部地方の12件と続いており、全国的に問題となっていることが分かります(図1)。

ただし、相談に至っていないもの、まだ発見されていないものもあると考えられることから、実際にはもっと多く発生していると考えられます。

無断伐採の手口

それでは、無断伐採はどのような手口で発生しているのでしょうか。一般的に、伐採は森林所有者が伐採事業者に依頼して行われます。伐採の依頼の仕方は、伐採・搬出といった作業のみを委託する方法と、一定の範囲内の立木が立った状態のまま伐採事業者に販売する「立木売買」の方法があります。

立木売買の場合、森林所有者が伐採事業者と直接交渉し販売する「直接取引」と、両者を仲立ちする仲介人を介した「仲介取引」があります。

無断伐採は主にこの仲介取引において生じています。これらの取引において、森林所有者が署名した伐採届は、森林所有者が伐採に同意したことの証拠にもなる書類としてみなされます。そして、一般的に伐採届の市町村への提出は森林所有者ではなく素材生産事業体もしくは仲介人が行います。

このように、伐採届は森林所有者が伐採に同意し、森林法に定められた手続きに沿っていることを証明する書類です。しかし、この伐採届を悪用した無断伐採が発生しています。その例として、伐採届の偽造があります。具体的には、仲介人が伐採の同意を得ていない森林所有者の名前を伐採届に記入し、近所で購入した印鑑を押印して偽造した例があります。

そして、仲介人はこの偽造した伐採届を伐採事業者に売却し、その伐採事業者によって伐採に至ったという事件がありました。

(写真2)無断伐採の被害地(2019年5月、宮崎県)。

伐採届の偽造だけでなく、誤伐を装った無断伐採の手口も報告されています。この手口は、伐採届に記載されている場所だけでなく、境界を越えて隣の森林まで伐採するものです。ほかにも、伐採届に記載された場所と全く異なる場所が伐採されるといった事例もありました。

無断伐採の対応において難しい点として、故意に境界を越えて伐採したり、違う場所を伐採したりしたとしても、森林の境界が不明瞭であったことを理由に、素材生産事業者や仲介人が「誤伐だった」と言い逃れする余地があることがあげられます。つまり、無断伐採は故意の立証が難しく、それが被害者の救済を妨げ、ひいては被害地を森林に戻す障壁となっています(写真2)。

伐採届を悪用した無断伐採は森林所有者に損害を与えるだけではありません。伐採届は木材の合法性を証明する書類であるため、伐採届を悪用して無断伐採された木材が出荷されると、それは合法木材として流通し、消費者は知らないうちに違法材を使ってしまうことになります。

さらに、本来は森林所有者に支払われるべき立木代が支払われず、不当に安価に生産された木材が市場に出回ることにより、健全な木材価格の形成が阻害され、森林所有者の経営意欲を奪うことになります。

4. クリーンウッド法への期待

2017年、合法木材の利用と流通の促進を目的として「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称、クリーンウッド法)」が施行されました。

クリーンウッド法は木材DDの手法を取り入れた画期的な法律ではありましたが、この法律が対象とする木材関連事業者*5 に素材生産事業者は含まれず、生産された丸太を最初に受け入れる原木市場や製材所といった川中と、それより川下を対象としたもので、伐採の段階の違法行為に対する影響力が大きいとはいえませんでした。また、木材DDも努力義務であり、罰則もありませんでした。

ところが、2023年5月にクリーンウッド法が法改正されたことでこの状況に変化がみられました。この法改正により、木材関連事業者は伐採事業者に対して合法性の確認をすること、伐採事業者は木材関連事業者の求めに応じて情報提供することが義務化されました。さらに、この義務に反した場合の罰則も設けられることになりました。

クリーンウッド改正法の施行日は未定ですが、公布から2年以内に施行するとされており、今後、どのように運用されていくのかを注視する必要があります。

先述したように、無断伐採の多くが伐採届を悪用した手口で行われており、伐採届の確認だけでは合法性が確実に担保されないことがありえます。しかし、クリーンウッド法の改正により素材生産事業者に情報提供の義務が課されたことで、合法木材の供給を求める流通事業者と消費者の声が、素材生産の現場に届きやすくなり、無断伐採をしにくくなる環境づくりにつながることが期待されます。

5. 今後の展望

今回は無断伐採をクローズアップしましたが、素材生産業界では環境に配慮した伐採や再造林の着実な実行を推進する動きが見られます。特に注目に値するのが、素材生産業や造林業の事業体が遵守すべき作業手順を定めた、「伐採・搬出ガイドライン」を普及する取り組みです。

これは、環境配慮など社会的責任の考え方や基準を個々の事業体に任せるのではなく、業界としての基準を示し、事業体がそれを遵守することを促す仕組みです。この取り組みを先駆けて開始した宮崎県のNPO法人ひむか維森の会*6 は、2008年に「責任ある素材生産業のための行動規範」と「伐採搬出ガイドライン」を策定しました。

2016年には、鹿児島県の素材生産業界団体が再造林に重点を置いた「伐採・搬出・再造林ガイドライン」*7 を定めました。伐採・搬出ガイドラインを定める動きは全国でみられるようになり、2022年には伐採・搬出ガイドラインの普及を目指す全国団体として、「伐採搬出・再造林ガイドライン全国連絡会議」*8 が発足するに至っています。

(写真3)長期的な視点に立ち、伐って、使って、植える、育てる、循環型林業を確立していかなければなりません(2020年10月、宮崎県)。

 クリーンウッド改正法にもとづき、素材生産段階における木材DDが浸透することで、森林法を始めとする各種法令がより遵守されることが期待されます。この森林法とクリーンウッド法の相互補完を通じ、法令遵守だけでなく、環境に配慮した素材生産を行う事業者や、このような事業者が生産する木材の評価が高まり、地域の環境に配慮しながら生産された木材の利用・流通が促進されることに繋がってほしいと期待しています(写真3)。

*1:「森林所有者」又は「森林の経営の委託を受けた者」が、自らが森林の経営を行う一体的なまとまりのある森林を対象として、森林の施業及び保護について作成する5年を1期とする計画。詳しくは林野庁ウェブサイトを参照。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/con_6.html (参照 2023-10-16)
*2: 森林法に規定された森林所有者等が森林の木材を伐採する際の義務として求められる届出。伐採の計画と伐採後の状況、再造林後の状況を森林が所在する市町村の長に申請。詳しくは林野庁ウェブサイトを参照。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/todokede/batsuzoutodokede.html(参照 2023-10-16)
*3: 市町村が、地域の実情に応じて適切な森林整備を推進することを目的として作成する計画。詳細は林野庁ウェブサイトを参照。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/con_5.html (参照 2023-10-17)
*4:林野庁ウェブサイト。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/keikaku/220720.html(参照 2023-10-31)
*5: クリーンウッド法に規定された事業者。事業内容に応じて第一種木材関連事業者と第二種木材関連事業者に分けられる。詳細は林野庁ウェブサイトを参照。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html(参照 2023-10-16)
*6:NPO法人ひむか維森の会の「伐採搬出ガイドライン」
https://himukaishin.com/guideline/(参照 2023-10-31)
*7:鹿児島県素材生産事業連絡協議会の「伐採搬出・再造林ガイドライン」
http://k-kensoren.sakura.ne.jp/ (参照 2023-10-31)
*8:https://logging-replanting-guideline.jp/(参照 2023-10-31)

 

企画担当:竹中工務店 三輪隆(経営企画室)小林道和、関口幸生(木造・木質建築推進本部、キノマチウェブ編集部)

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