木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

持続可能な森林経営や山林の自然環境の保全に多くの人々が取り組んでいますが、市場に流通する木材は必ずしもそのような山々から伐りだされたものばかりではありません。

木材を使おうとするとき、その木材が育った山林が適切に管理されているのか、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認する“木材デューデリジェンス”(以下、木材DD)が求められるようになってきました。

キノマチウェブでは「新時代の森林経営」に必要な木材のデューデリジェンスとは何か、その取り組みが求められるようになった社会的な背景、デューデリジェンスの制度について特集します。第8回は公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の鮫島弘光さんに、世界の先進的なデューデリジェンスの取り組みについて解説いただきます。

(プロフィール)
鮫島 弘光 Hiromitsu SAMEJIMA
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)主任研究員 博士(理学)。京都大学生態学研究センター、同大学院農学研究科、東南アジア研究所などを経て2015年よりIGES勤務。研究領域は生態学、東南アジアにおける自然資源利用、REDD+、持続可能な生産林管理、森林リスク農林作物の責任ある調達など。

1. 木材のデューデリジェンスの始まり 

世界の森林における木材生産のための過剰な伐採に対する関心は、20世紀後半に高まりました。例えばマレーシア・サラワク州における伐採に対する地域住民の抵抗運動、またアメリカ太平洋岸北西部のオールドグロース林におけるマダラフクロウ保護運動は1980年代から90年代に盛んになり、国際的な注目を集めました。

この結果、1992年に開催された地球サミットでは「森林に関する原則声明」が採択され、木材生産国における森林の保全や持続的管理の推進、それに対する先進国側の協力が謳われました。1986年には国際熱帯木材機関(ITTO)が設立され、1990年には「2000年までに、持続可能な経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とする」という目標が策定されました。

2回目の択伐直後の熱帯雨林(2023年、マレーシア サラワク州、PEFC認証林)。

森林認証制度の誕生と黎明期の違法伐採の根絶に向けた取り組み

1990年代には、認証を受けた生産林由来の木材を消費者側が選択することによって持続的な森林管理を促進することを目指し、FSC(1993年設立)、PEFC(1999年設立)といった第三者認証制度(森林認証)が設立されました。しかしながら生産林における森林認証の取得は、業界団体などが積極的に取り組んだ欧米や豪州・NZで普及が進んだ一方、熱帯諸国での普及は進みませんでした。

また、木材の輸入にあたって、輸入国政府が認証材であることを義務付けることもおきませんでした。ITTOの2000年に掲げた目標は2023年現在に至るまで達成されていません。

1997年のアジア通貨危機以降2000年代前半にかけ、インドネシアでは政治経済の混乱が続き、木材の違法な伐採、輸出が大規模に行われ、森林が大きく荒廃・消滅しました。これを受けて、持続性はさておき、少なくとも違法伐採材の排除について輸入国側の積極的な取り組みが求められるようになり、1998年のG8で森林行動計画、2008年のG8でもグレンイーグルズ行動計画*1が合意されました。

EUは2003年にFLEGT(森林法の施行・ガバナンス・貿易)行動計画を発表し、木材生産国とVPA(自主的二国間協定)を結んで、生産国における透明性強化や法執行向上を促進する努力が始まりました。

同年、日本・インドネシア政府も違法伐採対策協力アクションプラン*2に合意し、共同で違法伐採の根絶に取り組んできました。日本ではさらに2006年に環境に配慮した調達を推進するグリーン購入法が改正されて木材も対象となり、木材生産国が合法性証明をつけて輸出した木材の流通が促進される仕組みがつくられました。

チーク人工林(2018、インドネシア東ジャワ州)。

一方、本シリーズで取り上げられている木材の「デューデリジェンス(以下、DD)」とは、基本的には木材生産国を支援する、これらの一連の取り組みとは異なるものです。ここでいうDDとは、生産国政府の発行した合法性証明や森林認証の真偽も含め、調達する木材等が違法伐採由来の物でないか、あるいは持続可能な管理がなされた森林から生産された木材かを、購入する企業の側が確認することを求めるものです。

そして木材生産国で森林伐採に関する汚職や不法行為が知られている場合は、生産国政府からの合法性証明書等の取得だけでは十分とせず、追加的な情報収集を含む、購入企業の主体的な判断を求めるものです。

デューデリジェンスを求める各国の法令制度

最初に、木材の購入企業に対し違法伐採に関するDDを求めるようになったのは、2008年に改正された米国のレイシー法です。改正レイシー法では「デューデリジェンス」ではなく「デューケア」という用語が使われ、「デューケア」を行っていなかった事業者が輸入した木材が違法伐採由来であった場合、重大な過失があったとして重い罰則が科されるようになりました。

2010年に制定された欧州木材規則(EUTR)*3ではDDの内容として情報収集、リスク評価、リスク低減という3段階プロセスが明確に定められ、EUの域内外から木材を調達し、域内の市場に出荷するすべての木材関連事業者に対し、DDを行うためのデューデリジェンス・システム(DDS)を策定し、取り扱うすべての木材等について実施することを求めましたi。

2012年に制定された豪州違法伐採禁止法もほぼ同様で、情報収集、リスクの特定と評価、リスク低減、記録という4段階のプロセスを行うことを木材関連事業者に求めています。

木材のDDは2016年に制定された日本のクリーンウッド法でも求められています。クリーンウッド法はすべての木材関連事業者に対し、調達する木材等の「合法性の確認」を求めています。特に国産材の原木を素材生産事業者から調達する事業および木材・木材製品の輸入事業(これらはまとめて「第一種木材関連事業」という名称を与えられています)においては、「我が国又は原産国の法令に適合して伐採されたことを証明する書類」を入手し、クリーンウッドナビ掲載の各国の法制度や木材の生産流通状況に関する情報(各国における違法伐採の状況を含む)等を踏まえたうえで、その内容を確認することを求めており、これがDDを求めていることに相当すると説明されています。

クリーンウッド法は2023年に改正され、合法性確認の定義が「法令に適合して伐採されたか」から「違法伐採に係る木材等に該当しない蓋然性が高いか」を確認することに修正され、DDを求めることがより明確化されました。

合板製造工場(2019年、フィリピン北アグサン州)。

2. 欧州の木材関連事業者によるデューデリジェンスの取り組み

欧州の木材関連事業者が欧州木材規則の求めるDDをどのように行っているかについて、2019年の林野庁「追加的措置の先進事例収集事業i, ii」の一環で、ドイツ、オランダ、ベルギー、英国、スウェーデン、フィンランドの木材関連事業者や業界団体を訪問し、ヒアリング調査を行いました 。

ヒアリング調査を行った事業者では主に以下のような対応を行っていました。

①専門的な部門がDDを担当
DDにおいては、木材の輸入先からの書類や情報から違法伐採由来の木材である可能性が十分低いかどうか判断するための、専門的な知識が求められます。このため英国やオランダでは認証会社から招聘したスタッフや、熱帯諸国の林業に詳しい人材をDD担当者として雇用している事業者がありました。またドイツでは域外からの輸入について、従来支社レベルで行っていたDDを、本社のDD部門に一括する変更を行った事業者がありました。

欧州最大手の熱帯製材輸入事業者倉庫(2019年、ベルギー)。

② 調達先との契約
スウェーデン、ドイツ、オランダでは、違法なものを納入しない契約、違法なものが混じっていた場合の責任を明確にする契約等を木材の調達先と締結している事業者がありました。

③サプライチェーンの修正・把握
生産国における伐採から加工、輸出まで、多くの事業者が関わる複雑なサプライチェーンでは、木材の輸入事業者が伐採時の合法性を確認するのが困難で、違法伐採由来の木材が混入されるリスクが高まります。英国やオランダのいくつかの事業者は、DDを容易に行えるようにするため、欧州域外の生産国の製材事業者と流通業者を介さず直接取引をするようになったり、生産国内の伐採地までのサプライチェーンの把握を行ったりしていました。

またベルギーではDDが難しいブラジルに駐在員を置き、調達先の製材事業者に入荷される原料の量や伐採許可の確認などを行っている事業者もありました。オランダではDDが難しいウクライナに支社を置き、直接丸太の集材を行って合法性の確保を図っている事業者もありました。

フローリング製造事業者の倉庫に積まれたウクライナ産オーク材(2019年、オランダ)。自社のウクライナ支社で集材・加工したもの。

④森林認証や第三者合法性証明の活用
上記のように欧州木材規則は認証材であってもDDの対象外とはならず、事業者は自社の責任で合法性の判断を行うことを求められていますが、多くの事業者は森林認証(FSCとPEFC)や第三者合法性証明(TLV、TLTV、OLBなど)をリスク低減のために使用していました。政府の管轄官庁に対する聞き取りにおいても、森林認証や第三者合法性証明を使用している場合は監査の優先度が低いとのことでした。

ホームセンターで販売される合板(2016年、神奈川県)。

⑤調達先から提供される書類の評価のための外部情報の活用
各国の事業者はリスク評価のため、NEPCon(現Preferred by Nature)のSourcing Hub、WRIが設立したOpen Timber Portal*4など、違法伐採リスクや伐採事業者の許認可取得状況を確認できる情報サイトを利用していました。

⑥科学的検査による樹種や産地の確認
調達した木材が違法に伐採されたものかを客観的に判断するのは実際には困難ですが、樹種や産地の正誤であれば客観的判断が比較的容易です。EUTRや改正レイシー法の執行においても、有罪判決が下されている事例の多くは樹種や産地の偽装事例です。

このため英国iii、ドイツ、スウェーデンの事業者は、外部検査機関による科学的検査(木材切片の顕微鏡観察やDNA分析による樹種同定、安定同位体による産地同定)によって調達先からの樹種や産地情報のチェックを行っていました。

検査は調達製品の一部についてのみ行うものの、調達先に検査をする可能性を示すこと、結果を共有することで、樹種や産地偽装への抑止力になると考えられていました。また英国では業界団体の英国木材貿易連合会が、以前に樹種偽装が報告された中国産合板に関し、樹種同定検査コストの補助や検査機関に対する価格交渉も行っていました。

DDはコストがかかり、専門的な知識を必要とするため小規模の事業者にはしばしば困難です。このため各国の業界団体は、DDSのひな形の提供(英国木材貿易連合会、オランダ木材貿易協会、ドイツ木材貿易産業協会、ヨーロッパ木材輸入事業者連合)や、木材輸出国ごとの情報収集の手引きの発行(ベルギー織物・木材・家具事業者連盟)などによって会員事業者のDD実施を支援していました。またフィンランドでは数社が共同してロシアの調達先に対する合法性の評価を行っていました。

3. デューデリジェンス実施の要求が欧州事業者のビジネスに与えていた影響

欧州木材規則によるDD実施の要求の結果、欧州の木材関連事業者のビジネスには以下のような変化があったと認識されていました。

①木材のサプライチェーンの変化
優良な調達先と長期の取引が行われるようになり、中国やブラジルなど、DDの実施が難しい国からの輸入を取りやめた事業者、現地駐在などによって合法性の確保が行える域内の事業者から調達する事業者がありました。この結果、現地事情に詳しい輸入事業者の優位性が生まれていました。

チーク家具工場(2015年、ミャンマー ヤンゴン)。

②熱帯広葉樹材の代替材の開発
ドイツの事業者によれば、DDによる合法性確認が難しい熱帯広葉樹材に代わって、アセチル化処理によって耐久性を高めた針葉樹材の開発と普及が進んでいました。

4. デューデリジェンスの今後

欧州では2023年に、欧州木材規則に代わり欧州森林破壊防止規則(EUDR)*5が発行されました。欧州森林破壊防止規則は、木材に加え、牛の肉や皮革、オイルパーム、大豆、カカオ、コーヒー、ゴムとそれらの製品(例:タイヤ、書籍、飼料用大豆絞り粕)についても対象とし、違法に生産されたもの、違法か合法かによらず2020年12月31日以降に森林減少が発生した場所で生産されたもののEU域内の市場への流通を禁じました。

1990年代に目指されていた「持続可能な経営が行われている森林から生産された木材のみを貿易の対象とする」という目標がようやく法制化に至ったといえます。

欧州木材規則では管轄官庁からの要求がない限り、事業者はDDの結果の報告を義務づけられていませんでしたが、欧州森林破壊防止規則ではこの点が大きく修正され、域内の市場に流通させるすべての製品についてこれらに該当しないことを確認した結果を「デューデリジェンス・ステートメント」に記録し、生産された場所の地理的情報とともに各国政府の情報システムに提出することを義務付けています。そして各国の税関当局はこの情報システムにアクセスでき、デューデリジェンス・ステートメントの提出されていない商品の輸入は認められなくなりました。

また日本のクリーンウッド法においても、これまでは登録が任意であった事業者登録を行った事業者のみが、登録実施機関に対して合法性確認(DD)の結果を報告することが求められていましたが、改正法では欧州森林破壊防止規則と同様、第一種木材関連事業を行う一定規模以上のすべての事業者は、調達する木材等の全量について合法性確認の結果を国に報告することが義務付けられました。

原木市場で仕分けられた国産材原木(2016年、栃木県)。

2021年に林野庁によって実施されたクリーンウッド法定着実態調査事業ivにおいては、国産材素材を入荷する全国の木材関連事業者のうち51パーセント、輸入材を入荷する木材関連事業者の42パーセントが調達先に合法性証明書類を自主的に要求していましたが、日本でもDDの実施がさらに徹底することが予想されます。

その結果、日本においても、違法伐採リスクが高い国からの木材に関しては、DD専門の人材を擁し、駐在員を置くなど現地事情に詳しく、合法性に問題がない事業を行っている現地事業者と長期安定的な調達体制を築ける輸入事業者が有利な状況になっていくと考えられます。また樹種・産地の科学的検査や代替材の普及が進むことも予想されます。

一方、DDの普及によって、日本国内の森林の持続的な管理を促進するための努力も必要です。インドネシア、ベトナム、マレーシアなどの生産国はFLEGTの取り組みの中で木材合法性保証システム(TLAS)*6を構築し、木材の輸出時に伐採時の合法性を示す情報が容易に紐づけられる体制を構築してきました。

木材の調達企業の合法性確認の実施において国産材が輸入材よりも不利にならないように、伐採届適合通知書の電子化、データベース構築などの取り組みが求められます。また、無断伐採材を排除し、伐採後の再造林が行われたかどうかを調達企業が確認しやすくするための情報整備も求められます。

参考文献 等:
i:その詳細は林野庁のクリーンウッドナビで公開されています。
林野庁「平成30年度『クリーンウッド』利用推進事業のうち追加的措置の先進事例収集事業報告書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/jouhou/pdf/r1/r1report-tuika.pdf(参照 2023-11-30)
ii:鮫島弘光、藤崎泰治、山ノ下麻木乃. 2021. EU木材規則に対応した欧州の木材関連事業者の取組. 木材情報. 6:5-8
iii :英国は本調査の実施後の2020年にEUを離脱し、欧州木材規則とほぼ同様の内容の英国木材規則が2021年から適用されました。2021年には環境法も制定され、オイルパーム等の他の森林リスク作物についてもDDが求められるようになりました。
iv:林野庁「令和2年度『クリーンウッド』利用推進事業のうち クリーンウッド法定着実態調査報告書」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/jouhou/pdf/r3/r3report_1.pdf(参照 2023-11-30)

引用・解説 等:
*1:グレンイーグルズ行動計画 気候変動、クリーン・エネルギー、持続可能な開発(仮訳)、外務省https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/gleneagles05/s_03.html(参照 2023-11-30)
*2: 日インドネシア違法伐採対策協力共同発表及び行動計画(骨子)、外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/ji_h_0306.html(参照 2023-11-30)
*3: 欧州木材規則(EUTR)、林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/eu/info.html(参照 2023-11-30)
*4:Open Timber Portal(ウェブサイト)
https://opentimberportal.org/ja(参照 2023-11-30)
*5: 欧州森林破壊防止規則(EUDR)、林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/eu/info.html(参照 2023-11-30)
*6:FLEGT-VPAとインドネシア木材合法性保証システム(TLAS)の概要、日本森林技術協会
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/idn/29report-idn01.pdf(参照 2023-11-30)

企画担当:竹中工務店 三輪隆(経営企画室)小林道和、関口幸生(木造・木質建築推進本部、キノマチウェブ編集部)

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