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2023.12.18
木材デューデリジェンスを理解するための基礎知識 木材デューデリジェンスをきっかけにした企業価値の向上 ~積水ハウスの持続可能な木材調達と木材デューデリジェンス~(第9回)

持続可能な森林経営や山林の自然環境の保全に多くの人々が取り組んでいますが、市場に流通する木材は必ずしもそのような山々から伐りだされたものばかりではありません。

木材を使おうとするとき、その木材が育った山林が適切に管理されているのか、そもそも現地の法令を遵守しているのかどうかまでを確認する“木材デューデリジェンス”(以下、木材DD)が求められるようになってきました。

キノマチウェブでは「新時代の森林経営」に必要な木材のデューデリジェンスとは何か、その取り組みが求められるようになった社会的な背景、デューデリジェンスの制度について特集します。第9回は積水ハウスの八木隆史さんと大谷篤志さんに、ステークホルダーとの対話を重ねながら独自に構築したDDの仕組みと企業価値の向上について解説いただきます。

サプライヤーの現地取り組み調査(ベトナム)

(プロフィール左)
八木 隆史 Takashi YAGI   執筆分担:4. 5. 6.
積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 環境推進部 環境マネジメント室 生物多様性関連担当。大阪府出身。樹木医・一級造園管理技士。1996年積水ハウス株式会社入社。事業所にて建物設計、エクステリア設計を担当し、2016年に環境推進部へ異動。当社が2007年から取り組む、持続可能な木材調達「フェアウッド調達」をはじめ、生態系を配慮した造園緑化事業「5本の樹」計画など当社の環境関連事業や、生物多様性に関する情報開示に携わる

(プロフィール右)
大谷 篤志 Atsushi OTANI  執筆分担:1. 2. 3.
積水ハウス株式会社 生産調達本部 調達部フェアウッド調達推進担当。大阪府出身。木材接着士。1996年積水ハウス株式会社入社。生産、国際事業、技術部門にて木材調達を担当し、2018年より現職。木材調達に関する情報開示、リスク評価、合法性証明、森林認証などに携わる。

積水ハウスは、グローバルビジョンに「わが家」を世界一幸せな場所にする”を掲げ、家の中の安全安心だけでなく、快適な生活を送る上で欠かせない環境問題も解決すべき課題と位置付けています。

その考えのもと、1999年に発表した「環境未来計画」以降、事業を通じた環境課題の解決に取り組んできました。持続可能な木材調達「フェアウッド」の推進もそのひとつです。その目標達成のために策定した「木材調達ガイドライン」*1の取り組みをご紹介します。

1. 積水ハウスの「フェアウッド」調達 

2000年代に入り、世界の森林をめぐる問題は、違法伐採を無くすなど生産者側の責任のみではなく、木材を利用する企業にも行動が求められるようになりました。

当時、当社の住宅を構成する部材を調査したところ、木材は鉄骨住宅の14パーセント、木造住宅の37パーセント(いずれも重量比)を占めているということがわかり、木材への依存度を再認識したと同時に、事業の継続には、環境の側面からも持続可能な木材調達を、消費者の立場から生産者側に働きかけていくことが必要との考えから、2007年に合法で持続可能な木材である「フェアウッド」調達の取り組みを始めました。

積水ハウスの1棟当たりの部材。

2. 「木材調達ガイドライン」と「木材調達調査」

「フェアウッド」調達を推進するにあたっては、当社がどのような木材を調達したいのかをサプライヤーに理解していただくことや、調達する木材に対し客観的な評価ができるようになることが必要でした。

そこで当社は、合法性のみならず、持続可能性や生物多様性、伐採地の地域社会などを考慮した10の指針からなる「木材調達ガイドライン」を2007年に制定しました。同時に、年1回の頻度で、各サプライヤーから調達木材の樹種や伐採地などの情報を収集したものを、ガイドラインに沿って採点し、合計点の高いものからS・A・B・Cの4段階のランクにて評価を行う「木材調達調査」を開始しました(2006年はベンチマーク設定のためのプレ運用を実施)。

その中でもS・Aランクとなったものを「フェアウッド」と定義し、その比率を増やすべく調達レベルの改善を図ってきました。

サプライヤー各社のご理解のもと、情報精度の向上と調達の改善によって、フェアウッド(S・A)の割合を示した持続可能な木材調達比率は、プレ運用(2006年度)の57パーセントから昨年(2022年度)の実績では、97.1パーセントとなりました。

運用を始めた当初は、原産地情報は企業秘密にあたるもので、非公開とするサプライヤーも少なくありませんでした。情報の不足している木材はリスク評価ができない為、Cランク扱いとせざるを得ませんでした。しかし、この取り組みを推進するためには、サプライヤーとの関係をこれまでのような品質(Q)価格(C)納期(D)での対立していた関係から、QCD+環境・社会・倫理を加え、社会課題を解決に向け共に歩むことで、同じ方向を向いて協力し合う協創へ変わることが必要との思いから、当社の趣旨や想いを根気強く説明し、理解を得て行った結果、フェアウッドの割合も徐々に増加していきました。

この活動では、調達の改善もさることながら、実はとても持続可能レベルの高い木材であることが判明したというケースも多く見られ、この調査をきっかけに、フェアウッドの観点から今まで注目されてこなかった木材や、サプライヤー自身の経済価値の再発見と収益化、その責任と自信が更に木材調達への意識を高めていくという相乗効果も見られたと考えています。

図1 ガイドライン実施による説明責任の高まり(取り組み成績)
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3. 環境NGOとの協力

「木材調達ガイドライン」の制定、及び「木材調達調査」の運用に関しては、国際環境NGO FoE JAPANの協力をいただきました。

これは、自社の取り組みといえども、「木材調達ガイドライン」が森林や木材調達に対する時代要請に合致している必要があり、「木材調達調査」における評価基準や運用手順が、企業の都合によるものではなく、客観性・透明性を確保する必要があるとの考えから、信頼できる国際環境NGOの協力が不可欠と考えたからです。

現在に至るまで、世界の森林を巡る情報や当社やサプライヤーの抱える課題についての情報交換を重ねており、運用に関しても適宜アップグレードを行っています。

最新のアップグレードは、2023年10月に行い、1項で述べた「フェアウッド」調達を新たに「木材調達方針」として改めて位置づけ、「木材調達ガイドライン」に関しても、一部の指針に関し、最新の表現に変更しました。

4. 当社のデューデリジェンスの位置付け

DDとは、2023年に施行されるドイツの「サプライチェーン・デューデリジェンス法*2」の中で、「デューデリジェンスとは調達元の企業が自社や取引先を含めた供給網(サプライチェーン)において、人権侵害や環境汚染のリスクを特定し、責任をもって予防策や是正策をとることを意味する。」と言われております。

しかし、現在多くの企業が行っているDDは、サプライヤー(企業)自体を評価しているものが多いと思われます。

当社は、DDを「事業の将来性を支える持続可能な木材を確保するためのプロセス」と考え、サプライヤーではなく木材そのものを評価することをしています。

2項で延べたように各サプライヤーへの「木材調達調査」によって、部材・商品ごとに使用している木材の調達情報を収集し、評価を行う「木材調達ガイドライン」は、EUTR*3で定められたDDシステムで必要とされている「情報収集」、「リスク評価」、「リスクの軽減措置」の3要素が含まれた評価手法となっています。

図2 ガイドラインの概要とDDでの役割
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5. 木材デューデリジェンスと企業価値

2022年12月に国連生物多様性条約締約国会議(COP15)で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組や2023年9月に正式提言が出されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)*4など自然資本に関する情報開示が求められています。

「事業の将来性を支える持続可能な木材を確保するためのプロセス」との位置付けで取り組んできた木材DDですが、事業における自然資本の関わりを把握する上で重要な調達情報を収集することにもつながる取り組みでもあります。

当社は、このDDで得た調達情報を活用することで、TNFD開示の準備作業であるLEAP分析*5を行うなど、今後の企業価値を左右するかもしれない世界で求められている自然関連の情報開示*6に取り組んでいます。

図3 統合報告書2023_TNFDに沿った情報開示*6
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6. 終わりに

持続可能な木材調達を行うためには、価格重視の調達ではなく、伐採地の情報、樹種などさまざまな調達情報を把握し、判断する必要があります。また、それに伴い適正な価格での流通も必要です。国際的なコンセンサスとして、2030年までの森林減少ゼロ(Zero Deforestation)が掲げられ、当社もこの考えを支持し、達成に向けた宣言を行っていますが、持続可能な木材調達を、一企業が取り組むには限界があります。

パーム業界やゴム業界が、業界として取り組んでいるように、多くの木材を利用する建設業界が協力して、持続可能な木材調達に取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

当社の取り組みが、持続可能な木材調達を目指して取り組む企業の参考になることを願っております。

引用・解説 等:
*1:「木材調達指針」(全文)「木材調達ガイドライン」(全文)、積水ハウス株式会社https://www.sekisuihouse.co.jp/library/wood_procurement_guidelines_japanese20231002.pdf(参照 2023-12-11)
*2: デューデリジェンス法が成立、2023年1月に施行、JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/e19fe7d028599c7e.html(参照 2023-12-11)
*3: 欧州木材規則(EUTR)、林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/eu/info.html(参照 2023-12-11)
*4:The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(自然関連財務情報開示タスクフォース)公式ウェブサイト
https://tnfd.global/(参照 2023-12-11)
*5: Guidance on the identification and assessment of naturerelated issues: The LEAP approach(ガイダンス)、TNFD公式ウェブサイト
https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/Guidance_on_the_identification_and_assessment_of_nature-related_Issues_The_TNFD_LEAP_approach_V1.1_October2023.pdf?v=1698403116(参照 2023-12-11)
*6:Value Report 2023、積水ハウス株式会社
https://www.sekisuihouse.co.jp/library/company/sustainable/download/2023/value_report/all.pdf(参照 2023-12-11)

Text:積水ハウス 大谷 篤志(1. 2. 3.)、八木 隆史(4. 5. 6.)

企画担当:竹中工務店 三輪隆(経営企画室)小林道和、関口幸生(木造・木質建築推進本部、キノマチウェブ編集部)

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