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木造・木質ファンとは「キノマチプロジェクト」が注目する木造・木質建築をキノマチ目線で味わう、建築カルチャーマガジンです。

教育的効果高まる、居心地のよい“木の学校”

古くから木材の集積地として発展し、公共建築物の木材利用に積極的な東京都江東区。学校施設においても木の温もりを生かした校舎づくりが進められる中、ひときわ目を引くのが、2018年4月に開校した、23区内初となる小中一貫の義務教育学校「有明西学園」です。

都市部では困難だった大規模な学校施設の木造・木質化を、耐火集成材「燃エンウッド®︎」を採用することで実現。豊かな学習環境が整っただけでなく、心地よい職場環境としても魅力が高まっています。

地上5階建て。東西にシンメトリーな校舎の両端に前期課程(小学1~6年生)と後期課程(中学1~3年生)の昇降口があり、内装を木質化したことで明るく開放的な印象の2階から4階に子どもたちが日々使う普通教室を配置しています。

「木の回廊」と名付けられ、子どもたちの交流軸となる長い廊下と階段では燃エンウッドの柱が存在感を放ち、木材を扱う地場産業を象徴するような空間が広がります。

「いいにおい」と木に抱きつく1年生、木の回廊にある『ことばの壁』に刻印された円周率に興味を持つ5年生、エントランスホールにある木質化された柱のそばでおしゃべりを楽しむ6年生の姿が見られ、子どもたちの元気な声がこだまする同学園。子どもたちそれぞれに、木をふんだんに使った校舎ならではのお気に入りの場所があるのだとか。

本多健一朗校長は「木に囲まれているからか、子どもたちは明るく、笑顔が多い。他校と数値的な比較はできないが、学習や生活に与える好影響はあると思います」と力を込めます。

本多健一朗 Kenichiro Honda
千葉県出身。東京都公立小学校教員、台東区教育委員会指導主事、足立区立小学校副校長、江東区教育委員会総括指導主事、同学校支援課長、同指導室長を経て、2018年から江東区立有明西学園校長。自らが考え、校訓にもなっている「力いっぱい」の文字が「ことばの壁」には刻まれている。

「授業態度がとても落ち着いている」「明るくて、分け隔てなく話しかけてくる子が多い」「校舎を大切にしよう、校舎が好きという子が多い」「けがや病気が比較的少ない」「インフルエンザにかかりにくい*」…。子どもたちと毎日顔を合わす教員たちも、木の空間による心理・情緒・健康面へのさまざまな効果を実感しています。

*教員個人の感想です

「子どもたちは自分たちの学校が全国でも少ない木造の校舎であることを分かっていて、それを誇りに思っているんです」と4年生の担任教員。子どもたちにこういった感覚が芽生えていたことに驚いたといいます。

木の温もりを感じることで心が癒やされ、ストレス緩和につながり、集中力がアップする―。「出張で他校を訪れるたびにコンクリート造の校舎がこんなにも冷たく、無機質だったのかと、そのコントラストを感じずにはいられない」と話す教員も。

子どもたちにとって学習、生活環境が整った居心地のよい学校は、教職員にとっても働きやすく、安らげる場所であることは間違いありません。

学校全体を学びのフィールドに

有明西学園は、構造や内装に国産材をふんだんに使った木の学校だからこそ、木に触れあい、木にかかわる学習を大切にしています。そのひとつが、8年生(中学2年生)の移動教室の一環として今年度初めて取り組んだ、長野県長和町での植樹活動や集成材工場見学です。

「森林サイクルを学ぶうえでも、自ら木を植える活動は大きな意義がある」と本多校長。燃エンウッドを製造する齋藤木材工業株式会社をはじめ、長野県、長和町、江東区の協力のもと、自分たちの校舎に使われている信州カラマツを植樹するとともに、燃エンウッドができあがる工程や技術などを見学。木の中で学校生活を送る子どもたちの木の学びの集大成として、壮大なスケールで行われました。

さらに、8年生は事後学習として日本の森林の状況や木材利用の在り方などについてまとめ、自分たちの後輩である5年生に発表。教員たちは「漠然と日本の林業を考えるのではなく、自分たちの学校にある木材と関連づけながら学ぶことで知識が頭にすっと入り、理解につながる」と話します。

「まさにこの学校でなければできない」「先輩たちが体感してきたことだからこそ、教科書以上に分かりやすく、木材の価値も感じられる」と強調しました。

後継者不足などの問題を抱える日本の林業について、次世代を担う子どもたちが関心を持つことももちろん重要です。

「3年後、この5年生が8年生になったとき、この移動教室をさらに進化させたい。そして、移動教室での体験や学びが学園の伝統になればと思っています」。新たな取り組みに対する教員たちの熱い思いが心に響きます。

ほかにも、木工教室や環境学習、屋上庭園のビオトープなど、日常的に楽しみながら学べる場づくりも積極的に展開、教育活動の幅を広げています。「子どもたちの気づきや、教員の意欲をつなげていきながら、学校をどんどん学びのフィールドにしていきたい」と本多校長。

江東区教育委員会指導室長として同学園建設に携わり、更地だったところから校舎完成までを見届けてきた本多校長だからこそ、学園への思い入れも強く、そのポテンシャルを大いに感じています。

「年月がたてば今とは違った木のよさが出てくる。私たちがいなくなった後も、次の代の子どもたちがそれを感じながら学校生活を送るのかと思うと、楽しみになりますね」と、未来を想像する教員もいます。

「子どもたちが植樹したカラマツが50年、60年後に大きく育ったとき、この学校のどこかで使うことができればいいなと。何らかのカタチで子どもたちにかかわらせたいですね」(本多校長)

木の温もりを生かした校舎で、自然素材の柔らかさに包まれながら生活する子どもたち。子どもたちは同学園での学びを通じて、豊かな感性、人やモノ、自然や環境、すべてのものへの優しい心を大いに育んでいくことでしょう。

建築概要
設計施工 :竹中工務店
建築地  :東京都江東区
竣工   :2018年2月
規模   :地上5階
建築面積 :約7,314㎡
延床面積 :約24,494㎡
木材使用量: 燃エンウッド 414㎥

text:内田亜矢子 photo:小禄慎一郎

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