大阪・梅田にある「グラングリーン大阪」の新たな文化装置「VS.」で、キノマチ的にも興味深い展覧会が開催中です。
大阪のまちでたくさんの象徴的な建物をつくってきた竹中工務店の若手社員が中心となってつくった体験型展覧会。
従来の企業展のように会社のレガシーや作品を展示するのではなく、若手メンバーがアートの領域で挑戦し、企画から制作、運営まで展覧会を作り上げていくという新しい試みです。
「TAKENAKA AS AN ARTIST」というコンセプトのもと、スーパーゼネコン竹中工務店の質実剛健のイメージから一転、クリエイティビティを発揮し、大人から子供まで楽しめる展示になっており、建築ファンはもちろん、アート界隈でも話題を集めています。

展覧会のタイトルは『たてものめがね まちめがね展』で、サブタイトルは「宇宙から虫まで、縮尺で考える建築の見方」。建築には、特有の視点があり、縮尺やスケールという概念が重要。これらをワークショップでの気づきと組み合わせて、展示の切り口になっています。
興津さん「建築やまちづくりの面白さ、現場での体験などを探究し、それらをヒントに今回のテーマを決定し、約1年かけて展覧会を作り上げてきました。
建物を設計する際には、マクロな視点からミクロな視点まで行き来しながらどんな建物にするか、検討を進めます。さらに、竹中工務店は宇宙での建築から虫の研究まで幅広い分野で活動していることから、そのスケールの広がりも展示のきっかけとしています。
実際の建物は原寸大では表現できないため、縮尺という概念を使って小さくして検討します。その過程で失われる情報は想像力で補いながら、様々な検討を行います。このような建築をつくるときの特有の面白さを来場者に感じていただきたいと考えています」
展覧会は大きく3つのセクションで構成されています。

まず最初の「等身大になる部屋」では、日本の伝統的な身体スケールである「一間」(畳の長さである1.8メートル)という単位を基本とした展示。一間の立方体を高さ15メートルの展示空間に積み上げ、その中に日常の様々なシーンを切り取って配置。

次のスケールを横断する部屋では等身大の部屋を10分の1のスケールで見ることができます。さらに、100分の1、1000分の1と、3つのスケールの模型を使って段階的に体験。大阪の梅田、天王寺、万博公園など、身近なランドマーク建築の3段階に縮尺されたスケールを楽しめます。

3つ目の部屋では、これまでの「等身大になる部屋」と「スケールを横断する部屋」で感じたスケール感や、スケールへの気づきを活かして、実際に手を動かして建物をつくることができます。「一間」の空間が100分の1になった「一間ブロック」と呼ばれるものを使用し、その中に一つ目の部屋で見たような空間や関係性を想像しながら建物を作ります。
さらに独自のシステムを用いて、展示期間中に来場者が作った街がどのように成長していくかをリアルタイムで可視化し、それを会場に投影しています。
まるで設計者や施工者の頭の中を覗いているような展示で、この視点で、建物やまちをみると新鮮に感じます。
キノマチ視点で『たてものめがね まちめがね展』を見てみよう

建物をつくるのに欠かせない建材のひとつ「木」の存在意義も、展示で楽しむことができます。キノマチ的に見ると、こんなふうに見えました。


たてものをつくる木のブロックは、竹中工務店が兵庫県川西市に保有する里山「清和台の森」などの間伐材でつくったそう。木のブロックが入ったケースには「サステナブル」で「自然豊かな」まちになるよ。と書かれています。
そのメッセージについて、「たてもの・まちをつくる部屋」ブロックの材料を作るメンバーである、まちづくり戦略室の伊藤さんはこんなふうに話しています。
伊藤さん「私は元々、建築の設計を10数年やってきましたが、その中で、なんとかいいものを作っていこう、お客さまの期待に応えていこう、竹中工務店の作品をつくっていこうと思って仕事をしてきました。けれど、あるとき、ふとハッとすることがあったんです。すごい大事なことを見過ごしてきたんじゃないかと思いました。
建物を作るとき、ものすごい大量のエネルギーを使って土を掘って、地球を痛めてしまって、もしくはすごくエネルギーを使って海外から物を運んできてるなと。それでなんとか建物ができあがっているのです。
けれど、サステナブル、サーキュラーな視点でまちを見ると、もうすでに資源は、他から持ってこなくても、土を掘らなくても、実はすでに私たちが暮らしているまちの中にあるじゃないかと」

伊藤さんが言う「もうすでにある資源」とは、すでに1度「モノ」として形作られた資源たちのことで、スクラップによって「ゴミ」と呼ばれるようになったモノたちのこと。
伊藤さん「それをなぜ使わないのか、というところに立ち戻って、製作したブロックを見ていただきたいんです。皆さんが今着ていらっしゃる服、この衣服というのも、いま廃棄物として問題になってますけども、資材として再利用できる技術があって、今回、服をブロックにしてみました。
木もそうです。建築資材として使われ、また再利用するという道はまだまだ少ないです。そもそも、森林では間伐材が打ち捨てられている状況もあります。そして木のブロックで建物をつくってみることで、まちの雰囲気が変わる様子を見てほしい。
また、「葦」という昔使われていたエコな資材もあります。水辺に生えるイネ科の多年草です。本来我々日本人というのはサーキュラーエコノミーを実践してた人間だったと思うんですよね。そういった昔ながら使っていたようなものは現代でも上手く利用できるんじゃないかなということを考えました」

伊藤さん「建物がスクラップアンドビルドされてしまうその背景というのは、モノへの愛着が足りないんじゃないかって僕は思ってるんですね。新しくつくって壊されてしまうというのは、そこにストーリーが足りないのではないかな。
ストーリーを深めるために、もともとあるものをどう使っていけるか、新たな価値観をそこから作るということができないかなということを考えました。
これからを担う世代の人たちに、今回、展示のブロックの体験をしてもらって、「このブロックすごい可愛かったな」っていう思い出だけかもしれないんですけど、どこかで「このブロックは捨てるものからできていたな」と思い出してもらえたら、すごく新しい価値観がまちに備わっていくのではないかと願っています」
「愛着」が、持続可能なまちや建物をつくるとするならば、コンクリートや鉄よりも、自然素材である木は、人々の心に深く根付く素材といえるかもしれない、と思いました。
木は、時とともに変化する姿そのものが物語を紡いでいきます。触れれば温もりを感じ、目を凝らせば木目の一つ一つに個性があります。そんな木の特性は、伊藤さんの言う「ストーリー」を自然と育んでいきます。
新しい建物を建てては壊すという時代はもう終わり、これからどんな建物やまちが良いのか、実際にみんなで考えよう。そんなふうな問いかけを展示から感じます。




このように、キノマチ目線で展示を見てみると、キノマチ実現は新時代にフィットした考え方であり、次世代に豊かさを手渡していく良い手段のように思えました。
興津さん「縮尺というのを切り口にしながら、建物とかまちづくりの面白さを広く伝えたいといろいろな視点から「建物」や「まち」を表してみましたが、伝えるというか、気づいてもらうということを目的としています」
「キノマチにしたい」「良い世の中にしていきたい」そんなふうに少しでも思う方々は、ぜひ大切な人や友人などを誘って、『たてものめがね まちめがね』で示された価値観に触れてみてください。みなさんがこの展示をみたらどんなことに「気づく」でしょうか。

【開催概要】
会期:2025年2月8日(土)~2月24日(月)
時間:10:00~19:00(2月8・10・15・21・22・23日は20:00 最終日は17:00まで)
会場:VS.(グラングリーン大阪うめきた公園ノースパーク)
入場:無料
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