まちと森がいかしあう関係の起点となる『キノマチ』からは、人や建物、社会、そして地球にとっての“いいこと”がたくさん生まれます。 竹中工務店がこれまでに『キノマチ』をつくりながら見つけたいいことを10個にまとめてご紹介します。
近年、木と人間の関係に注目した多様な研究が進められ、改めて、木が人のからだにもこころにもよい影響を与えることが明らかになってきました。
からだの調子を整える
スギチップの匂いを嗅ぐことによって血圧が低下したという研究結果が報告されています(*4)。また、ヒノキの匂い成分を含む精油が、免疫細胞のひとつであるナチュラルキラー細胞の活性を上昇させた可能性があるという報告もあります(*5)。
*4
恒次祐子ほか:木材工業60, 598-607 (2005)
*5
Li Q(李卿) et al.: Int J.Immunopathol. Pharmacol.,22, 951-959 (2009)
千葉県にある透析治療専門の『新柏クリニック』は、柱や梁にまで木を使っている建物。木に包まれているように感じられるので、通院する患者さんは「治療中に一日の疲れがとれる」 「木のあたたかみを感じる」と話しています。
こころを落ち着かせたり前向きにする
木の香りには人をリラックスさせる作用があります。空間に木をふんだんに使った新柏クリニックで働く方々は「疲れにくくなった」「ポジティブな気持ちで働くことができる」と話しています。
宮城県の保育施設『森のこども園』での聞き取りでも、「入園した幼児はもちろん、乳児も園に慣れるのが早い」などの声が聞かれました。また、愛知県の幼稚園における調査では、プラスチックタイルを貼った保育室と比べて、木造フローリング床の保育室の方が遊びに集中している幼児が多いという調査結果があります(*6)。
*6
日本住宅・木材技術センター:「木造校舎の教育環境」, p.82-90, p.95-98(2004)
木造建築のこころとからだへの健康効果
[こころ] 木の香りでストレス軽減
スギの内装材を設置した部屋において計算課題を実施した際に、作業後にストレス指標である唾液中のアミラーゼ活性が低下しました。スギ材の香りが計算課題によるストレスを緩和したと考えられます。
図:スギ内装材の匂いによるアミラーゼ活性への影響 出典:林野庁「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」,p.5 (2017)
[からだ] 血圧を下げる
20歳代男性被験者にスギチップの匂いを嗅がせて血圧を測定したところ、吸入開始後40~60秒で収縮期血圧が有意な低下を示しました。これは、スギの匂いによって体がリラックスした状態になったと解釈できます。
図:スギチップの香り物質吸引による収縮期血圧の変化平均値±標準誤差N=14
★:p< 0.05, ★★:p< 0.01(刺激前10 秒間の平均値との比較)
出典:恒次祐子ほか, 木材工業, 60, 598-602 (2005)
[からだ] 免疫力の向上
都内で働く30~60代の男性を対象とした研究で、ヒノキ材精油を揮発させた室内に3日間宿泊滞在した前後で、免疫細胞のひとつとして知られるナチュラルキラー細胞の活性が上昇し、ストレス指標である尿中ノルアドレナリン濃度が低下していました。このことから、ヒノキの匂い成分がストレスを軽減させ、免疫細胞の働きを上昇させたのではないかと考えられます。
図:ヒノキ材精油を揮発させた室内での宿泊実験 出典:Li, Q et.al.: Int J. Immunopathol. Pharmacol., 22, 951-959 (2009)
提供:日本医科大学李卿医師
[からだ] 睡眠の質の向上
20歳代男性被験者10名を対象として内装の木質化率が異なる3種類の部屋で8時間の睡眠を取ったところ、木質化率0%の部屋と比較して、木質化率45%・100%の部屋の場合、深睡眠時間が有意に長くなる傾向がみられました。
図:深睡眠時間の比較
出典:林野庁「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」,p.20 (2017)