「山を買うなんて無理」って思わないでくださいね!
みなさん、山を買ってみませんか?
「えーっ、なんで?」と思われるかたも多いと思います。これまで「山を買いませんか?」とオススメすると、こんなリアクションに遭遇することもしばしばでした。ということで、この記事で買いたい気持ちが俄然盛り上がるように(!)に説得していきたいと思います。
生まれも育ちも東京で、アウトドア経験もほとんどなく、編集者としてずっと活動してきた來嶋路子が、北海道岩見沢市に山を買ったのは4年前。
ド素人の衝動買いのようなものでしたが、そのおかげで今回のように山についての記事を執筆させてもらったり、体験談の講演をさせてもらったりなど、新しい世界に足を踏み入れることができました。
なにより北海道に山を買った、ちょっと変わった編集者として覚えてくれる人も多く、わたしの個性の一部となっています。
山を買った話を面白がってくれる人は多いのですが、だいたい以下の3つの返事が返ってきて、なかなか首をタテには振ってくれません。
1)買いかたがわからない
2)管理が大変そう
3)そもそも、なぜ買うのか、理由がわからない
この3つに「そんな心配しないでも平気!」と思う理由を、体験を交えて語っていこうと思います。
買い方がわからないときには、森林組合に電話!
山を買おうと思った動機は、北海道に自給自足的な暮らしをする村=エコビレッジのようなものをつくりたいと思ったからです。
わたしは東日本大震災を機に、都会の便利な暮らしを見直そうと、北海道中部にある岩見沢市に移住しました。以来、東京からたくさんの友人が訪ねてくれ、ここの暮らしをすごく気に入って「北海道最高だね!」と言ってくれました。みんなが喜んでくれるなら、長期に滞在できたり、あるいは一緒に住めたりするような場所(村)をつくってみたいと考えるようになりました。
そこで不動産サイトで広めの土地を探しましたが、北海道でも宅地はさすがに高め。躊躇しているわたしに「山の土地を買ってはどうか」と友人がアドバイスをしてくれました。
「え? 山って買えるの?」
まったく買いかたがわからなかったので、ネットで調べてみたところ、「山林売買」をあっせんするようなサイトが見つかりました。ただ、近所の山が売っているわけではないので、現実感がわきませんでした。
そんな中で友人が、森林組合に聞いてはどうかと勧めてくれました。森林組合とは、組合員となった山の所有者へ管理についてアドバイスをくれたり、林業経営をサポートしてくれたり、土地のあっせんなども行ってくれる組織です。
岩見沢にも支所があることがわかり、思い切って電話をかけてみたのです。
「あの〜、山を買いたいと思っているんですが……」
電話に出たのはやさしそうな女性。「どんな使い方を考えているのですか?」と聞かれたので、恐る恐る「自給自足的な暮らしを仲間としてみたい」と答えました。すると、「ああ、そういう方が以前にもいらっしゃいましたよ」と明るい返事。すぐに、候補となる山をピックアップしてくれるとのことで、一度、森林組合にうかがう約束をしました。
わたしの予想では、強面の男性が電話に出て「素人が山のことなめんなよ!」といわれるんじゃないかとビクビクしていたので、スムーズな滑り出しに正直驚きました。
1週間後、市役所の中にある森林組合を訪ねると、上品なたたずまいが美しい女性が対応してくださいました。以来、わたしは山の吉永小百合と心の中で呼んでいます。
山の地図をいろいろと出してくれたので、「なるほど、この中から選べばいいんだ!」と思ったのですが……。
説明を聞いても、場所もわからないし、どんな木が生えているのかもイメージできないし、脂汗のようなものが出てきました。
ひとまず資料をいただき、家に帰り、夫と「グーグルアース」を見ながら場所を調べてみましたが、山には番地があるわけではないので、ぼやっとしか位置がわからない土地がいくつもありました。
「これは、実際に行ってみるしかない」
夫と車を走らせ、候補地の中で、道路に近く、かろうじて位置がわかったところに行ってみると……。
ひとつは、深い沢があってたどり着けず。
もうひとつは、あまりにも急斜面で登れず。
さらにもうひとつは、草が背丈まで伸びていて、まったく全貌がつかめず。
このとき、ようやくわかったのは、観光マップに載っているような“いわゆる山”には登山道が整備されていて、そのおかげでわたしたちは山の奥までアクセスでき、風景を楽しんだりできているということでした。
整備されていない山を買って、そこを切り開いて道をつくったり家を建てたりするのは、相当ハードルが高いということがジワジワわかってきました。
しかも岩見沢市は豪雪地帯。まちに暮らしていても除雪がたいへんなのに、山で暮らしたらどうなることやら……。
と、ここであきらめてもよかったのですが、それでもやっぱり買ってみたいという思いは消えることはありませんでした。
いま思えば、東京に暮らしていたころに、自分の家を持ちたいと思ったこともありましたが、猫の額ほどの土地を何十年もローンを組んで買わなければならないという現実にフラストレーションがたまっていました。
山の土地は、東京の土地に比べて1ケタ、ときには2ケタ安い。だから同じ予算で10倍、いや100倍の広さの土地が手に入る。ならば、東京で果たせなかったこの思いを、ここでぶつけてもいいんじゃないか!
そんなわけで買いたい熱がメラメラ再燃したときに、ある友人が山を売りたいという所有者さんを紹介してくれました。
場所は岩見沢市の山あい。広さは8ヘクタール(東京ドーム2個弱くらい)。
この山は素人のわたしにとって、2つのよい点がありました。
1つは、舗装された道路に面していること。山の土地の区画はイメージしにくいと思いますが、たいていは沢を境にしてわかれていて、それぞれ所有者が違うことも多々。つまり、山の奥のほうのエリアは、別の所有者の土地を通らないと入れない場合もあります。さらに道がなければ、そもそも到達するのは難しいので、車で乗りつけてすぐに行ける山というのは、本当にありがたいものでした。
もう1つは、山の中に道があったこと。木が伐採されており、作業道がつけられていました。木がないのは寂しい感じがしましたが、敷地全体をぐるっと歩けるので、どんな山なのかがよくわかりました。
値段も手頃。わたしと同じように山に興味を持っていた農家の友人と2人で共同購入をしたので、わたしが所有者さんに払った金額は中古車1台分でした。
ちなみに山の値段ですが、わたしが山を買った経験者に話を聞いたところ、相場はあってないようなものだと思いました。
森林のプロによると、いちおう相場としては1ヘクタール5〜10万円。土地代に加えて、生えている木の値段や立地条件がオンされるとのことでしたが、個人と個人の売り買いも多く、所有者さんの気持ちを一番に考えることが大切だと思いました。
所有者さんは、山に愛着があります。たとえば、わたしが買った山は、過去に前の所有者さんが住んでいたそうで、ため池をつくったり、湿地で田んぼをつくったりと、工夫しながら暮らしていたそうです。こうした話を聞いていると、さまざまな思い出がある山なので、それを譲っていただくという感謝の気持ちを持つことが、山の価格を決めていくうえで欠かせないと思いました。
売買契約書の作成や登記などは、山の共同購入者である友人がいろいろ調べてくれ、3回法務局に出向いてなんとかなりました。
管理が大変そうと思うかもしれませんが、山は庭ではありません!
こうして山を買いましたが、実は、山でほとんど何も(!)していません。
購入して1年目は、夫が草刈りをしたり、芽吹いた外来種の木を切ったり。また、週末に子どもたちと遊びに行って、日中にちょっとしたキャンプ気分を楽しんだりしていましたが、いまは子どもたちも習い事があったりなど忙しいこともあって、なかなか行くことができません。
あと、もとの所有者さんが1ヘクタールだけ植林をしていたので、それを引き継ぎ、森林組合にお願いして苗を植えてもらいました。植林をすると、下草刈りや間伐など作業がありますが、段取りから業者の発注まで、基本的には森林組合が行ってくれるので、わたしは基本、見守るだけです。
ということで、ここ最近は山で「作業」らしいことを何もしていないので、管理がたいへんと思ったことはありません。
山は庭とちがって、大自然の一部です。もともとは人の手が入っていない場所も多いし、民家に隣接していなければ、自然のままにしておいても問題ないように思います。山の中にある道の草刈りも、年に2回ほどで大丈夫と、山を持っている先輩が教えてくれました。
わたしとしては、不法投棄がされないように、道路脇に気を配っておけばいいのかな?と思っています。
なぜ買うのか、理由がわからないという人もいますが、メリットとは別の尺度を持ってみて
わたしが山を買ったと話すと、地元の人の多くが「なぜ買うのか、理由がわからない」と困惑した表情を浮かべます。その中には実際に山を所有している人がいたりします。こうした人たちは「山には資産価値がそれほどないのではないか?」と考えているのではないかと思います。
例えば、植林をして木が成長するには40年以上かかります。その間、間伐した木を売ったりしてお金を得ることもできますが、それでもスパンはかなり長いといえます。
植林には国や道の補助金なども入っていて、負担が低く抑えられている場合もありますが、「いくら支払って、いくらお金が入る」のか、森林組合の方から何度説明を聞いても、実感としてつかめませんでした。こうした植林の手続きをして感じたのは、利益を出すこととは別の価値を山に見出す必要があるのではないかということです。
山を買って4年が経ちます。
買った山は、木が伐採されて何もないところだと思っていたのですが、歩いてみると大きな切り株から新しい芽が伸び、むき出しの地表をおおうように野生のイチゴがどんどん大きくなっています。いまでは、わたしの背丈を超えるような木々も現れてきました。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、人の営みの多くがストップさせられる状況となりました。そんな状況にあっても、自然は変わらず着々と成長を続けています。
外出自粛が叫ばれる中、都会であれば家にこもるしかありませんが、山では人には会わないので、いつでもフラリと立ち寄ることができます。山を持っていると、自然がすごく近くに感じられ、心が安らぐ想いがしました。
コロナ禍で改めて自然に寄り添い生きることの大切さに気づき、山を持つとは「地球の一部を預からせてもらっている」ということなのではないかと思うようになりました。
そして、自分の山を所有することで、森林保全とは何か、地球環境を守ることとは何かを、ものすごく具体的に考えるようになりました。
逆に言うと、森林保全や地球環境について考えることは、うちの山について考えることとも言えます。
思うように現地には行けませんが「山はどうなっているのかなあ」といつも想いを馳せています。タラの芽が生えただろうかとか、ワラビがそろそろ旬だろうかと。そして、実際に訪ねることができたら、落ちている空き缶を拾ったり、道に転がっている枝をよけたりしています。
そして、わたしは思います。いま、所有者が亡くなったり、放棄するなどして、持ち主不明の山も多くなっているといいます。政府もさまざまな対策を講じているようですが、高齢になった所有者さんから、山を引き継ぐ次世代の存在があるとよいのではないかと考えています。
海外資本家が山を買って、大規模な開発が行われているというニュースを耳にする度に、個人個人が少しずつお金を出し合って、地球の一部を預かれたらいいのになあと思います。
都市部に住んでいる人でも山は買えると思います。仮に年に1、2度遊びに行くだけでも構わないと思います。それだけでも、荒れていた山が少しずつ変わっていくはずです。もし、余裕があれば間伐をしたり、道をつくったりしたら、さらに楽しく山にアクセスできるようになるでしょう。
おそらく、山を所有していると、困ったことも起こると思います。気候変動が激しくなっているので台風も頻繁に起こるようになり、木がなぎ倒されてしまったり、冷蔵庫や車が不法投棄されてしまったり。けれどこうしたマイナスの出来事の原因の多くは、人間のエゴイスティックな部分の現れともいえます。山を持つからこそ、それらを自分事としてとらえることができるし、なんらかのアクションを起こすきっかけにもなるかもしれません!
わたしはたくさんのことを山から教わりました。山を買って本当によかった。いままで見えていなかった世界が開かれたんです!
……ということで、みなさん買いたくなりましたか? ぜひヤマトモ(山主の友だち)の輪を広げていきたいです。