「キノマチ会議」は、グリーンズと竹中工務店がタッグを組み、全国から仲間を募りながら、木のまちをつくるための知恵を結集し「持続可能なまちを、木でつくる」ことを目指すキノマチプロジェクトのリアル・ミーティング。また、グリーンズに連載中の、木のリテラシーを広げる記事をキノマチウェブでもシェアします。
まちと森がいかしあう関係が成立した地域社会を目指し、竹中工務店、Deep Japan Labとグリーンズの共同で運営している「キノマチ会議」。2020年は国産材を使い、自分の手で木のある暮らしをつくっていくことの魅力を探るコラム連載「暮らしからはじめるキノマチ」を展開しています。
前回は「つみき設計施工社」の河野直さんに、DIYをはじめる上で大切にしたい考え方や、国産材を使う魅力を教えてもらいました。
今回、河野さんに教えてもらうテーマは、道具。
「DIYを長く楽しむ一番の秘訣は、道具を知り、正しく使うことなんです。」
そう語る河野さんに、道具を知ることの大切さ、「DIY三種の神器」の使い方を教えてもらいました。
道具を知ることは、人と自然を知ること
こんにちは、「つみき設計施工社」の河野直です。
DIYをはじめる前に、ちょっとだけ考えてみてください。ノコギリやトンカチなどの道具は、何のためにあるんだろう? と。
僕は、道具はできるかぎり少ない力で美しい仕事をするために、先人たちが試行錯誤を続けた結果できたものだと考えています。たとえば、ノコギリは古墳時代からあるものとされています。つまり、実に1000年以上もの間、人々が木と向き合い、できるかぎり楽に、できるかぎり美しく仕上げるために、工夫してできたものが道具だと。
そう思うと、まず道具を理解することが、DIYでものをつくるための一番の近道だと気がつきます。僕らが本を読んで先人の知恵を得るのと同じように、道具を知ることで何千年の知恵と工夫を知ることができるんです。
また道具には、それが生まれた自然環境や人々の文化が色濃く反映されます。つまり、日本には日本の、海外には海外の背景が道具に特徴として現れているのです。
例として、ノコギリを見てみましょう。日本では「引いて」使うノコギリが一般的ですよね。でも欧米や中国などの国では、木を切る道具は「押して」使うものが主流です。この違いは、使われてきた木材の性質から生まれています。
日本に生息しているスギやヒノキは柔らかいので、引く力だけでも楽に切ることができます。一方、欧米で多用されるナラなどの硬い木を切るにはパワーが必要です。人間は引くよりも押す方が大きな力をかけやすいので、欧米には押して切る道具が発達したと言えます。
さらに「引いて」切ることには、余計な力をかけなくて済むのでコントロールがしやすいという利点があります。正確にまっすぐに切ることができるので、日本では精巧で細かい大工技術が発展したのではないでしょうか。
さらに言うと、日本には柔道のように引くことで相手をコントロールして戦う格闘技がある一方、欧米ではボクシングのように押す戦い方の格闘技が発展しています。文化の違いが、スポーツや大工道具の発展にも影響をしているのではないかと考えています。確証のある話ではないですが、そんな視点で世の中を見てみるとちょっとおもしろいですよね(笑)
僕はこの数年ずっと道具のことを探究していて、学べば学ぶほど、道具を知ることは人と木の関係を知ることだなと感じています。
このように、1000年以上のときを経て磨かれてきた「道具」。だからこそ、まずは道具の正しい使い方を知ることが、DIYをはじめたばかりの人でも楽に美しいものをつくるコツなんです。
「力一杯やれば早くできる」は勘違い。力を抜いて、道具を信じることからはじめよう
僕が長年DIYワークショップをやってきた中でたどり着いた、道具を使うときの心構えがあります。
それは、「力を抜いて、道具を信じる」というもの。
「力一杯やれば早くできる」と思ってしまいがちですが、それはよくある勘違い。道具は、人の作業が少しでも楽になるように、1000年以上のときをかけて洗練されてきたものです。だから、必要以上に人間が力を加えなくてもいいのです。
「力をかける」という意識ではなく、むしろ「力を抜く」ような気持ちで。
この心構えは、ノコギリでも電動ドリルでも同じ。道具を使っていく最初の一歩として、「力を抜いて、道具を信じる」ことからはじめてみてください。
まずはこれを揃えよう。「DIY三種の神器」と基本の使い方
世の中にはたくさんの道具がありますが、DIYをはじめる人にまず揃えて使ってもらいたい道具のことを「DIY三種の神器」と呼んでいます。それが、計測工具、ノコギリ、電動ドライバーの3つです。
何といってもDIYの基本中の基本は、「正確に測って」「切って」「取り付ける」こと。これさえできてしまえば、棚でも椅子でも、何だってつくれちゃうんですよ。
それぞれの道具と基本の使い方をご紹介します。
三種の神器、その1。「正確に測る」計測工具の使い方
DIYをしたとき、ガタついたり寸法が足りなかったりして、ちょっと残念なものが完成したことはありませんか?
DIYを成功させるためにまず大切なのは、「正確な寸法を測り、正確な墨を打つ(鉛筆の線をつける)」こと。そのために、計測工具を正しく使うことが必要です。
基本のメジャーと差し金、ふたつの計測工具の使い方をマスターしましょう。
メジャー
みなさん、もしお家にメジャーがあったら、メジャーの先端の爪をカチカチっと動かしてみてください。
メジャーの先端の爪って、すこしガタつくんです。何も知らないと不良品かと思ってしまいそうなのですが、実はこれがとても重要です。爪の厚さ「約1mm」によって誤差を生まないように調整する機能なんです。
そして正確に測るために大切なのは、メジャーの測り方。爪が動くことを前提に、場所によって2通りの測り方があります。
1.対象の外側を測るとき: 爪を引っ掛ける
材料の長さや、棚の大きさを知りたいときは、爪を木材の端に引っ掛けて測ります。このとき、爪の動く部分が引っ張られた状態で測るのがポイントです。
2. 対象の内側を測るとき: 爪を押し当てる
一方、棚の内側を測るときや、上の写真の板Bを測るときは、写真の板Aのように爪を押し当てます。
こうすることで、誤差がなくなり図面通りぴったりの材を切り出すことができます。
差し金
差し金は、ノコギリで切る前に正確でまっすぐな線を引いておくためのもの。DIY用のものなら、200円くらいで売っています。
使い方はシンプルで、材の側面に差し金を沿わせ、両方を片手で握って線を引くだけ。
ひとつ注意してもらいたいのは、差し金を木材に載せるのではなく、側面に沿わせること。下記の写真はダメな例です。
三種の神器、その2。「まっすぐ切る」ノコギリの使い方
ノコギリは、前半でご紹介した「力を抜いて、道具を信じる」ことをもっとも体感できる道具です。
「力一杯切らないといけない」という先入観を捨てて、ノコギリと向き合ってみてください。
ノコギリの刃は、挽くだけで切れるようにできている
ノコギリには縦挽きと横挽きのふたつの種類があります。縦挽きは木目に対して平行に切ること、横挽きは木目に対して垂直に切ることです。DIYでは長い木材を短く切ることが多いので、まずは横挽きノコギリをマスターしましょう。
横挽きのノコギリの刃をよく見ると、2列の細かい刃が並んでいます。この2列の刃は、木の繊維を断ち切って、効率よく木材を切り進められる構造です。
つまり、刃を木材に当ててまっすぐに挽くだけで、2列の細かい刃が木の繊維を断ち切ってくれるんです。
だから僕らがやることはただひとつ。木を切断する役割はノコギリに任せて、必要最低限の動きを繰り返すだけです。
力を抜いて、まっすぐに挽くだけ
ノコギリで木を切っているとき、途中から刃が木に挟まって、力をもっとかけないと切り進めなくなってしまうことがあります。それは、ノコギリがまっすぐに引けていなかった証拠。切り口がまっすぐじゃないから、刃と木が不要な摩擦を起こしてしまっている状態なんです。
ノコギリはみなさんが思うよりも「力を抜いて」まっすぐ引くだけで切れます。
上の写真のように、鼻先と墨線とノコギリの刃が一直線になる様に構えて、ひじをまっすぐに引く動きを、リズムよく繰り返してみてください。
最初は30分くらい練習をしてみるのをおすすめします。
力を抜いてまっすぐにリズムよくノコギリを挽いて、気持ちよく切れていく感覚を感じみてください。
これを買えばOK! オススメのノコギリ
「ゼットソー 265」は、大工さんも使っているとても有名なノコギリです。替え刃ノコギリと言って、刃が切れなくなったらなったら取り替えることができます。約40年前に量産が始まるまでは、ノコギリの刃は切れなくなる度に研ぎ直さなければならなかったので、まさに革命でした。
「ゼットソー 265」のいいところは、縦挽きと横挽きの両方に使えること。なぜ縦も横も挽けるかというと、横挽き用の刃の一部に「縦挽き用」の目立てをしているからです。
持ち手と替え刃を合わせて買うのがおすすめで、2000円前後で揃えることができます。
三種の神器、その3。「取り付ける」電動ドライバーの使い方
電動ドライバーは、材料に穴を開け、そこにビスを打つための道具です。
使い方はいたってシンプルなのですが、ひとつだけポイントがあります。
それは、垂直方向の力をしっかり加えてあげること。ビスを木材に打ち込むには、ビスが回転する力と、ビスを木材に対して垂直に押す力の2つの力が必要です。電動ドライバーは先端が回転するだけなので、垂直に押す力を人がしっかりと加えてあげることで、ビスを効率よく打ち込むことができます。
ビスを打つ穴を開けて、打つまでの手順を説明しますね。
ビスを打つ穴の開け方
ビスを打つとき、まずはビスが入るための穴を開ける必要があります。
電動ドライバーの先端にドリルビットという金具を取り付けたら、片手でしっかりと材を押さえて、電動ドライバーを垂直にして穴を開けましょう。
ビスの打ち方
ビスを打つときは、材に打ち込まれて安定するまで片手でビスを押さえておき、一番遅い速度で回転させます。ビスとドリルビットが一直線になっていることも確認してください。
ビスが安定したら片手をドライバーの上部に添えて、垂直方向にグッと力をかけましょう。体重を乗せて、できるだけ大きな力をかけるのがポイントです。
これを買えばOK! オススメのドリルドライバー
電動ドライバーには、ドリルドライバーとインパクトドライバーのふたつがあります。マンションや住宅街でDIYをするときは、音が静かなドリルドライバーをおすすめします。
インパクトドライバーは、音が大きい分パワフル。小屋やデッキなど大きなものをつくるときには、インパクトドライバーがいいかもしれませんね。
ビギナーには、マキタの10.8Vシリーズのドライバーがおすすめです。1.5万円前後で購入できます。
メジャー、ノコギリ、電動ドライバーの3つで「正確に測って」「切って」「取り付ける」。この基本を抑えれば、DIYはもっと楽しくなりますよ。
次回は、材料を買いに行く前に「どんなものをつくるか」「どんな材料でつくるか」を考えるステップについてご紹介します。
(構成: 森野日菜子)
(写真: 荒川慎一)
暮らしからはじめるキノマチ 連載一覧
第1回 DIYは「生きる力」であり「態度」だ。木と人と、ともに生きる豊かなDIYをはじめよう。
第2回(本記事) 道具を知ることで、人と木の関係を学ぶ。DIYを長く楽しむための三種の神器の使い方。