3度目のウッドショックは新型コロナウィルスが起点
「ウッドショック」という聞きなれない言葉をTVのニュースなどで聞いたひともかなり多いのではないでしょうか。NHKをはじめとして民放、新聞各社でも取りあげられているので、だいぶ一般消費者の間でも認識されていると思います。キノマチウェブでは木にまつわる基礎知識用語として解説しています。(【W】ウッドショック)
ウッドショックとは、端的に「木材価格の高騰」のことを指します。高騰というより、急騰に近いです。ウッドショックの発生源について、そして今後の予測として、キノマチウェブでは「ウッドショック2.0」と表題し、今回のウッドショックについて見解を述べたいと思います。
木工事内装関連業周辺でウッドショックを認識しはじめたのは2021年4月中旬頃でした。木材業者より見積を徴収した際、木材価格の高騰を伝えられたのがはじまりです。
すぐに他の木材業者に調査してみると、同じ話をされ木材価格の高騰のトレンドに信憑性をもちました。ウッドショック発生の起点は新型コロナウィルスのパンデミックと考えます。
パンデミックによる経済停滞を回避するべく、各国政府が大規模な財政出動を行いました。特にアメリカの財政出動はリーマンショックの比ではない規模です。その巨額マネーが住宅市場にも流れ込み、アメリカの住宅着工数を押しあげました。
しかし、一方で、港湾労働者のあいだでコロナクラスターが発生し、港湾労働者保護のために港湾機能を閉鎖。そして港湾機能が落ちこむことによりコンテナが港湾施設に停滞し、世界的な空コンテナ不足を発生させ、海運物流の混乱を招きました。そして木材物流の需要と供給のバランスが崩れ、木材価格に反映されて高騰していったのがおおよその第3次ウッドショック発生のストーリーではないでしょうか。
また、カナダや米国の西海岸地域における、毎年のように起こる大規模な山火事による森林消失も、要因のひとつと思います。
ウッドショックと騒がれて半年、現在の状況は「落ち着いた」
現在はどのような状況でしょう。 執筆した時点(8月31日頃)で、外国産木材は住宅用木材に関して、通常の30~40パーセントの値上げになっている情報もあります。使用頻度の高い910ミリ ✕ 1820ミリ✕ 12ミリのラワン合板で15パーセントの値上げになっております。確かに値上がりがはじまっております。さらに樹脂系化粧材関係のメーカーから値上げ予定の案内がきました。
ただし、興味深い事例があります。
2年後竣工予定のプロジェクト用に仕上げ木材の見積を各社に徴収したところ、顕著な差が現れました。
それはA社はウッドショックを理由に、現在よりさらに値上げした見積を提示しました。
そしてB社はウッドショックは終息していると予想し、現在より割安な見積額を提示してまいりました。
経営戦略の差、情報収集能力が現れる典型的な例です。どちらがより近い未来を予想できているのでしょうか?
さて、上記をふまえてキノマチ的ウッドショックの未来予想です。 国際木材価格を決める指標として、アメリカ NasdaqにあるLumber先物市場があります。木材の先物価格を決めているマーケット(市場)です。先物とは、簡単に説明すると、未来の売買について、ある価格・量での取引を事前に決める取引です。Lumber先物において、今年の5月7日に1670ドルと史上最高値を付けました。4月中旬頃にもたらされた、木材業者からの木材高騰情報が入ってきた時期と重なります。
ではコロナ禍前はどの位で取引されていたかというと、446ドルになります。約1年で3.7倍の価格になったことになります。
現在ではいくらなのか。 2021年8月31日、523ドルをつけております。ピークは過ぎ去った感があります。
念のためアメリカではどのような報道をされているのか、関連記事を調べました。
アメリカでもホームセンターなどで売っている木材価格は高止まりしているそうです。ただし木材先物価格は下落を始めているので、高騰時に購入した木材の在庫を市場で捌き終わるころには、一般市場でも先物価格に向けて価格は徐々に落ち着きを取り戻していくのではないかと考えます。
ウッドチャンスは「国産材」の価値上昇にヒントがある
キノマチウェブで取り上げている話題の地域、北海道ではどのような影響が出ているのでしょうか。
北海道の主な樹種は、針葉樹のカラマツやトドマツです。北海道の木材業界はこれら樹種を使い梱包関係の産業用資材を製品とし、出荷しております。
今回のウッドショックは主に海外より購入している住宅用木材が高騰したこともあり、北海道の主力製品と被らないため、当初、そこまで影響は受けていなかったようです。しかし、高額な海外住宅用木材を購入するのなら、北海道のカラマツやトドマツで代用できないか試みる業者が多数現れ、じわじわと北海道カラマツ・トドマツも値上がりが始まっているようです。道産材の住宅使用を「ウッドチャンス」と捉え、継続的に使っていただく道はないのでしょうか。
ただし先ほど記したように、海外住宅用木材価格も落ち着きを取り戻していくと考えております。そこで、価格競争だけでない価値をユーザーに示していくことが、国産材における「ウッドチャンス」につながるのではないでしょうか。
ひとつの提案として、現在 竹中工務店北海道地区FMセンターでは、非住宅のオフィスに対して住宅用一般流通材とも言える北海道産のカラマツの小断面で全ての柱、梁、ブレースを構成しています。さらにカラマツ・トドマツのウィークポイントであったヤニ垂れをコントロールしつつ使用し、ヤニ垂れの心配ない木材は大胆に現しとして使用する、という方法を実践しております。
今回のように北海道産カラマツ・トドマツの一般流通材が非住宅にも展開できるようになれば、国内における木材安定供給への手がかりとなり、輸入木材の価格変動に混乱される事なく計画的な伐採による安定的供給に繋がっていくと考えます。日本全国に道産材カラマツ・トドマツで造られた木造建築が建ちならぶ日もそう遠くはないと思います。
現在、国産木材生産会社全般に言える従業者不足の問題も、今回の試みを日本全国展開に広げ、新規雇用を生み、ウッドショックなどの海外起因による状況変化に強い骨太な産業に生まれ変われるチャンスと考えます。
これから、北海道地区FMセンターの施工に絡めて個性的な木のプレイヤーたちのチャレンジをキノマチウェブでどんどん報告していきます。みなさんと道産材および国産材の新たな使用方法を「ウッドチャンス」と捉え、それをリアルタイムで共有し、共感の和を広げていきたいと思います。
text:鈴木秀明