近年、建設技能者が減少しています。そこで、働き方改革による「建設業の魅力向上と生産力の確保」を目指す法改正が進んでいます。つまり、働く環境を見直すことで、建設業をもっとすてきに、そして生産性も高めていこうということです。
そこで、竹中工務店では、生産性向上をめざした取り組みを「竹中新生産システム」として2020年度より本格的に展開しはじめました。
今回はそんな「竹中新生産システム」の中から「MR配筋検査」を実施した様子をお届けします!
今回の日記担当者
山本 夢 Yume Yamamoto
北海道帯広市に生まれ、写真の愛犬と共に育ちました。釧路工業高等専門学校卒業、2018年 当時20歳で竹中工務店に入社。1年間の新社員研修期間を経て北海道支店配属となり、1年8カ月札幌市内建設現場で施工管理を担当後、同支店生産統括部に異動となり現在に至る。
はじまり
私が現部署へ異動になったのは昨年(2020年)の12月。
最初に依頼されたのは「北海道地区FMセンター建替計画作業所の、竹中新生産システムサポート業務」でした。「竹中新生産システム」という言葉は初耳であり、また北海道支店でも本格的な取り組みは初めてでした。そのため、全国にある竹中工務店の本支店から情報を集めて、使用するソフトの操作を学んだうえで、今年の1月から基礎鉄筋工事における「MR配筋検査」に向けての取り組みをスタートさせました。
そもそも「MR配筋検査」ってなに?
MRとは複合現実(Mixed Reality)の略で、仮想空間と現実空間が複合された空間に入り込むことです。
例えば、現実空間に3Dのキャラクターを映したとします。MRは映し出されたキャラクターの後ろ側に回ったり近づいたりしても、その角度から見たキャラクターを映し出すことができます。
それに加え、現実空間も同時に見ることができるため、あたかもその場にキャラクターがいるかのような体験ができます。皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、VR(Virtual Reality)というのは仮想空間のみしか見ることができません。MRはバーチャルな世界をよりリアルに感じることができる技術です。
配筋検査とは、鉄筋コンクリート造の工事において、鉄筋が正しいルールに従って配置や組立がされているかどうかを確認する検査のことです。その検査をMRで使ってやってみようというのが「MR配筋検査」になります。
MRを「配筋検査」に活かす目的とは
建設工事の中でも鉄筋工事は検査での指摘が多い工事種別といわれています。
その理由として、建物は形状が各々異なるうえ、配筋のもととなる鉄筋加工図は、複雑な鉄筋配置ルールを反映させながら、設計図とコンクリート施工図と調整し作成する必要があり、複雑で多くの手間がかかっていることが挙げられます。
つまり、最終的にどのように配筋が仕上がるのか二次元の図面だけでは想像しにくいのです。ちなみに私は学校の授業でも実際の配筋を見たことはありませんでした。そんな、鉄筋工事のヒューマンエラーを防止しようと考案されたのが「MR配筋検査」です。
ゴーグルを装着してMRの空間に入り込むことで、仮想空間(正しい配筋が表示された3D配筋モデル)と現実空間(建設現場で組まれた配筋)を併せて見ることができ、現場の配筋がモデルと異なれば、配筋間違いが見つかるというわけです。
つくり込みへの飽くなき挑戦
この現場では仮想空間となる3D配筋モデルをRC一貫生産支援システム(以下:RCS)という鉄筋工事BIMソフトを用いて作成しました。
RCSは、鉄筋コンクリート躯体工事を対象とした、3Dデータを設計から施工まで一貫して活用することを目的とした社内開発ソフトです。
私自身、初めて使用するソフトということもあり、今回の取組みの中ではかなり苦労しました。しかし、3Dで表現することによる視覚的わかりやすさを活かし、構造設計者との質疑応答や関係者への情報共有に使用することができました。
また、プロダクトグループで作成した躯体BIM*モデルと重ね合わせることで金物と鉄筋の干渉チェックなども実施ができました。
*BIM (Building Information Modeling):コンピューター上に作成した3Dの建物モデルに、コストや部材情報などの属性データを追加したもの。企画・設計・施工・維持管理に関する情報を一元化して活用する手法である。
いよいよ現場で実施!
3D配筋モデル完成後は、現場でMR配筋検査の実施をするのみです。MR用にデータを変換し、現場に設定した基準点にモデルを合わせると…。
無事、現場の鉄筋と重ねることができました…!
現場に行くまで成功するかわからないというスリルが、今の新生産システムのサポート業務にはつきものになっています。ちなみに、MR配筋検査のことをこの現場日記に書くことも決まっていたので、失敗は許されないという気持ちでした!
MR配筋検査を初めて実施したところ、仮想空間が現実空間に重なることで見づらくなり、本来の目的である配筋間違いの判断がしにくくなることが課題として挙げられました。
これは盲点であり、MRのメリットが一転、課題に変わりました。
今後は仮想空間の透明度をあげるなど工夫が必要そうです。また、システムの都合上、見る角度によっては仮想空間と現実空間にずれが生じるという問題もあり、検査として使用するにはまだまだ改善が必要ということがわかりました。
しかし、今後の展望として、鉄筋の本数や種類の確認など、致命的なヒューマンエラー防止のアイテムとして活用していくのは可能ではないか、との声もあります。現在は配筋検査以外にもMRを活用できる部分を模索している段階です。
MR配筋検査以外にも「北海道地区FMセンター」では様々な新しい技術を取り入れています。北海道で「竹中新生産システム」はまだ駆け出したばかりであり、これは今後使えそう!これは効果に比べ、労力を費やしすぎるから展開はできないかな…と毎日試行錯誤の繰り返しです。
しかし、誰かが実際に使ってみないとわからないことはたくさんあります。今、ノウハウを積み上げることで今後のプロジェクトに役立てば、必死に働いている現場の皆さんの助けになれば、そういう思いで業務に取り組んでいます。