令和3年度の「木材利用優良施設コンクール」が発表されました。
「木材利用優良施設コンクール」とは木材の利用推進などに寄与すると認められた優良な施設に対して贈られる賞です。それは、国産材を多用することで森林再生や地域経済の活性化、そこからつながる脱炭素社会の実現に貢献している建物のことを指します。
今年度、特賞である内閣総理大臣賞を受賞したのは岡山県の西粟倉村に建設された「あわくら会館」です。
今回は設計者や建築主にお話を伺うのではなく編集者自らが西粟倉村にダイブし、この建物が生まれた背景やその理由から「キノマチ」につながるグッドアイデアを探してみたいと思います。
「木を使うこと」が目的の会館へ
村の約95パーセントが森林である西粟倉村は岡山の県庁所在地から車で約2時間。東京から向かう場合は鳥取空港まで飛び、さらに車で約40分かかります。その昔は街道沿いの宿場町として栄えた歴史もありますが今は高速道路に取って代わられ、立ち寄ることすらままならない山深い中山間地域です。
経済合理性においては完全に取り残されたといえる西粟倉村が地域創生の先進地域として注目を集めているのは、他に左右されない独自で進む活路を見出したから。
50年後の未来に村の森林を残す理念『百年の森林(もり)構想』をかかげ、村唯一の地域資源である森林を活用し、地域の生き残りを賭けた西粟倉村の挑戦はさまざまなイノベーションを生み出しています。
西粟倉村が森林とともに生き抜いていくために建てた木製の金字塔「あわくら会館」は、役場庁舎、議場兼ホール、生涯学習施設を一体化して整備していた複合施設で、木造2階建て(一部RC造)延べ3,461平方メートルの規模となります。そこで使用した木材は、ほぼすべて西粟倉村の森林で搬出したスギ、ヒノキとなります。
外観の木々しさもさることながら、内装も想像以上に木、木、木。もちろん無垢材です。
あわくら会館は百年の森林づくりで供給される間伐材が主な材木となるため、設計の段階で工夫がされています。なぜならば、すぐそこにある(使わなければ地域そのものが消える)木を使うことが至上命題だからです。
木を使わなければ森林が循環しない。循環しなければ50年後の未来に森林を残せない。それは森林の社会課題イコール村そのもの。この建物を建てる意義は、村民のための建物をつくる→地域資源である森林を活用する→西粟倉の内需を増やす→村民のためになる…内需のサイクルがぐるぐるまわるところにあります。
建物に木を使う良さはもちろん「いいものだから」というおっとりとしたものづくりとは少し毛色が違います。「すぐそこに使える木がやまほどあるから使わないといけん」。その使命を建物から強く感じます。つくり方も使い方も一貫性があります。木は手段であり目的。西粟倉村の、未来への意思表示です。
床に点在する吹き出し口はエアコン。夏は井戸水、冬は地域熱供給施設からの温水を利用した自然エネルギーを生かした空調設備。西粟倉村は、エネルギーのチョイスも村を維持し発展させていくために重要なファクターと位置づけています。
無垢材の床に座りこんで本を読む姿がちらほら見られました。「あわくら会館」にいると、身体のどこかがかならず木に触れる機会があるので森林に入る以上に木に近しい気持ちになります。
また西粟倉村では保育園も新築されたばかり。少子高齢化にあえぐ地方地域のなかで西粟倉は毎年子供が増加傾向。まちづくりの方向性において西粟倉村が「移住者を増やす」「若い世代が住みやすく」「子供がここで育つ未来をつくる」と、はっきり舵切りして生活の基盤を整えているから。ほしい未来のためにモノは存在するのです。
豊かな生態系は、人間社会にこそ必要
西粟倉村は木の価値創造だけでなく、起業家が挑戦しやすい地域(ローカルベンチャー)としても有名です。「あわくら会館」は、村内のスギ、ヒノキで家具をつくる「ようび」や「木薫」「工房kodama」などローカルベンチャーが活躍する内装も見どころ。
木をめぐるイノベーションは、村そのものを豊かにします。来年には村にいちご園(!)と併設カフェ「BASE 101%」がオープン予定とのこと。
2040年までに「日本の自治体の半数が消滅する」*というドラスティックなワードが飛び交ってから早8年。日本は未曾有の地域創生時代へ突入しました。しかし都市部への一極集中はコロナ禍を経た今もなお続いています。
*2014年日本創成会議による提言。
木をたくさん使ってほしいキノマチプロジェクトですが、西粟倉村の姿を見て、ただ単にたくさん木を使うことを「キノマチ」と呼びたくない、と思いました。
資本主義でまわる世界で、SDGs、脱炭素社会の達成など大義名分のためだけで木を選び、達成したふりをすることではなく、生き残りをかけたぎりぎりの選択肢の中、森林に未来を託すとはっきり意思表示しているひとが集う場所が「キノマチ」でありたい。
西粟倉村は「百年の森林」と呼ばれる美しい人工林に囲まれた村ですが、私がこの村で一番好きな場所は村の、最北にある原生林です。
原生林は、一見静けさを湛えていますが、目に見えない生き物たちから巨木までがひしめき合い、生き物同士がそれぞれの思惑を持ち寄り、ときに協力しあい、ときに生き残りをかけた生存競争を経て、未来永劫をつなぐ生態系をつくりあげています。そこにひとが入る余地はありません。
しかし人工林は「ひとの意思」が組み込まれた生態系。人工林にとって「ひと」も森林の一部なのです。日本の森林面積全体の約4割は人工林であり、ひとがアクセスしやすい森林のほとんどが人工林です。その人工林がいま未曾有の危機であることを私たちは<自らの消滅の危機>であると、西粟倉村のようにもっと真剣に向き合うときがきたのではないでしょうか。
「あわくら会館」が、この時代に内閣総理大臣賞をとった理由は、木や森林に対しての危機感から解決しようともがくひとびとの姿が「未来の指針」だと評価されたと想像します。森林の生態系を豊かにすることイコール、ひとの暮らしも豊かになる。森林に囲まれた国に住む私たちの「希望」です。
だからこそ、本当の意味での「キノマチ」をつくりたいと、西粟倉へ行って一層強く感じました。
Text&Photo:アサイアサミ(ココホレジャパン)