木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2020.02.12
森とまちをつなぎ、暮らしに「木」を取り入れよう。木造木質建築に取り組む「竹中工務店」が、「木のまち」をつくる理由とは?

キノマチ会議」は、グリーンズと竹中工務店がタッグを組み、全国から仲間を募りながら、木のまちをつくるための知恵を結集し「持続可能なまちを、木でつくる」ことを目指すキノマチプロジェクトのリアル・ミーティング。また、グリーンズに連載中の「木のリテラシーを広げる記事」をキノマチウェブでもシェアします。

今、世界では木造木質建築が注目され、木造の中高層ビルも建てられています。日本でも建築基準法の法改正と技術の向上が進み、木造木質建築が見直され始めているところです。

こうした流れを受け、「木のまちをつくる」ことをビジョンのひとつに掲げたのが、建設会社である「株式会社竹中工務店」です。注目すべきは「このビジョンを本気で実現しようと思ったら、自分たちだけではできない」と、ビジョンを共有し、ともに行動できる仲間づくりを進めていること。

じつはグリーンズも、そんなビジョンに共感した「木のまちを本気でつくる未来会議(通称: キノマチ会議)」の仲間です。キノマチ会議では、木のまちをつくるために、さまざまな領域の実践者との体験や学習を通じて同じビジョンを共有し、仲間になっていくことを目指しています。

今回は、連載「キノマチ会議」のキックオフ記事として、greenz.jp編集長・鈴木菜央が、竹中工務店の木造・木質建築推進本部主任・藤村雅彦さんとまちづくり戦略室副部長・高浜洋平さん、設計部・島田潤さんに、プロジェクトの背景やそこに込められた思いを伺いました。木のまちが生まれることで広がる未来の可能性を探ります!

森林サイクルのなかに、まちづくりを取り込む

菜央 竹中工務店から「木のまちをつくりたい」という話をはじめて聞いたとき、それはすごい! と思いました。もっと詳しく聞いてみると、デジタルファブリケーションから木工、燃料の話まで、いろいろな分野がつながる話なんだということがわかって、これが実現したら、持続可能な循環型社会づくりのもつながるだろうと思ったんですね。ただ、竹中工務店1社ではとてもやりきれない大きな話だろうなとも思いました。

ゼネコンとしてやってきた竹中工務店が、木のまちをつくりたいと考えたことにはどういう背景があるのか、そもそも木のまちってなんなのか、いろいろ聞いていきたいと思っています。まず、竹中工務店は木造木質建築に取り組んでいるそうですが、なぜ取り組もうと思ったのかというところから聞かせていただければと思います。

藤村さん 森林の荒廃が自然災害の要因にもなっているという社会課題があるのは、みなさんご承知のとおりかと思います。そういった課題に対して、企業には、社会に貢献するという社会的責任があります。そこで我々は、森をきっちり管理し、そのなかで木が伐採され、市場に出ていくという森林サイクルのなかにまちづくりを取り込んだ「森林グランドサイクル」という呼称を設けて、企業活動をやっていこうと考えています。

「森林グランドサイクル」のビジョンマップ。

菜央 その中心にあるのが木造木質建築ということになるんでしょうか。

藤村さん そうですね。躯体(建物を支える構造部材)として木を使うものが木造建築、仕上げとして使うものが木質建築です。社会の課題解決のために、我々のもっているソリューション技術で、うまく木を使っていこうということですね。特に木というのは火事や地震に弱いイメージがあるので、それを解決する技術を開発し、建物に適用していくことが必要です。

耐火性能には、1時間耐火、2時間耐火、3時間耐火があり、建築基準法で、耐火性能によって建てられる建物の階数が定められています。つまり高層化を目指すのであれば、耐火性能の高い材を商品化して世の中に出していく必要があるということです。たとえば弊社には「燃エンウッド®」という商品があります。

「燃エンウッド®」は三層構造になっています。木は確かに燃えやすいんですが、炭化してしまえばそこで燃え止まるんですね。だから表面の燃え止まり層で木を炭化させ、その下に熱を吸収してくれるモルタルを入れています。その中心に本来の柱があることで、耐火が成立する構造体ができているんです。

菜央 そうすると、性能は劣るけど、社会的に木がいいとされているから使おうという話ではなく、鉄やコンクリと同等の性能があると考えていいんですね。

藤村さん そうです。基本的には性能を満たしている素材であれば、鉄を使おうが木を使おうがそれは同等品です。

菜央 と聞いても、なお想像つかないんですけど、木造の高層ビルもありえるんですか? 普通の家の柱と梁を想像すると、あれでどうやって高層ビルが建つんだろうって思います。

島田さん 規模の大きい建物をつくるときは、集成材(*)を使うことが多いです。それだと非常に大きくて強い柱をつくれますし、安定した品質で供給できるメリットがあります。そうした技術があってはじめて大規模な木造建築が可能になってくる。たとえば15階建てだと、使う柱は1m弱ぐらいですね。
(*)小さく切り分けた木材を接着剤で組み合わせた木材。品質が一定なものとなり、大断面部材が製作可能。

菜央 そんなに大きい柱を使うんですね! でも高層ビルだったら、すでにコンクリや鉄での技術が確立されていますよね。あえて木造でビルをつくるのはなぜなんですか?

藤村さん ひとつはさきほども言ったように、森林の荒廃などの社会課題を解決するため。さらにいま、SDGs・ESG投資(*)の時代になったこと。環境建築である木造建築が持続可能な社会や温暖化対策を背景に、いま世界の潮流となっています。ESG投資の観点からあるお客さんから言われたのは、「これまでの企業活動は、建物をつくって商売をして利益を生むというものだった。でもこれからは、建物の内容がどうであるかが大切なんだ」ということです。

木で建物をつくるということは、世の中の課題解決も果たしているし、SDGsに貢献することにもなります。そして投資家は、そういった建物の中身を評価して投資をするんですね。つまり、お金の回り方が以前とは変わってきている。
(*)環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資。

菜央 面白いですね。ただ建てればいいのではなく、それが社会的にどういう意味があるのかを、お金を出す側も気にするようになってきているということですね。

木造木質建築の大阪木材仲買会館。(撮影: T.HAHAKURA)

木造木質建築が当たり前の世の中になりつつある

菜央 健康とか癒しの意味合いでも、木は重要そうですね。

高浜さん 木造木質の病院の建築なども行ったのですが、無機質なコンクリの空間よりも、木質の空間のほうが患者さんは落ち着きます。それに、香りもいいんです。木には法律では捉えきれない感覚的な価値がありますよね。そういう五感の価値がこれからどんどん重要になってくると思います。実際その病院は、その後、利用者も増え、好評みたいです。

菜央 もし僕が木造や木質の建物で働いていたら、それだけで仕事が楽しくなりそうです。

高浜さん 都会は働く環境がいいとは言えないけど、利便性がいいから仕方がない。じゃあ、せめて空間は木であり、さらに言えば、「これは長野県の木材ですよ」とか「これは岡山県の木材ですよ」という地方の空気感やストーリーも見えていると、心地いいワークプレイスになるのかなと。

まちづくり戦略室副部長の高浜洋平さん。

菜央 ちなみに、こういった取り組みは海外でもあるんですか?

島田さん 木造の中高層は、建築業界では世界的に盛り上がっています。特にヨーロッパでは、オーストリアやスイスや北欧あたりが先進的ですね。

それとカナダの港湾都市を再開発するプロジェクトがあるんですが、それをグーグルの親会社の「アルファベット」が主導してやっています。企業がまちをつくるという形で、彼らがもつデジタル技術だったりAIであったりセンシングであったり、そういうものはベースにあるんですけれども、まちをつくれば必ず建物が必要になりますよね。

そこでアルファベットは、SDGsやサステナビリティ、CO2削減といったものも含めて、建物をすべて木造にするのがこれからの都市のあり方だということで、計画しています。つまり今、ゼロから都市をデザインするとなると、木造は切り離せないオプションになっているんです。

設計部の島田潤さん。

菜央 もう世界では当たり前になっているんですね。

島田さん 日本はこれだけ森林資源があるし、木を扱える人も、優秀な設計士もいる。それなのに世界に一歩遅れをとっているのは、法律(建築基準法)が厳しいということと、地震があるということが理由です。

ただ、建築基準法は、規制をどんどん緩和する動きにはなっています。毎年のように法律が変わっていて、変わるたびに、建てられる木造建築の規模がだんだん大きくなっています。なのでこれからしばらく、日本での中高層木造建築は、非常に面白い状況になると思います。

もともと日本の社会は、「森林グランドサイクル」だった

菜央 竹中工務店は、「木のまち」をつくるという意識をいつぐらいから持つようになったんでしょうか。

高浜さん 竹中工務店は1610年創業で約400年の歴史があり、棟梁精神が企業文化として引き継がれています。ここ50年は、鉄、コンクリート、ガラスなど近代的な材料で、都市を高層ビルで高密につくることを追求してきました。でもその前の350年は木で建物をつくってきた会社なんです。今、現実を見ると、山が荒廃していたり、世界では熱帯雨林が破壊されていたり、サステナブルじゃない世の中になっている。

そこで、サステナブルな社会をもう1回取り戻すにはどうしたらいいだろう、ということを考えた結果、都市に木のビル、木のまちをつくるということになっていきました。木に関する技術開発も先行して切り拓いています。

山から木をもってきて都会のビルを木でつくる、一方で都会では木の空間で生活する方が山に関係性や思いをもち、休日に旅に出たり寛ぎにいく。木だけではなく人や経済も巡り巡る「森林グランドサイクル」の循環が構築できれば、もう少しサステナブルな社会に向けて役に立てるのかなと。

木造建物を建て、既存ビルを木質化することを都会でどんどん進めていく。それにより都市と山の関係性をつないでいくこと、循環を生み出すこと、これが「木のまち」のコンセプトです。

菜央 具体的にどこかの都市を「木のまち」にする、ということではないんですね。

高浜さん はい。都市全般を対象にしながらポツポツ増えていくイメージです。実験的に何かをつくって、それがよかったら横の人も真似をして、草の根的にどんどん増殖していく。

わかりやすく絵として「木のまち」になるのではなく、ちょっとずつ木の点が増えていって、気づいたら森になっている。「木のまち」はそういうやり方が理想だなと思っています。特に木造は今、毎年のように法律が変わってアップデートしているので、いい事例を実験的につくって、それをみんなでフォローしていくことになると思いますね。

島田さん 逆にいえば、どこでもできるっていうことです。木で建物を建てちゃダメなエリアは日本にはありません。お客さんがいて、木造木質の建物を建ててくださいと言われたらどこでも建てられて、木のまちをつくることができます。

菜央 そうか、「木のまち」というのは関係性から生まれるんですね。だから「ここが木のまちです」とわかりやすく括ることはできない。関係性で木のまちを捉えると、建築の周辺だけでも内装をやる人や家具をつくる人が必要になり、暖房もペレットストーブなんかが採用されると、ペレットをつくる会社が必要になる。いろいろ新しい仕事も生まれそうです。

藤村さん 「森林グランドサイクル」を回していくと、これまでになかったビジネスや、やりたいんだけどできなかったビジネスが生まれることは当然あると思います。だからこそ、キノマチ会議を通してビジョンを共有し、一緒に行動できる仲間づくりをしていきたいと考えました。

greenz.jp編集長の鈴木菜央。

菜央 最初は森林市場が再生したり、ちゃんと生計が成り立つ山主さんが増えていったり、木でまちづくりをしようとしている地方が喜ぶでしょうね。そこから、いろいろなところに変化が及んでいくのかなと思いました。

高浜さん うちの会社は信州の木材もよく使っていて、信州との関わりが深いんです。僕らは山から木をいただくので、信州で何かできないかと思い、実際に動いています。バイオマスエネルギーを一緒にできないかという話も出ていますし、地域の困りごとでは、空き家問題もありますよね。

我々は建設会社ですから、知見を提供して空き家を再生したり、木質でリノベーションすることはできる。たとえば木材でつながりができたその山のまちに、都会の人がふと思い立ったら行けるような空間を、空き家をリノベーションしてつくるというのも、「森林グランドサイクル」のひとつなんじゃないかと感じています。

そう考えると、「森林グランドサイクル」からはじまることってすごく裾野が広いんですよね。その樹形図を見ていると、もともと日本の社会は「森林グランドサイクル」だったんだな、と思います。結局は社会全体でそれを取り戻していくということをやっているんじゃないでしょうか。

菜央 それ、めちゃくちゃ腑に落ちますね。

島田さん 設計者としては、建物が一般の人に与える影響も、「木のまち」の意義として面白くなるんじゃないかなと思っています。建物を木で建てただけでは「木のまち」にはならない。でも木造の建物を使う人が、ちょっと植木鉢置いてみたいと思ったり、道路に水を撒きたいなと思ったり、そういったことが連鎖的に出てくると思うんです。

そうするとお花屋さんの数が増えていったり、動物を飼う人が増えてペットショップが増えていくといったことが起きてくる。木を素材として回しているサイクルとは別に、ユーザー側の都市の構成もちょっとずつ変わっていくんじゃないかということをいちばん楽しみにしています。

「木のまち」は関係性から生まれる

高浜さん 関係づくりの例でいうと、地元で関係づくりを改めてできないかなと思い、今年の春に「深川川床」というものをつくりました。かつて深川(東京・木場)のまちは木材の一大問屋街だったんですけど、その木材がどこからきていたのかいうと川の上流、秩父とか飯能が多かったんですね。

今回は、同じ荒川上流域の埼玉県小川町の森林組合さんとご縁ができました。せっかく川床をつくるのであれば、丁寧にシナリオ重視でつくっていきたいと思い、深川の皆さまと、丁寧に育てられた80年の桧の森を訪問し、「この木を伐らせてください」とお参りし、伐採、製材して、川床に使いました。

2回ツアーを組んで、木を伐る現場、製材する現場、それから向こうの林業関係者や地元企業や役場の皆様と対話する時間など、いろいろセッティングしました。それがすごくよかったんですね。その後に、深川の人たちが「正月のお参りは小川町に行ったよ」とか、深川でお祭りをやるときに「小川町の野菜を持ってきてこっちでマルシェをやりたいね」とか、そこでできた関係性が自然と増幅していきました。

菜央 そう考えると、昔は木で社会がつながっていたんでしょうね。そのつながりの中に、こうしたエピソードがたくさんあった。

高浜さん それこそ小川町でお世話になった森林組合の組合長さんが、深川の生まれだという話をされていて。一緒に行った町会長さんと同じ小学校の2歳違いだったんです。昔は木を買う側と売る側との関係性があって、その方は小川町に嫁いだんですよね。

あとは小川町の歴史ある酒蔵の御主人にご自宅を見せてもらったときに、「これは深川の問屋から、一番高級な木を持ってきて建てたんだ」って自慢されたりもしました。昔の話を聞くと、そういう双方向の関係性のエピソードがたくさん出てきます。

菜央 つながろうとしてつながるんじゃなく、普通に売り買いする中でつながっている。関係性に無理がないですね。

グリーンズが今回、キノマチ会議に自分ごととして関わらせていただいたのも、やっぱり未来のビジョンに無理なく自分がいる感じがしたから。「木のまち」をつくるというビジョンにハッピーな人がいっぱい見えて、僕もそのひとり、っていうイメージがありました。だから一緒にやりたいと思ったし、そういう自然な関係性ができていくのは、すごく大事かなと思います。

高浜さん めちゃくちゃ嬉しいですね。

菜央 僕らはどういう社会をつくるべきなんだろう、どういう経済をつくっていくべきなんだろうと考えたときに、いろいろな人との関係性をもう一度取り戻して、みんながハッピーな社会のあり方をつくっていく必要があると思うんです。そのときにこういった話があるのは僕にとっては希望です。

だからこれはもう、竹中工務店のビジョンというよりも日本のビジョンにしたほうがいいんじゃないかぐらいに思っています。そこまでいけたら最高ですね。

高浜さん おっしゃるように、我々のビジョンっていうよりは、みんなでつくったビジョンにしていきたいと思っています。それこそこうやって会話しながら、今この瞬間も一緒にビジョンをつくっているわけで。だから最終的には竹中工務店のビジョンではなく、キノマチ会議の仲間でつくったビジョンになっていって、それをどんどんシェアしていければいいなと思います。

(座談会ここまで)

日本中に木造木質の建物が増え、「森林グランドサイクル」がしっかり循環するようになると、人にとっても環境にとっても心地いい、持続可能な社会が必然的に生まれます。そして、その循環をより大きく有機的なものにしていくには、たくさんの仲間が必要なのです。

これからはじまる連載記事では「どうやって木のまちをつくるのか?」「このプロジェクトを通じてどんなことができるのか?」を、実践者とともに考えていきます。そして同時に、仲間を増やしていくために、山や製材所など、現場に足を運んで学びを深めるワークショップやカンファレンスなども計画中。キノマチ会議の今後の広がりをどうぞお楽しみに!

最後は「木」のポーズで。インタビューは門前仲町にあるカフェ「YANE」にておこないました。

text:平川友紀 photo:秋山まどか

キノマチSNSの
フォローはこちら
  • キノマチフェイスブックページ
  • キノマチツイッターページ
  • instagram
メールマガジン
第1・第3木曜日、キノマチ情報をお届けします

    上のフォームにメールアドレスを入力し、「登録」ボタンをクリックすると登録完了します。
    メールマガジンに関するプライバシーポリシーはこちら
    JAPAN WOOD DESIGN AWARD