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2020.02.24
「『木の良さ』の正体を解き明かす」森林総合研究所 杉山真樹氏 〜The Flats Woods Kiba Story4〜

『The Flats Woods Kiba Story』は竹中工務店の木造建築『フラッツ ウッズ 木場』ができあがるまでを巡る物語です。

フラッツ ウッズ 木場』は、竹中工務店の木造建築技術を多く採用した次世代のコーポレートレジデンスです。都市に“人に優しい” 中高層木造建築を建てることで、木をめぐる社会問題を解決する足がかりとすることを目指しました。適材適所に木材を使うハイブリッド構造は新時代の木造建築。木という自然の素材を使うことからはじまる、工夫と技術と思いを巡るストーリーをご紹介します。

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
木材研究部門木材加工・特性研究領域チーム長(特性評価担当)
杉山真樹 Masaki Sugiyama
1997年林野庁森林総合研究所研究員に。2013年より現職。専門分野は木材物理学・木質居住環境学。木材および木質空間の快適性に関する研究、国内における家具・内装用木材の流通・利用に関する研究に従事。

『健康』『知的生産性』『コミュニケーションに及ぼす効果』

いま注目されている木造の3 つの効果のうち、最も早くから研究されているのは『健康』に対する効果で、木質空間が人間をリラックスさせることを示す多くの研究データが示されています。

ただし木質空間の効果に限らず、健康効果を科学データから証明するのは極めて困難であり、木質空間の健康効果については未だ傍証的な段階に留まっていることをご理解下さい。

次に『知的生産性』ですがABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という考え方に基づく先進的なオフィス環境が話題になっています。

ABWとは働き手が仕事内容によって働く場所と時間を自由に選べる働き方であり、例えばオフィスのなかで働き方にあわせてゾーンを区切るといったことが行われています。

また、働き方のうちコミュニケーションこそが重要だと考えられ、先進的な会社ではコミュニケーションのゾーンに木材が使われています。

ここに『コミュニケーションに及ぼす効果』が繋がります。『フラッツ ウッズ 木場』の共用空間が木質なのは、そのあたりに配慮しているのだろうなと感じます。

森林総合研究所が研究開発に関わった木質材料やその関連技術を応用しモデル木造住宅(実験住宅)で日夜、実験と研究が行われている。

木の良さはほどほどに優れていること

戦後の日本では、空襲による大火の経験や伊勢湾台風の被害が契機となって、都市部や大規模建築物に木材を使うことが困難な時代がしばらく続きました。

大規模木造建築の技術が停滞している間にRC 造や鉄骨造の技術開発は飛躍的に進みました。しかしここ10 年来、時代の変化で木造への揺り戻しが起こっています。

“ 木の良さ”というと素晴らしい性能を期待しがちですが、例えば強度では鉄やコンクリートなど、ある性質を人工的に特化して開発された建材に敵いません。

むしろ木材は全般的に取り立てて悪い性質がなく中庸あるいはほどほどに優れているバランスの取れた材料と言えます。また加工や改質をしやすいので欠点を比較的容易に補うことができます。こういった意味で木材は人が使いやすい材料なのだと思います。

私は、3 年間人事交流により林野庁で働いた際、多くの林業事業者や木材事業者と交流しました。そのなかで林業や木材産業はボランティアではなく産業であり、生業としてそこで働く人たちを養えなければいくら森への想いがあっても成り立たないことを痛感させられました。

私の研究のモチベーションは、林業、木材産業という日本に古くからある産業を将来に残していくこと。そのために“ 木の良さ” の正体をもっと明らかにして、消費者が真に求める商品の提案に役立ててもらえればと思います。

text:アサイアサミ photo:小禄慎一郎

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