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2020.04.23
奈良女子大学「木の未来を見据えた研究室木質改修プロジェクト」後編

木造・木質ファンとは「キノマチプロジェクト」が注目する木造・木質建築をキノマチ目線で味わう、建築カルチャーマガジンです。

パブリックスペースを木質化するという希望

グレーだった研究室があたたかみのある木質空間になった〝kumi〟「奈良の伝統建築に倣った、冗長性ある架構による木質化改修」は、木質構造の研究者である瀧野敦夫先生の思い。竹中工務店大阪本店設計部でありながら個人的に吉野杉へ愛を注ぐ佐野亮さん。そして、川上から林業のリアルと向き合いながら良質な吉野杉を供給する老舗木材屋3代目の石橋輝一さんがキーマンとなって推し進められたプロジェクトです。

瀧野先生は自らの研究室を木質化にした経緯をこう話します。

瀧野 僕は、吉野材の有効利用の一つとして、学校の木質化を検討しています。特に、小中学校などの学校を木質化することを目標とし、まずは試作として大学の研究室を木質化しました。

奈良の木材業界が抱えている問題と全国の問題と少々ずれていると瀧野先生。いま全国的に見ると木造は新国立競技場をはじめ、建築業界のムーブメントともいえます。そのムーブメントはいま、集成材やCLTに目が向いている現実があり、都市木造というキーワードが示すように、現代の木造は集成材やCLTに代表される木質建材が求められます。それが吉野のような無垢で勝負する材には合わないのです。現在、伐採期を迎えている吉野の木々は、森や木に手を入れてきた“手数”が段違いに多く、単価が見合わないのです。

瀧野 一番ラクなのは吉野の天然木材で自然素材の家を建てるときに材を使いましょうという案です。しかし、いま少子化が進み、空き家問題が山積しているなかで経済がまわるほど一般住宅が爆発的に増えていくことは考えがたい。いかにして吉野杉のような材を利用できるかを考えたところ、小中学校のような学校の教室を木質化することがよいのではないかと考えました。

瀧野先生が教えてくださった学校を木質化する利点は「学校の教室は内装制限がかからない」「製材品や板材を使って家具や間仕切り壁などを木造化することで、本当の木材を子供達が体感できる」「メンテナンス(普段の大掃除や定期的な部材の交換)の仕組みをうまく考えれば、子供達が木材に触れる機会が増える」。

そしてなにより、木造・木質化したときに、木材の「割れがある」「狂う」「ねじれる」ことへのネガティブなイメージをパブリック空間の場合、持たれることが少ないといいます。

瀧野 学校という場所は公共、つまり「自分だけの場所じゃない」ということ。自分のものはみんなピカピカにしたがるんですが、所詮、公共は他人の場所なんです。すると、意外と欠点に目がいかなくて、長所に目がいくなと。自分の家だと絶対文句をいいますよ(笑)。学校の先生が木材の本来の欠点である節も「元々ここは枝があった場所だよ」と話せば納得してくれます。むしろ「いいな」とおわれる。物語などポジティブなものに目がいくんです。

先生は「ただ僕がここを木質にしたかったっていうのもあるんですけどね」と優しく笑っていましたが、先生は木材利用の先を見据えた実験をしたのです。

木に関わる人がつながることの重要性

木のキーマンたちがつながったことも偶然ではないそう。きっかけは、奈良の明日香村と平城宮跡を担当していた国交省のスーパー公務員。彼は、奈良は木に関わるひとがバラバラだという思いから「なにができるかわからないけれど、木に関わる人をつなげていったらなにかできるんじゃないか」と、瀧野先生、佐野さん、石橋さんをはじめ、たくさんのひとを繋げていったそう。人がつながったことで木質化が進んだことも興味深い現象です。

瀧野 現・吉野町長(当時は町議で吉野の山守・中井章太氏)に吉野材を買うにはどうしたらよいかと伺ったら、吉野中央木材株式会社の石橋さんとつなげていただきました。

佐野 僕も4年前に吉野の山を町長に見せていただいて、あの40メートルくらいの木がスクッと垂直に立ち並ぶ山の姿を初めて見て、とても感動しました。そしてまた土や木のいい香りがするんですよ。風が吹いていて、川が流れて、動物がいて。500年前から受け継がれてきた、何世代にもわたるその光景に衝撃的に感動して、そこからのめり込みました。

吉野林業発祥の地である奈良県川上村の樹齢300年の杉林。
大正~昭和にかけての川上村の杉林。

佐野 それ以来、ことあれば吉野に関わりたいと思い、継続的に訪れるようになりました。都会から電車でやってきて、吉野神宮駅で扉が開くと木の香りがふわっとするんです。冬の時期は木の含水量が少なく伐採シーズンということもあり、特にこの2月から3月の時期は貯木場が木で満たされていて、香りが町中に立ち込めています。その経験っていうのがすごく印象的で、あの忘れがたい経験をもう一度したくなって、また帰ってきてしまうのです。

瀧野先生や佐野さんに共通しているのは、吉野への思慕と危機感。それを一丁目一番地の現場で林業と向き合っているのが石橋さんです。

石橋 林業家さんから出てきた材を僕らが目利きしています。自分がいいなと思う木を仕入れてきて、建築材を中心に卸しています。林業と製材は密接な関係で、僕らは二次産業になるわけですが、ステージが違うはずなのに、ほぼほぼ運命共同体。吉野は、産地が大きいので製材所も分業化が進んでいます。どこかが途切れると、あとがぜんぶ終わる恐れもあります。

佐野 かつて民藝運動という生活文化運動がありました。民藝とはその土地で暮らしていく為の道具をその土地の材料でその土地の人たちがつくるということです。私が可能性を感じているのは日本の島国特有の風土が生み出した、木材資源をはじめとした身の回りにある豊かな自然資源に目を向け、暮らしに取り入れようとする「民藝的建築」というありかたです。人々の価値感が多様になった現代ではありますが、本質的な物の価値は「物語的価値」「技術的価値」「物質的価値」「量数的価値」「時間的価値」に整理できるんじゃないかと考えており、木をはじめとする自然資源はそれら価値を内包するものと考え、しっかりと引き出してあげたいと思っています。

瀧野 僕は木質構造の研究を行っていますが、木にそこまで傾倒していないのが自分の売りだと思っています。木造・木質化を推進するひとはみんな「木、大好き!」ってひとが多いんですが、そうじゃない、圧倒的多数のひとがいてそちら側の視点に立ったときにどういう木の使いかたができるのか考えるのが僕のスタンスです。もちろん、僕も木が好きなんですが、対外的には「木?ふつー」といっています(笑)。

木を使うことにまだそんなに価値を見出していない人たち側に立ってものを考える。木の愛好家でないスタンスで攻め、そこには一工夫がいる。その工夫がかたちになったのが「瀧野研究室」なのかもしれません。

木造・木質建築で、耐火集成材をつくって超高層を建てるという垂直方向の木材利用がある一方で、水平方向での木材利用も裾野を広げなければ。エンドユーザーが木を求めなければ意味がないのです。

木質は、その名のとおり、木とのふれあいかたを教えてくれる。もしかしたら、木の未来も担っているのかもしれない。そんな希望が、あの明るい研究室から感じられました。

text:アサイアサミ

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