木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

2021.03.17
社会に必須の存在であり続ける会社が木造木質ビルを建てた。ハイブリッド木造建築「タクマビル新館(研修センター)」

工業地から住宅街のようになってきたまちにフィットするビル

JR尼崎駅から歩いて15分ほどの場所にある「株式会社タクマ」(以下タクマ)は、「環境」と「エネルギー」を主要テーマにごみ処理・水処理・ボイラ・産業廃棄物処理プラント事業を展開している会社です。

タクマは「再生可能エネルギーの活用と環境保全の分野を中心にリーディングカンパニーとして社会に必須の存在であり続ける」という理念で事業をすすめている企業で、キノマチとも親和性が高そうです。今回、本社ビルの隣に、CLTと耐火集成材を使用した6階建ての次世代ハイブリッド木造建築が竣工しました。

西日本で初の燃エンウッド® 2時間耐火集成木材を採用し、免震構造により高い防災性を実現させたプロジェクトを並々ならぬ情熱で推し進めたタクマの真杉敬蔵さんにその背景について伺いました。

株式会社タクマ コーポレート・サービス本部 総務部長兼法務部長の真杉さん。
株式会社タクマ コーポレート・サービス本部 総務部長兼法務部長の真杉さん。

真杉さん 新館を建てるにあたり、我々の事業分野に重なるような建物にしたかったんです。想いを竹中工務店さんにお伝えさせていただいて、みごと形にしていただきました。

私事ですが、ずっと事務方の仕事を主にやってきたので、ものづくりの会社に勤めていながら、ものをつくった経験がありませんでした。想いが形になることに、最初から携わることができて、得難い経験をしたと思っています。

木のビルは、地域のみなさんからの評判も良く、まちのシンボルのように思っていただいて、正直、私はかなり誇りに思っていまして、盛りあがっています(笑)。

真杉さんの笑顔に、お話を伺うこちらも嬉しい気持ちになってきます。では、さっそく、できたてほやほやの新館をご案内いただきます。

写真左が既存の本館ビル。本館も竹中工務店が設計施工。
写真左が既存の本館ビル。本館も竹中工務店が設計施工。

集成材のマリオンを組み込んだ外装が、風景に木のあしらいをもたらす存在感を放っています。

真杉さん 新館が建つ場所には、元々、池がありました。池のあるビルということで、弊社は地域で認知度がありました。今回その池を埋め立て、新館をつくりました。ものの見事に池も復活していただいて、粋な建物になりました。

タクマビル新館のエントランス脇は池になっている。
タクマビル新館のエントランス脇は池になっている。

タクマの本社は、ひとの暮らしに近い場所にあります。昔、このあたりは工場街でした。しかし、リーマンショックをさかいに町工場の大多数は閉鎖することに。その跡地が住宅街へ変わっていきました。新興住宅街なので、若い世代が移り住んできたこともあり、まちの雰囲気はだいぶ変わりました。小学校も近く、子供たちののどかな声も届きます。

タクマ新館がハイブリッド木造かつ免震構造にした理由は、まち自体に木のあしらいを加えたかったことと、もうひとつ理由があります。

真杉さん 南に海があり、ここから北に歩いて15分ほどのJR尼崎駅近辺は地名が潮江といい、昔は、そのあたりまで海だったと思われます。そのため、海抜がほぼゼロに等しく、津波が来たときに大変危険な地域でもあります。ここは本館と合わせ、数百人を受け入れることができるビルになっていて、備蓄も3日間分あります。免震なので、より防災拠点としても地域への貢献もしていきたいと考えました。防災訓練もしているんですよ!私たちは社会貢献そのものが、会社の業務と重なりますから。

阪神淡路大震災や東日本大震災の教訓から、大規模建築が担う役割は防災拠点へ。よりひとに優しいものへシフトしています。人に優しい素材である「木」で実現するには、並々ならぬ情熱が必要です。

支えも、外も、中も、木にこだわった

真杉さん 本当は構造も全部、木造にしたいと思ったのですが、このあたりが準工業地域で準防火地域でもあるので、オール木造で6階建ては難しかったです。鉄骨も組み合わせて、工夫して、木のビルと言える建物になりました。

そして、建築端材などを燃料として使いバイオマス発電をするという弊社のプラントを使ってくださっている大切なお客様である岡山県の銘建工業株式会社さんは、大手集成材メーカーさんでCLT製造を手掛けていらっしゃいます。林業振興とCLTを普及させたいというお話を以前から伺っており、このビルを建てるにあたって、せっかく建てるならば、環境に配慮した木造にしよう。せっかくだから、使用する木材は銘建工業さんのものを使おうと考えました。

オフィスは、木の香りが漂うほど木がふんだんに使われている。

使用された構造用木材は半分がCLT、それ以外は燃エンウッドや集成材であり、そのすべてが銘建工業で製造された木材だといいます。

真杉さん「できれば国産木材がいいけれど、それは銘建工業さんにおまかせします」「そのなかでも極力CLTを使用してください」とお話しました。銘建工業さんと竹中工務店さん、そしてタクマのトライアングルで建てたビルともいえます。大切なお客様なので、施主の製品検査などは居心地が悪かったです(笑)。縁が縁をよんで、つながりで木造木質ビルが建ちました。

タクマビル新館のこだわりは細部にも及びます。什器をふくめ、イミテーションの木は使わず、すべて本物の木にしたといいます。外装の木のあしらい、ハイブリッド木造、免震が「まち」に対する役割だとすれば、内装を木質にこだわるのは、働くひとへの愛にほかなりません。

真杉さん もともと、コンセプトにあり、昨今の「働き方改革」のこともあって、木のぬくもりがあることで落ち着けるオフィスを目指しました。働くところには本物の木がいい。だから、とてもいい木の香りがするんです。

施工部門もある会社なので、テレワークが導入できる部署もあれば、難しいところもありました。昨春の緊急事態宣言のときにはなんとか6割くらいの社員がテレワークをしました。せっかく、みんなで働く場所ですから、ほっとできるところがいいと、コロナ前より強く思うようになりました。

また、事業への取組みにおいても、従来の考えかたを変える起爆剤になったのではないかと真杉さんはいいます。

真杉さん 私たちの会社はボイラからはじまって、最近はごみ処理プラントとバイオマス発電プラントのふたつが主力商品になります。

東日本大震災以降、化石由来はよくないね、という風潮から再生可能エネルギーにシフトしていくことが盛りあがっています。建設廃材や家畜の糞尿、植物の籾殻などを燃やして発電することができます。

エネルギーとして一番代表的なのが建築廃材の木屑などです。さらにその川上にある林業も衰退していたり、環境問題においても間伐材のことなど大きなものを抱えています。

木を積極的に使用することによって、森林資源の循環に寄与するんじゃないかという期待もしています。私たちにとってはそのことも木を使用する理由のひとつです。

そしてたまたま、取引先企業のお客様に木に関わる銘建工業さんがいらっしゃったこともめぐり合わせですね。

大きな震災のあとなど、瓦礫の処理など、我々もお声がけいただいて、環境に貢献することを期待されていると感じることがあります。それに対して、恩返しをしたいという気持ちは常にアイデンティティとして持っています。そういうつながりから、木にこだわりました。

「ビルを建てるタイミングと、時代のニーズがマッチしました」と真杉さん。

木造は、はるか昔から日本の代表的な建築様式でしたが、近代化が進むといつしかコンクリートと鉄が主流に。そして今、また木造が時代の価値観にフィットする機運が高まってきました。

それは昔に戻るのではなく、木の良さを受け取れる居住性と、あらゆる持続可能性に適応した木造の技術革新が融合した「最新」の建築がまちに増えているのです。

なによりも、当事者であるタクマさん自身が信念を持ってビルを建て、そのビルを愛で、そこで快適に働くことで、建物を建てる以上の効果が、ひとやまちにあらわれるような気がしてきます。

建物は出来たら終わりではありません。ひとを包み、まちの備わり、社会課題を問うていくことでランドマークに育ちます。

タクマビル新館は大きく立派な次世代ハイブリッド木造建築ですが、これからずっと、このまちとひとを潤していく、すくすく伸びる木の芽のように見えました。

Text:アサイアサミ

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