前編で紹介した藤井さんの論考のつづきでは、
日経BP総合研究所が2020年11月から2021年1月にかけて日本、フィンランド、オーストリア、イタリア、英国、カナダ、オーストラリアの7か国で実施した意識調査によると、建物や家具への木材の利用に「良い」印象を持つ率は日本が58パーセントで最も低く、フィンランド(86パーセント)やオーストリア(84パーセント)と大差がついた。
森林資源の循環利用の意義を学ぶ機会があると認めた割合でも日本は最低の39パーセントにとどまり、イタリア(84パーセント)、カナダ(67パーセント)の後塵を拝した
とあります。
低い、低過ぎる!
僕のように、木造建物や家具などに多少なりとも関わってそれに触れているような者にとっては『木材利用に「良い」印象を持つ割合は⽇本が最も低い』というのは、ちょっと解せない結果です。
それは木材に接する機会が不足しているからではないか。『森林資源の循環利用の意義を学ぶ機会も最低』。もはやメディアとしてキノマチウェブの責任すら感じます。
それでは、きっかけや学ぶ機会はどうやって生み出していくのか。
ひとつは関係者の組織化。もうひとつは発信する情報やデータに価値を持たせることなどが考えられます。
組織化は、植林に関わる人や資金を特に「各地域」で回すために地元の学校やボランティアとの協力が求められると思います。また、キノマチプロジェクトで、森林グランドサイクル®を学ぶような機会がつくれたらと思います。
森林への関わりがより自分事として愛着が沸いたり、身近に感じられるような価値を持った情報やデータはどんなものがあるのか、植林をフックに考えてみたいと思います。
僕自身、今回の植林を経験して、知りたいと思った情報は「12名での470本、約2時間の植林労働がFMセンターで使った全部で280立米のカラマツ建築製材のどのくらいに寄与するのか」です。
今回の総勢12名での植林が、北海道地区FMセンター(以下FMセンター)の建築プロジェクト全体の木造製品のどのくらいに相当するのか、考えてみます。
ここからは森林グランドサイクルを木に置き換えて数字でトレースしていく地道な検証ですが少し、お付き合い下さい。
<植林後の成長過程>
1)今回、細長い0.2ヘクタール(21メートル×94メートルくらい)の斜面に470本の苗木を植林しました。
2)どんどん木が育ちます。15年くらいすると隣接木が迫ってきます。
3)そこで曲がった木や生育の悪い木を間引きます(1回目の間伐)。これで間隔は広がる。
4)さらに年月が経ってまた木が育った段階で再度、木を間引きます(2回目の間伐)
5)そして時間が経過し、40~50年生の直径28センチ、樹高22メートル、120本程度(残った木の比率は25.5パーセント)のトドマツ人工林が形成される。
(単位面積密度:600本/ha、個体間距離4.1m、相対幹距比※118.6パーセント。そこそこ現実的かな?)
そういえば、今回の余市郡二木町東町の斜面の頂上付近に隣地境界の印として樹齢68年のカラマツ4本が並んで残されていました。それと切株跡もありました。これらを見ても先ほどの直径、樹高、個体間距離の数値はまずまずです。
<建築用製材量の試算>
いよいよ建築用製材として皆伐の時期が来たと仮定します。
今回植えたトドマツ人工林からどのくらいの建材が得られるのでしょうか。ここではFMセンター同様に柱、梁、ブレース、構造床、耐力壁といった構造材としての製材を対象とします。
・直径28センチメートル、樹高22mの北海道トドマツの立木幹材積 0.72立米/本
(森林総研の幹材積プログラムより)
・立木幹材積から丸太原木への造材歩留まり(原木丸太出材積/立木幹材積) 80パーセント
・丸太原木からの建築用製材化 25パーセント以上より、今回植林した0.2ヘクタールからの建築⽤製品量は次の通り計算できます。
0.72⽴⽶/本×0.8×0.25×120(本)=17.28⽴⽶
実際の北海道FMCでは全体で280立米の製品を使っているので
建築資材循環への寄与(充足)率:17.28立米÷280立米=6.2パーセント≒1/16
となります。
全部を循環させるには、同様の植林を16回行う必要がある。
あるいは今回の植林ではFMセンター(856.46平方メートル)は柱、梁、ブレース、床が木造なので、本当にざっくりと2階の柱くらいはまかなえているといえそうです。
(早期に間伐した、あるいは育ちが悪くなった74.5パーセントの材については無視しています。また今回、ひとり1時間植林することによる建築製品実現量は0.72立米/人・時間です)そして、なによりも増して雨、寒さ、斜面に負けない丈夫な体を持つことが必要ですね。
今回植林した関係者のみなさんにこの話をしたらどんな感覚を持ってもらえるでしょうか。
植林の意義に関連づいた感覚が得られるのであればひとつ価値ある情報ともいえるのではないかと思います。そんな情報もさらに探していきたいですね。
キノマチウェブでは、今年もまた全国各地での活動を通じて、森林グランドサイクルの循環活動への誘導を目指していきます。
※1相対幹距比(Sr)
相対幹距比は、上層平均樹高(上層木の平均樹高)に対する平均個体間距離の割合のことです。 平均個体間距離は、単位面積である10,000平方メートル(1ha)を本数密度で割り(これが個体当たりの平均 占有面積になります)、その平方根をとります(これは個体の占有空間を正方形とみなしたときの 1辺の長さとなり、これを隣接木との平均距離とします)。例えば、樹高25メートルで本数密度400本/ haの林分では、相対幹距比は、20パーセントになります。相対幹距比は、20パーセントくらいが適当な混み具合で、 17パーセントを下回ると混み過ぎ、14パーセント以下であればかなりの混み過ぎであるとされています。
(林野庁 森づくりの理念と森林施業)
(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。