木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

こんにちは。前回のコラムでは、天塩研究林での伐採や研究、また北海道地区FMセンター(以下FMセンター)での道産木、建築製材、ダブルティンバーを繋ぐサプライチェーンのお話をしてきました。

天塩研究林がある天塩郡幌延町がおよそ東経142度、北緯45度、FMセンターがある札幌市が東経141度、北緯43度付近、それに対して僕の勤務している東京都江東区が東経140度、北緯36度あたりなので相互の差は、緯度で7~9度、経度で1~2度ということになります。

一桁の数値だけ見ると大したことはなく感じますが、地球の直径は12,742キロもあるので、その概略距離は(経度の差は無視して)12,742✕3.14✕(7~9度)/ 360度≒800~1,000キロあります。その意味で日常から800キロ以上もの天空を隔てた世界の話が続きました。

ということで今回は、長野県塩尻市奈良井(東経138度、北緯36度)のキノマチに話題を転じようと思います。約400年前の江戸時代に京都と江戸を結んだ中山道の奈良井宿は、江戸から34番目、真ん中の宿場町。

東京・新宿からJR特急あずさと中央本線を乗り継いで約3時間の奈良井駅(JR東海では最高の標高934mの駅)で降り、駅前の街道沿いに歩き始めるとすぐに江戸時代にタイムスリップしたような感覚を覚えます。

木造家屋の宿場の町並みは日本最長と言われる1.1キロも続いていて圧巻。そこには電信柱や目立った電灯もなく、晴れの夜空には天の川も見えるとか、まさに200年の時空を超えて展開する別世界そのものです。

江戸風情が今も残る奈良井宿の町並み
奈良井の木造駅舎
奈良井駅周辺の山林

小説「夜明け前」の書き出しで作者の島崎藤村は次のように木曽路を記しています。

木曽路はすべて山の中である。あるところは岨(そば)づたいに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曽川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いていた。

「岨、崖、深、岸、尾、谷」という単語を聞くにつけ、北海道の広々とした大地との違いが顕著に伝わってきます。

国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されているこの街道沿いで、進められているのが築200年の古民家群活用によるまちづくり事業。今回はそこにスポットを当てます。

このプロジェクトは2棟の木造等建造物を改修した宿泊施設「BYAKU Narai」とレストラン、バー、温浴施設、酒蔵などからなります。今回、僕は「BYAKU Narai」「歳吉屋」(もう一方は「上原屋」)のフロント脇にある百一号室に泊りました。

杉の森酒造(屋号:歳吉屋)の店先 
欄間装飾が映える客室(百一号室) 
天井懐の四角錐台の木製トップライト(百一号室) 

凄いですね。なにが凄いかというと客室上部にそそり立つ木製のトップライト。寛政5(1793)年創業の「杉の森酒造」母屋の応接間の空間上部あたりに備わっていたようです。煤けたような木肌感、時代を経たものならではのビンテージ感を醸しています。

この建物をリノベーションした設計者曰く「200年改変を繰り返し、時代を経て暮らしを営んできた古民家の空間を読み解くのは大変。もとの仕上げを除くとまた新たな発見があるのは日常茶飯事。時代を経たものに触れれば触れるほど眼から入ってくる情報の解像度は研ぎ澄まされ、まるで既存の建物と対話しているような感覚が生まれてくる」とのこと。

このトップライトも古民家と設計者との見えない対話を経て、適したかたちで遺されたのだな、と妙に納得したりしました。

その後、地元間伐材の木材チップを用いたバイオマスボイラーで沸かしたお湯を使った温浴施設「山泉 SAN-SEN」に足を踏み入れます。

ここの水は「信濃川の源流」の山水を引き込み、風呂の内装には「木曽五木」(ヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキ・ネズコ)を使ったとのこと。これも地元の水と木の恵みを体感できる、この地ならではの価値なのでしょうね。

バイオマスボイラーで温浴施設にお湯を供給 
内装を木曽五木で設えた温浴施設

「木曽五木」については再び、「夜明け前」の関連部分を引用してみます。

檜木、椹(さわら)、明檜(あすなろ)、高野槇、𣜌(ねずこ)―これを木曽では五木という。そういう樹木の生長する森林の方は殊に山も深い。この地方には巣山、留山(とめやま)、明山(あけやま)の区別があって、巣山と留山とは絶対に村民の立ち入ることを許されない森林地帯であり、明山だけが自由林とされていた。

その明山でも、五木ばかりは許可なしに伐採することを禁じられていた。これは森林保護の精神から出たことは明らかで、木曽山を管理する尾張藩がそれほどこの地方から生まれて来る良い材木を重く見ていたのである。

なるほど。そんな贅沢な「木曽五木」に囲まれた温浴施設で寛ぐなんて、200年のときを経た今ならばこそ、実現可能となった希少空間なんです。

さてさて、僕がここで紹介したのは再生を目指す奈良井宿の魅力のほんの一部です。とても限られた紙面では伝えきれません。キノマチプロジェクト的奈良井宿の魅力は、また特集記事で詳細にお伝えします。乞うご期待!です。

「上原屋」(1.1キロのうち起点から約200m地点)に向かう町並み映像(籠のように揺れるので酔いに注意!)
<現在、準備中>

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(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura 
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。

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