こんにちは。10月は木材利用促進月間ということもあり、ウッドデザイン賞の選出、映画「木樵」の上映、キノマチ大会議といろいろな催しが行われました。
僕がキノマチウェブに関わるようになって今年で3年目ですが、森林関係の活動が年を追って活発化してきている実感があります。これを一過性にするのではなく、まさにサステナブルにしていくことが求められています。
そのためにどうしたらよいのか、僕は1にも2にも、森の関係人口、というか、繰り返し日本の森や山に入る人を増やすことにつきると思っています。
人々が森や山に入る動機や目的はいろいろあり、職業としての木樵(山の護り人)の選択、がひとつの究極かとも思いますが、そこまで木に近づかなくても、もっと森で過ごす、多様な生き物に触れることを習慣化する人々が増えることを目指して、キノマチウェブはそのためのメディアとして木に囲まれた場所や森林空間の魅力やそこで営まれる活動の価値を届けていければと考えています。
そこで今回は、木材利用促進月間である10月に体験した、兵庫県川西市の北摂・猪名川流域里山での森づくり研修についてお伝えします。これは前回7月コラムの続編でもあるのでまず以下でおさらいしましょう。
ということで、今回のテーマは「里山健全化を目指した伐採活動」です。
また、この竹中工務店保有の清和台里山での森づくり研修は兵庫県立人と自然の博物館の主任研究員、橋本佳延先生の全面的ご指導の元で進められています。橋本先生の知識、知見が満載された贅沢な実践的研修です。この場をお借りして、先生、ありがとうございます。
清和台の森での伐採体験
さて今の清和台の森林分布の概念図を以下に示します。清和台の森は5階層に層別されています。
この森は人々の手が入ったアカマツとコナラが林冠を覆う二次林ですが、長く放置されると常緑植物の繁茂によって被度が上がり、種多様性が低下してくる。よって光環境の改善のために適度な伐採を行う必要がある。そして研修における伐採手順は森林分布を総合的に勘案して以下となります。
手順1.材の集積地を決める。
手順2.倒木や落枝などを拾って除去する。 手順3.草本層を優占する常緑草本やササ類を刈り取る。
手順4.低木層に繁茂する常緑樹を「種別」に刈り取る。 手順5.高木層に繁茂する常緑樹を「種別」に刈り取る。
現状、常緑植物の被度が250パーセントを超え、地面に光が差さないような状況となっている環境を被度150パーセントくらいまでにする計画が立てられた。常緑植物の被度が100パーセントを超えるのは樹木が重層化しているために出てくる数値です。
標準的手法として受け口をつくり、その逆側に追い口を当てて伐採していく。低木で直径4~5センチ、高木で直径10数センチくらいですが、割と固く、慣れていないこともあってノコギリを入れてもなかなか倒すことができません。また伐った後の玉切りや枝葉の処理にも結構手間取りました。
とはいっても私自身もなんとか、ヒサカキの玉切り、カナメモチの伐採を行い、その時の感触はまだ手のひらに残っています。
後半には高木に位置づけられるソヨゴの伐採、これがメインイベントでしたが一人では伐りきれず、伐り方バトンタッチしてようやく倒木に至った時は一同、思わず拍手。周辺を見上げると伐採前に比べてなんとすっきりしたことか!これは樹木やここに棲みたい動植物にとっても心地よいものになったのでしょうか。伐採した材は分散して集積しましたが、これから朽ちていって、この分量であればカミキリの幼虫のエサになったり、土壌の養分になったりということで現時点では敢えてこの森から搬出はしないとのことでした。
このように手を入れることで豊かな植生が育まれる里山となっていくことを望みます。成果が見えるようになるまでは時間がかかると思いますが、それまで暖かく見守る、というのではなく、足を踏み入れて主体的に行動することが必要なんです。
キノマチイノベーションに向けて
今回も、かつては日本中どこにでもあったような里山を対象とした小さな森林活動についてお伝えしました。
全国各地には多様な特徴を持った里山がいくつもあると思います。それもそのはず、里山を山と海を結ぶ豊かな自然の交差点と位置付け、地域の多様性は森林率と海岸線の長さの掛け算に大きく依存すると仮定すると、森林率約70パーセント、海岸線約30,000キロメートルの日本ほど特徴的な国はありません。仮にランクを10,000キロメートル以上の海岸線と50パーセント以上の森林率と、22段階下げたとしても該当する唯一の国は日本。まさに究極の二刀流ともいえます。
ある著名な先生 がイノベーションについてこう語っていました。
「新しいアイデアを発想してそれをビジネスに結びつけるまではそれほど難しいことはないし、結び付けた後に眠っている、燻っているアイデアはいくらでもある。そうではなく、イノベーションとは規模効果、スケールが伴なったものでなくてはならない。そこまでいかないとイノベーションとは言えない。」
この考え方に沿うとしたら、日本里山の復活のようなキノマチプロジェクトが全国にタケノコのように生えてくる必要があります。そしてその個々のキノマチプロジェクトがなにかのしくみに載ってスケール化することを同時に考えていく必要がある。
里山から日本ならではの地域イノベーションを!…なんていうのは気障ったらしいですかね。
※1被度:植物群生において、各植物が地表のどれくらいの割合を被っているかを、自分率あるいは等級で示すもの。等級であれば1:10以下、2:10~25、3:25~50、4:50~75、5:75以上という5段階に区分される。
(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。