木のまちづくりから未来のヒントを見つけるマガジン キノマチウェブ

豊かな自然に囲まれた茨城県つくば市。日本百名山のひとつに数えられる筑波山や日本第2位の湖面積を誇る霞ヶ浦など恵まれた自然環境に加え、多くの研究機関を有し、最先端の研究が行われる学術・研究都市でもあります。自然と技術が融合するこのまちに、キノマチウェブがかねてから注目してきた「木のサーキュラー・エコノミー」を体現する会社があります。

日本ノボパン工業株式会社は、株式会社ヤマゲンなどの木材チップ製造業者と連携し、木質廃棄物を再利用して新しい板「パーティクルボード・ノボパン」を製造する会社です。「地球のために、切った木を長く利用する」という思いのもと、「パーティクルボード・ノボパン」の普及を通じて「ゴミを廃棄・焼却する社会からゴミを生みださない循環型社会」を目指しています。

今回はつくば市にある2社の工場に伺い、木質廃棄物が新しい板へと生まれ変わる様子を見学させてもらいました。

まるで輪廻転生!? 木質廃棄物が蘇る工程に潜入

株式会社ヤマゲンが運営するつくばウッドリサイクルセンター

最初に訪れたのは、木くずの中間処理業を行う株式会社ヤマゲン。環境への貢献を事業の柱とし、和歌山県や奈良県に自社保有する森林の管理事業や、リサイクル事業などを展開しています。1998年にはつくば市に「つくばウッドリサイクルセンター」を構え、日本ノボパン工業株式会社と連携してパーティクルボードの原料となるチップを製造しています。

パーティクルボードとは、木材などを破砕したチップを固めてつくった板のことです。主に住宅の下地材などの建材として使われており、同じ用途で使われる合板(ベニヤ板)は複数の薄い板を重ねて圧縮しているのに対し、パーティクルボードは表面には細かく破砕したチップを、芯層には薄く削りとったチップを使用して熱圧・成型しています。

今回つくばウッドリサイクルセンターを案内してくれた取締役工場長の高崎雅さん

もともと森林から採れる木材を利用して事業を展開していたヤマゲン。時代の変化とともに日本の森林経営が傾き、原料の転換を迫られたことがきっかけで木質廃棄物からチップを製造するようになったのだとか。

また、2002年に建設リサイクル法が施行され、建築現場から生まれる廃棄物の分別が進んだことも理由のひとつだといいます。搬入者から処分料をもらうことで原料に左右されず、より安価にチップを製造できるようになりました。

つくばウッドリサイクルセンターでは1日に約80台のトラックが搬入されます

トラックに載せられ、つくばウッドリサイクルセンターへ次々と運ばれてくる木質廃棄物。解体工事現場で発生する家屋解体材や新築工事現場・工場で不要になった残材など、材質も大きさもバラバラな木材を一緒くたに加工していきます。

パワーシャベルで板のような大きい木質廃棄物を粗く破砕する様子

荷卸しされた木質廃棄物は、最初にパーティクルボード用チップと燃料用チップの2種類に分類します。続いて破砕機コンベアに入れるため、木材をパワーシャベルでザクザクと解体していきます。粗く砕いた木質廃棄物を破砕機コンベアに投入し、さらにチップの大きさへと細かく破砕します。

異物を除去する金属検出機。研究を重ね、年々異物を除去する技術も上がっていったそう

チップを製造する際のポイントは廃材の異物を限りなく除去すること。金属や破砕できない木材の硬い節目などを選別するため、磁選機、風力選別機、金属検知器を通し、異物の少ない良質なチップをつくります。

チップの出荷場。1日に100トン以上のチップを製造・出荷されています

こうして製造されたチップは運送専用トラックに載せられ、日本ノボパン工業へと搬出されます。一度失った命が、来世で生まれ変わるという仏教の教えである輪廻転生のように、住宅の柱材・工事現場の土台柱として現世で役目を終えた木材に新しい命が吹きこまれ、パーティクルボード・ノボパンとして蘇るのです。

捨てられる予定だった木くずが、建築資材にも使える丈夫な木材に

続いてやってきたのは各地で製造されたチップが運ばれてくる日本ノボパン工業。ここでは「パーティクルボード・ノボパン」をつくるため、年間10万トンのチップを受け入れているのだそう。

敷地内には全部で3機のサイロがあり、24時間稼働しています

工場の入り口では、チップを一時的に貯蔵するサイロへと投入するため、最大60度に傾けられた搬入用のトラックが!迫力満点で、まるで遊園地のアトラクションやロケットの発射台のようでした。

チップ製造工場によって異物除去のレベルに差があるため、ここでも再び異物除去を行います。パーティクルボードに使えない木くずは熱エネルギーの原料として分別します。木くずをバイオマスボイラーで燃焼することで熱と水蒸気が得られ、熱は連続プレスの熱源として、水蒸気はドライヤーの熱源として利用されます。余った水蒸気で発電を行っており、工場で使用する電力の約25%が賄われています。

本ノボパン工業の工場で除去された石や金属などの異物

そして、このチップを実際に使える木質建材にする工程へ。薄く切削したチップを乾燥させ、含水率が等しくなるよう調整します。その後、のりづけを行い、表層・芯層・表層の3層構造になったマットを高温・高圧のプレス機で圧縮。ふわふわだった木くずが、丈夫なパーティクルボードへと生まれ変わります。

これから出荷されるパーティクルボードがずらり

最後は仕上げの作業。接着剤を硬化させて成型した原板を目標の厚みまで研磨し、製品サイズにカット。出来上がった製品は、検査・梱包され、建設現場や工場へ出荷されます。

リサイクルのその先に

屋外ばく露比較試験で10年以上雨風にさらされた様々な素材の板たち。木質廃棄物からつくられたノボパンも他の板と同じように形状を保っている

「パーティクルボード・ノボパン」は、戸建て住宅の耐震壁、およびマンションや戸建住宅の床下地や家具の材料として使用されています。従来、パーティクルボードは雨に弱いとされていましたが耐水性の接着剤を使用することで雨にぬれても使えるようになり、様々な場所での活躍が期待されます。

「ノボパンのパーティクルボードは、遮音機能に優れており、木造建築と一緒に使うことで遮音性能が低い木造の弱点を補完できるのではないかと。住宅を中心に使われることが多かったのですが、住宅以外の様々な建物でもパーティクルボード・ノボパンを使ってもらいたいと考えています」

そう語るのは、日本ノボパン工業株式会社 取締役生産本部つくば工場長の平岡次郎さんと営業本部営業推進部部長の服部和生さん。さらに木材再利用についての思いも伺いました。

「私たちは様々な場所から運ばれてきた木質廃棄物を再利用していますが、できることならしっかりと使い切った廃材であってほしいという思いがあります。大切に使われた木材がもう一度新しい役目を与えられて板へと生まれ変わる、そんなリサイクルだったらより環境にも優しいと思うんです」

必要以上に生み出されてしまったゴミをリサイクルしてもプラスマイナスゼロですが、しっかりと使い切った木材をリサイクルすれば環境にもプラスに働くといいます。

分別する、破砕する、異物を除去する、乾燥させる、糊付けしてプレスするといった工程を経るものの、改良を加えたシステム化や自動化によって今では省人化され、多くの手を加えなくてもリサイクル可能となった木質廃棄物。もとを辿れば森から生まれた自然由来の木材は、長年の努力の末工程がシンプルであったり、燃やしやすく熱利用しやすかったりと、リサイクル素材としても優秀だといえます。

使う段階からリサイクルしやすい木材を選ぶことは、環境負荷の低いエコロジーな選択に繋がることを教えてもらいました。

text:岩井美穂 photo:ココホレジャパン

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