こんにちは。お久し振りです。
キノマチウェブは特集三本立てのひとつとして「“木”のサーキュラー・エコノミー」を掲げましたが、建築においてサーキュラーエコノミーを考えるとその対象範囲の広さにどこから手を付けたらよいのか、また活動の成果というか、それをどう測ったらいいのか、なかなか雲をつかむようなところがあります。
そんな羅針盤を探し出したいような状況の中、僕的には貴重な情報がもたらされました。それは昨年9月12日(火)~15日(金)に京都で開催された日本建築学会大会でのできごとです。
理工学部建築学科出身の僕は、これまでもしばしば日本建築学会の年次大会に参加していました。日本建築学会とは1886年創立で現在会員数3万6千名余にのぼる建築に関わる学術団体のことで、「大会」とは日本各所で研究発表やシンポジウムが開催される学会一大イベントのことです。
今年、その学会大会の研究協議会「建築分野の脱炭素化を実現するための課題と展望」を覗いてみたんです。研究協議会の趣旨は以下のようなものでした。
『我が国は2050 年脱炭素社会の実現を 2020 年 10 月に宣言したことに続き、COP26(英国)に向けて 2030 年度の温室効果ガスを 2013 年度比 46パーセント削減する NDC(国が決定する貢献)を決定しました。
その中で、住宅・建築物から排出される二酸化炭素は約 32パーセント、材料、施工時の排出量を含めると 40パーセントを超え、その対策は非常に重要になっています。
このような背景のもと、 LCA 評価の取組み、アップフロントカーボン算出のための簡易手法の提案、脱炭素材料・構法の現状と導入促進、脱炭素建築の現状とインセンティブ付与等についての話題提供を行うとともに、具体的なアクションを明らかにしたい』
つまり、住宅・建築物から排出される二酸化炭素が材料、施工時を含めると全体の40パーセントを超えている。今、声高に叫ばれている脱炭素社会の実現に向けて建設関係者の責任が本当に重大であって、単に建設業として新築建物の施工時に発生するカーボン(アップフロントカーボン)だけでなく、より原材料や部位製作を含めた川上、さらに川下としてのメンテナンスや解体も含めた全体(エンボディドカーボン)を対象にする必要がある、ということなんです。
それはその通りなんですが、特にその枠組みとして既に10年以上も前から欧州規格Euro Norm(EN)では建築製品の環境宣言に関するEN15978(*図1)が整備されている、ということがショッキングでした。
(ヨーロッパは進んでいる、というより自身のアンテナ鈍化!)
この枠組図がとてもわかりやすい。分類の番号まで振ってあります。確かにこの図を見ているとカーボン全体の流れが建築の一生と共によく理解できます。さすがにデザイン、技術だけでなく、エネルギー問題についても専門家と一般的な市民目線の人々を結び付けている日本建築学会で取り上げるだけのことはあります。
また、よく目を凝らして枠組みを見てみると、エンボディドカーボンの外にあるカーボンもあります。それは図の中でグレーに色付けされている、使用時におけるオペレーショナルカーボンです。
エンボディッドカーボンは形のある建築に内包される全体としてアップフロントカーボンを含み、目に見えない、空調や電気といったオペレーショナルカーボンをわけて別領域になっています。冒頭で示したように今年の特集三本立ての「いの一番」として「”木”のサーキュラー・エコノミー」を掲げましたが、活動としてこの枠組みを使わない手はないですよね。
その枠組みを意識した際にエンボディッドとオペレーショナルの両方に優れたキノマチ都市木造建築がエアポケットとなっていた中国地方の広島に生まれた、というのが今回のコラムの主題です。
前者については地元産材を使用し、鉄やコンクリートに比べて遥かに軽量の準耐火木造建築によって部材製品化時CO2(A1~A3)や建設及び終焉時の運搬CO2発生(A4,C2)を抑制し、並行して後者としては高断熱の外装的工夫や地中熱を利用した循環システムなど(B6,B7)によって「ネットZEB」(100パーセントエネルギー自律)建築として建っていた。
今回のコラムはそのプロジェクトの前振りです。キノマチウェブでは後日、その中国地方に生まれた革新的な建築といえそうな、プロジェクトを取り上げたいと思っています。
*図1内の各分類項目の和訳
<Embodied Carbon>:建物内包の総発生カーボン
<Upfront Carbon>:新築時発生カーボン
「製品化」:A1原材料供給、A2運搬、A3製造
「建設」:A4運搬、A5建設、設置過程
「使用」:B1使用、B2保守・保全、B3修理、B4交換、B5改修
<Operational Carbon>:運用時発生カーボン
「運用」:B5運用エネルギー、B6運用水
「終焉」:C1解体・取外し、C2運搬、C3分別、C4廃棄
(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。