翌日には、北海道天塩町から南の名寄市を経由して、さらに南の士別に向かいました。
昨年、道産木(トドマツ)によるCLTでによる(株)本社を建築した、株式会社イトイグループホールディングスを訪問するためです。
オフィスに入ると、内部のスパンは10メートルくらいで、床も壁もCLTで形成された非常にスッキリしたモノコック構造です。
引き板7枚を交互に直交させて積層接着したCLTを構造床としていますが、その下に照明が組み込まれるスリット状の部分を残し、さらに5枚積層のCLTがたわみ防止材として組み合わされています。
木製家具と相まってインテリアとしての木のボリューム感、存在感は圧巻ものです。外に積もった雪からの反射光が室内の木造の天井と壁面を暖かく照らし、まさに自然の中の執務室になっています。新たな発想が生まれそうだし、なによりも健康によさそう!
一方で、外部の敷地内に暖房用のバイオマスボイラーを設置し、暖房は流木と天塩川周辺から切り出した伐木を粉砕したチップによるバイオマス発電でまかない、廃棄物やCO2排出量の削減にも取り組んでいる、とのことでした。イトイグループホールディングス経営陣の方々の強いリーダーシップを感じました。
まさに企業理念の「Make many Good for you」を地でいくような、僕たちにとっての森林資源(道産木活用)と地域経済(CLT製作とバイオマス発電)が連鎖する、「森林グランドサイクル®」の見本のような循環が実践されていました。
でもひとつだけ、地域経済としては補強が必要な部分がありました。それは現状、北海道にはこれだけ大きなCLT部材をつくることができる製作工場が存在せず、北海道から西日本へ木材を運んで木材加工せざるを得なかったという点です。
ここに、持続可能なサプライチェーンとしてより強靭さが求められる鎖があるようです。
製作工場の立ちあげには需給バランスが強く関わってきます。これまでの木造住宅に留まらず、イトイグループホールディングス本社ビルのような非住宅の木造化、ロングスパンでの木造化が進むことが需要を喚起し、木加工製作工場や先の建設機械への投資意欲、といった供給基盤の整備につながっていくのです。まさに森林資源サプライチェーンのリジェネレーション!2050年までまだまだ30年くらいあります。
(語り手)キノマチウェブ編集長
樫村俊也 Toshiya Kashimura
東京都出身。一級建築士。技術士(建設部門、総合技術監理部門)。1983年竹中工務店入社。1984年より東京本店設計部にて50件以上の建築プロジェクト及び技術開発に関与。2014年設計本部設計企画部長、2015年広報部長、2019年経営企画室専門役、2020年木造・木質建築推進本部専門役を兼務。